第131話 プロポーズ
「え……!?ぼ、僕とフェリシアーナ様が手を、ですか……!?」
「えぇ……パーティーを共にしている異性と手を繋ぐのは、王族や貴族の間ではよくあることだから、私もルクスくんと手を繋ぎたいと思ったのよ」
本当はパーティー中などということは一切関係なく、ただただルクスと手を繋ぎたいだけだが、第三王女フェリシアーナから突然何の前置きもなくそんなことを言われたらルクスが混乱するだろうと考えそう説明した。
すると、ルクスは困った表情で口を開く。
「い、異性……でも、僕なんかと手を繋いで歩いてるところを見られたら、フェリシアーナ様が────」
「私はルクスくんのことをとても素敵な男性だと思っているわ……だから、この場で重要なのは、ルクスくんが私と手を繋ぎたいと思ってくれるかどうか、ということだけよ……私と、手を繋いでくれないかしら?」
そう言って、シアナはルクスに手を差し出した。
第三王女フェリシアーナとしての、純粋なルクスへのアプローチ……これを断られてしまったら、シアナはかなりの精神的な痛手を負うことになるが、もしルクスがこれを受け入れれば────間違いなく、第三王女フェリシアーナとルクスの関係性は、今までよりも進む。
それから数秒の沈黙の間、シアナは緊張を胸に走らせていたが────その数秒の沈黙の後、ルクスはシアナと手を繋いだ。
────ルクスくん……!
「ありがとう、ルクスくん」
「い、いえ!僕の方こそ、ありがとうございます!こうして手を触れ合うのはダンスの時以来、ですね」
────本当はメイドのシアナとしてもルクスくんと手を繋いでいるのだけれど……今は、そういうことにするしか無いわね。
「そうね……それじゃあ、歩きましょうか」
「はい……!」
手を繋いだ二人は、再度豪華客船内を歩く足を進め始めた。
「……」
シアナは、ここで恋人繋ぎをするのは少し大胆かもしれないと考えたが────それでも、この後でルクスに恋愛感情を伝えるのであればそんなことも言っていられないと判断し、ルクスと繋いでいる手を通常の形から恋人繋ぎの形へと変化させた。
「えっ……!?」
ルクスは、その手を繋ぐ形の変化に驚きの声を上げると、続けて言った。
「フェ、フェリシアーナ様、この手の繋ぎ方って────」
「嫌だったら、解いてくれても良いわ……けれど、私はこの繋ぎ方で、ルクスくんと手を繋ぎたいのよ」
「い、嫌なんて言うつもりはありません!フェリシアーナ様がそう仰るなら、僕も、この繋ぎ方で大丈夫です……!」
シアナの言葉を聞いたルクスは、少し照れた様子がありながらもそれをどうにか抑えるようにしながらそう言った。
────本当に優しい男の子だわ……優しくて、努力家で、真面目で……私は、そんなルクスくんのことをこれからもずっと誰よりも近くで支え続けていきたいのよ。
「……ルクスくん、これから二人で甲板に出て夜風に当たりに行かないかしら?」
「わかりました!行きましょう!」
「ありがとう」
シアナの提案に対して、ルクスは笑顔でそう答えた。
シアナは、そのルクスの表情を見て幸せを感じながらもルクスと一緒に足を進めると────階段を登って、甲板へ出た。
「ここよ」
シアナがルクスにそう伝えると、その甲板を見たルクスが大きな声で言う。
「こ、ここが甲板なんですか!?水遊び場のようなものや、綺麗なランプに椅子とか机とか、色々あるみたいですけど……」
「豪華客船の甲板では、夜の海を楽しみながらこういった場所で過ごしたりするのよ……今は誰も居ないみたいだけれど、ここだと少し落ち着かないからあっちへ行きましょうか」
「は、はい!」
シアナがそう言うと、シアナとルクスは目立つ甲板から少し離れて、夜の海を眺めるために作られたスペースへやって来ると、二人で夜の海を眺める。
「綺麗な月の光が海の水面に反射して、とても綺麗ですね……」
「そうね……」
それから少しの間静かに二人でその綺麗な夜の海を眺め、夜の風に当たる。
そして、少ししてからシアナはルクスと繋いでいた手を離すと、ルクスの方を向いた。
「フェリシアーナ様……?」
そのシアナの行動を疑問に思ったルクスも、疑問を抱いたままシアナの方を向くと、シアナは優しい表情で言った。
「ルクスくん……私は本当に、ルクスくんと居る時間が大好きだわ……そして、今日はそんなルクスくんに、伝えたいことがあるのよ」
「僕に……伝えたいこと、ですか?」
シアナがこれから何を言うのか全くわかっていないルクスに対して、シアナはそれでもハッキリと伝えた。
「ルクスくん、私……第三王女フェリシアーナと────婚約してくれないかしら」
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