第128話 他国の王女
◇バイオレットside◇
バイオレットは、薬により眠らされてしまったルクスが複数の人物によってどこかへ連れられているのをしっかりと尾行していた。
「一つ一つの客室には防音機能が施されていると言うのに、あの方達は随分とパーティー会場からお離れになるのですね……それほど徹底して人に見られたくないと思うほど、ルクス様に手荒なことをしようとしているということでしょうか」
バイオレットは右手に握り締めた短刀を握る力を強めながらそう呟いた。
バイオレットの力量であればルクスのことをどこかへ連れて行こうとしている人間たち全員を相手にしたとしても殲滅は可能だが、相手の目的がわからない状態でそんなことをしても今後のことを考えれば根本的な解決にはならない。
そして、情報を聞き出すために動きを拘束するとしても、それだけでは万が一眠っているルクスに危害が加えられてしまう可能性がある。
「ルクス様の身が、何よりも安全すべきこと……」
だが、だからこそ、バイオレットは今すぐにでもルクスのことを助けたい気持ちを抑えて尾行するしか無かった。
そして、やがてそれらの人物たちはある一つの客室の前で足を止めると、そのドアを開けた────その瞬間。
バイオレットは、そのドアの上部の空いた空間からその部屋の死角となる場所を見つけてそこに潜むと、一人の女性と複数、正確には四人の男性がルクスを連れてその部屋の中へ入ってきた。
そして、ルクスのことを床に置くと一人の女性が言った。
「全く、この私がわざわざこんなお子様のような男の相手をしてあげないといけなくなる羽目になるなんて思いもしませんでしたわ」
「こいつがあの第二王女エリザリーナや第三王女フェリシアーナと関わりがあるってんなら仕方ねえでしょう」
「はぁ、王族の私にこんな程の低いことをさせるなんて……エリザリーナにもフェリシアーナにもこの恨みはたっぷり返さないといけないけど、まずはこのお子様からですわね」
────王族……つまり、どこかの国が本国と戦うための情報を必要としてこのようなことを行なっている、ということですか。
「このガキ、起こしますかい?」
「あの睡眠薬で眠らせて無理やり起こしたら、起きてもしばらくの間意識が朦朧とすることがあるらしいから面倒だけど待たないといけないんですのよ」
「そいつは面倒ですね……何しろこっちの目的は尋問、このガキがあの完全無欠の王女たちの弱みを何か知ってるかどうか聞き出さねえといけねえんだから」
「その通りですわ」
────目的はお嬢様たちの弱みを握るための尋問……あとはどの国の王族の方なのかということですが、それは服装を回収すればすぐにでも分かることでしょう。
もはや、バイオレットに己の感情を抑え込む理由は無くなり────その直後、バイオレットは目を鋭くして瞬時にその五人の背後に回り、そのうち四人の男性の首元を強く刺激してその場に気絶させた。
「っ!?な、なんですの!?」
他国の王族らしき女性がそう驚いている間に、バイオレットはその他国の王女の動きを拘束して首元に短刀を添えて口を開いた。
「あなたの国の名前を────」
そう問いただそうとした時、突然ドアが開いたかと思えば────
「あら、もう大方終わっているのね」
「流石だね」
そこから、シアナとエリザリーナが姿を現したため、バイオレットは一度その他国の王女を問いただすことをやめると、シアナとエリザリーナに向けて言った。
「お待ちいただくよう記させていただきましたが、来られたのですね」
「私が来ることを予測して道中に印を残していたあなたが言える言葉じゃないわね」
「あれは、万が一私が失敗してしまった時ようのものです」
「どうかしらね」
シアナは呆れたような声でそう言うも、すぐに虚ろな目と無機質な声でバイオレットが拘束している女性を見て言う。
「それで?この女がルクスくんのことを攫った女?」
「はい、どうやら他国の王族の方のようです」
「……へぇ」
「ひっ……!」
