第130話 願望

◇バイオレットside◇

 尋問を終えてエリザリーナの手によって五人の骸ができたため、その骸の処理を済ませると、エリザリーナとバイオレットは客室から出てルクスとフェリシアーナのことを探すべく豪華客船内を歩いていた。


「バイオレットのフード汚れちゃってごめんね〜、あの女と話してるの不快すぎたからできるだけ早く終わらせたくて配慮してなかったよ〜」


 エリザリーナの処理によって、バイオレットの着ていた黒のフードに赤の飛沫が飛んでしまったため、普段通りの雰囲気に戻ったエリザリーナはそのことをバイオレットに謝罪した。


「問題ありません、下にはメイド服を着ておりましたので、これからはお嬢様の侍女としてこの豪華客船内を動かせていただこうかと思います」


 現在、バイオレットは黒のメイド服姿で、エリザリーナもバイオレットと同様着ていた赤のフードに赤の飛沫が付着していたため第二皇女エリザリーナとしてのドレス姿となっていた。


「そっかそっか〜……ところで、一つ気になってることがあるんだけど良い?」

「何でしょうか」


 バイオレットがそう返事をすると、エリザリーナは足を止めてバイオレットに聞いた。


「バイオレットも、ルクスのことが好きなの?」


 そう聞かれたバイオレットは、思わずエリザリーナと同じように足を止める……そして、それに対して聞き返す。


「……どうしてそのようなことを?」

「ほら、王城のエントランスの時、フェリシアーナが暴走したら止めるのがバイオレットの仕事なのに、バイオレットも感情的になってるって言ってたから……あ、勘違いしないでね?別に怒ってるとかじゃなくて、本当にただ気になってるだけだから」


 ここで何も答えないことも、嘘を吐くこともできるが────エリザリーナにそんなことをしたところで、見破られてしまう可能性の方が高い。

 そして、何より────ここで自らがルクスに抱いている感情を隠してしまえば、今後このルクスへ抱いている感情が後ろめたいものになってしまいそうだったため、バイオレットは頷いて答えた。


「はい……僭越ながら、私もロッドエル様にそういった感情を抱いています」

「え〜!!」


 バイオレットがそう答えると、エリザリーナは驚きの声をあげて続けて言った。


「自分で聞いたことだけど流石に驚いたな〜、あのバイオレットが恋愛感情を抱くなんて……っていうことは、バイオレットもルクスと婚約したいの?」

「いえ、私はそのようなつもりは……ただ、少しの間だけロッドエル様とのお時間を過ごさせていただければ、それ以上望むものはありません」

「本当かな〜?本当はもっと望んでるんじゃない?」

「……そのようなことは、ありません……エリザリーナ様も、ロッドエル様にそういった感情を抱かれているのですよね?」


 そう聞かれたエリザリーナは、頬を赤く染めて言った。


「うん、大好きで大好きで堪らないよ、毎日夢に見るし起きてる間もずっとルクスのこと考えてるぐらい」

「それほどまでに……でしたら、エリザリーナ様はロッドエル様とどのようなことをしたいといった望みはあるのですか?」


 そんなバイオレットの問いに対して、エリザリーナは間を開けずに答えた。


「婚約は大前提として、一緒にご飯食べたり手繋いだり夜は一緒にお風呂入ったり……それで、お風呂に入ったら────って、この後は言わなくてもわかるよね」

「……はい、なんとなく、ですが」

「うんうん、で、どう?参考になった?」

「私はこれまでの人生、自らがそれらのことをするという想像すらして来ませんでしたので、正直まだよくわかりません……が────ロッドエル様は、私と食事をしたり、その他のことなどをして、幸せだと……感じてくださるのでしょうか」

「それは実際にバイオレットとルクスが二人でそういうことをしていかないとわからないことだよ……あと、ここまで話しておいてなんだけど、ルクスは私のルクスだからね!!」


 そう言うと、エリザリーナはルクスとフェリシアーナのことを探すべく再度足を進め始めた。

 ────先ほどエリザリーナ様に聞かれた時は否定してしまいましたが、私はロッドエル様と共に時間を過ごすというだけでなく、確実にそれ以上のものを望んでいます……ロッドエル様に求められたいと。

 バイオレットは、そのことに頭を巡らせながらエリザリーナの後ろに続いて豪華客船内を歩き始める。

 ────ですが……ロッドエル様が私などと共に時間を過ごし、幸せを感じてくださることが……私には想像できないのです。

 そう考えた後で、バイオレットは自らの感情を感じとり、心の中で呟いた。

 ────それでも……ロッドエル様、私はあなたに女性として求められたいのです……このような願いを持つ私と一緒に居ても、あなたは幸せだと感じてくださるのでしょうか……?



◇シアナside◇

 ────同じ頃。


「ルクスくん……手を、繋いでも良いかしら……?」


 シアナは、ルクスに手を繋ぎたいと申し出ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る