第129話 傍
◇シアナside◇
シアナは、ルクスのことを抱えながら豪華客船内の廊下を歩き、眠っているルクスのことを見る。
尋問が目的であったのであれば、それほど時間が経たない間にルクスは目を覚ますだろう……が、それでも、ルクスが害されたことに変わりはない。
「今回が睡眠薬だったから良かったけれど、これがもし毒薬とかだったとしたら、今頃ルクスくんは……」
そんな想像をすると、シアナは廊下を歩いている間自責の念が堪えなかった。
そして、そのまま廊下を歩き、階段を登って先ほどの部屋からある程度距離のある客室の中に入ると、ルクスのことをベッドの上で眠らせた。
「ルクスくん……」
シアナは、ルクスの頬に手を添えてルクスの名前を呼ぶ。
「今回ルクスくんがこんなことになってしまったのは私のせいなのね……私とルクスくんがこの豪華客船の上で関わっていなかったら、あの女だってルクスくんにこんなことをする理由なんて何も無かったもの」
今まで、ルクスに害を為す人間が居たらその人間のことを許せないと、シアナは処罰することを考えていた────だが。
もし、自分がルクスの傍に居るせいで、ルクスが傷つけられてしまうのだとしたら……
「私は……こんなにもルクスくんのことを愛しているのに、ルクスくんの傍には、居られないのかしら……居ては、いけないのかしら……」
第三王女フェリシアーナ……その名は、ルクスの傍に居続け、ルクスと幸せになるにはあまりにも重たすぎる名。
その名を捨ててルクスと幸せになれる道があるのであれば、シアナは喜んでその道を歩むが、そんなことはできない。
「ルクス、くん……」
シアナは、自責、後悔、不安などの感情から顔を俯けて涙を流した。
父である王、母である王妃、姉である第一王女レザミリアーナ、姉である第二王女エリザリーナといった家族の前でも流せない、ルクスのことで、ルクスの前だからこそ流せる涙。
シアナが少しの間顔を俯けて涙を流していると────
「あれ……シアナ?」
目を覚ましたルクスが、シアナのことを見てそう呟いた。
「シア……ナ?」
が、シアナはそのルクスの言葉に驚く……何故なら、今シアナは第三王女フェリシアーナとしてこの場に居て、髪型や服装もメイドの時のシアナではなく第三王女フェリシアーナとしてのものとしているからだ。
シアナが驚いていると、ゆっくりと上体を起こしたルクスがシアナの顔を見てどこか朧げな声で言った。
「シアナ……?どうして泣いてるの?」
そう聞かれたシアナは、今ルクスの意識が朦朧としている……簡単に言えば、寝ぼけている状態だと気付き、シアナとして振る舞うことはせず本来のフェリシアーナとして言った。
「私のせいで、ルクスくんが……」
「シアナのせいで、僕が?」
「……私は、ルクスくんの傍に居ても良いのかしら」
何の前置きも無くこんなことを伝えても意味が無いことなど、シアナにはわかっていた……わかっていたが、そう聞かずにはいられなかった。
すると、そう聞かれたルクスはシアナの頬に伝う涙を拭って笑顔で言った。
「もちろんだよ、むしろシアナが傍に居てくれないと僕が困るから、シアナにはずっと傍に居て欲しいな」
「っ……!ルクスくん!」
そう言われたシアナは、ルクスのことを抱きしめた。
ルクスは、まだどこか朧げな様子でシアナのことを抱きしめ返すと、そのまま片手でシアナの頭を優しく撫でながら言う。
「そうだシアナ……僕、今度剣術大会に出ることになったんだ……その時はシアナにかっこいいところを見せたいから、良かったら応援に来て欲しいんだけど、応援に来てくれるかな?」
そう聞かれたシアナは、嬉しそうな声音でさらに涙を流しながら言う。
「えぇ、私がルクスくんのことを、誰よりも応援してみせるわ」
「本当?嬉しいよ……あと────」
それから、少しの間シアナは朧げな意識のルクスと言葉を交わした。
そして、ルクスの意識がハッキリとしてきた頃にはシアナの涙も収まっていた。
「……あれ?フェ、フェリシアーナ様!?」
「……どうしたのかしら?ルクスくん」
意識がハッキリとしたルクスは、そう驚いた声を上げると、シアナのことを抱きしめていた手を離してシアナから距離を取り慌てた様子で言った。
「す、す、すみません!僕、さっきまでシアナと……あれ?」
「ふふ、夢と混同してしまっていたんじゃ無いかしら?寝起きだとそういったこともあるそうよ」
「そ、そうなんですね……僕、確か豪華客船パーティーに来てて、それで……寝起き?僕、もしかして寝ちゃってたんですか!?」
「可愛い寝顔だったわよ」
シアナが小さく笑いながらそう言うと、ルクスは顔を赤くして照れたようにしながら言った。
「ご、ごめんなさい……!フェリシアーナ様のことを抱きしめてしまったり、それに加えてパーティー中に眠ってしまったりして……」
「別に気にしなくても良いわ、さっきも言ったけれどルクスくんの可愛い寝顔を見れたもの」
「っ……!そ、それは忘れてください!」
シアナは、そのルクスの可愛らしさを感じる反応に愛らしさを覚えた。
……ルクスが睡眠薬を飲まされて眠っていたことは、ルクスには伝えない。
シアナの望みは、ルクスがそういった暗いものに触れずに幸せに生きていって欲しいというものだからだ。
「そうだわルクスくん、これから二人で豪華客船内を見て回らないかしら?」
シアナがそう聞くと、ルクスは嬉しそうな表情で言った。
「っ!是非お願いします!」
「えぇ、行きましょう」
その後、ルクスとシアナは二人で楽しく豪華客船内を歩き始めた。
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