バイオレットがシアナにそう伝えると、シアナがそう声を漏らし、他国の王女は恐怖の声を上げた。
次に、エリザリーナが周りで倒れているルクス以外の四人の男性を見て言う。
「バイオレット、この四人の男たち息があるみたいだけど、どうして生かしてるの?まさかあのバイオレットがこんなやつらの命を奪うことに躊躇した、なんてわけじゃないよね?」
エリザリーナが虚ろな目を向けてバイオレットにそう聞いた……通常であればその目を見ただけでこの他国の王女のように畏怖を抱いてしまうものだが、バイオレットは特に動揺することなく言う。
「そういうわけではありませんが、この場で命を奪うと少し離れているとはいえそこでお眠りになられているルクス様にまで鮮血が飛び散ってしまうと判断し、命を奪うのではなく気絶させるという判断に至りました」
「あぁ、それは確かに良い判断だね、間違ってもこんなやつらの血がルクスの体に付着しちゃったら大変だし」
そう言うと、エリザリーナはルクスのことを床ではなくベッドの上に移動させると、この他国の王女の前に移動して言う。
「それで……この女の目的は?」
「お嬢様とエリザリーナ様の弱みを、ルクス様から聞き出そうとしたようです」
「……へぇ」
「ひっ……!」
続けてエリザリーナが王女らしき女性に虚な目を向けると、この他国の王女はその二人に恐怖を感じて慌てた様子で言った。
「お、お許しくださいま────」
「ルクスくんはさぞかし簡単に騙せたんじゃないかしら?こういった場で他人から出された飲み物を飲まないなんて常識中の常識だけれど、ルクスくんにはそもそも人を騙すなんて観点が無いからきっと勧められたら純粋な気持ちでそれを口にしてしまうもの……あなたはそのルクスくんの純粋な気持ちを利用したのよ、許し難いわね」
「私たちに用事があるんだったら私たちに対して直接仕掛けてくれば良いのに、その周りからなんて本当タチが悪いよね……しかもルクスみたいな優しい子を利用してなんて……あり得ない」
二人からそんな声を聞かされ、もはや自らがどのような態度を取ったとしても状況が好転しないことを予期した他国の王女は、恐怖を抱きながらもそれを僅かに残ったプライドで隠すようにしながら言った。
「少し下手に出ていれば……他の国では類を見ないほどに統制の取れた優れた国を作っている三人の王女がどんな人物なのかと思えば、そのうちの二人がこんなお子様に惚れ込んでいるとは思いませんでしたわ……それよりも取引しませんこと?私は王女ですのでこのお子様よりも────」
他国の王女がそう言いかけた時、シアナは無感情に剣を抜くとその他国の王女の命を奪おうとした────が、エリザリーナはフードの中に携えていた鋼鉄製の弓でそれを受け止める。
「邪魔よ、エリザリーナ姉様」
「邪魔なのはフェリシアーナ、私もイラついたけどそういうのはちゃんとやることやってからにしないと」
「……不愉快ね」
そう言いながらも、エリザリーナの言葉に納得したのかシアナは剣を鞘に収めると、ベッドの上で眠っているルクスのことを抱えて言った。
「この場はエリザリーナ姉様とバイオレットに任せるわ……わかっていると思うけれど────」
「心配しなくても、私が躊躇なんてするわけないでしょ?フェリシアーナがしたいことはちゃんと私がやっといてあげるから、今はひとまずルクスのことを安全な場所に連れて行って」
「……ならいいわ」
そう言うと、シアナはルクスのことを抱えてこの客室を後にした。
すると、他国の王女が口を開いて言う。
「フェリシアーナというのは冷静で大局を見れる才女だと聞いていましたのに、感情の制御もできないとはまだまだ子供ですわね……その点、あなたは────」
「誤解しないでくれる?私だって、本当なら今すぐに君の命をどうこうしたいぐらいだけど、これはフェリシアーナにはできないから仕方なく私が我慢してあげてるの……」
「ひ……ぃ……っ!」
そのエリザリーナの虚な目や無機質な声音、殺意という表現すら超えてしまった無の雰囲気に、他国の王女はもはやプライドすら保てずにそんな声を漏らした。
そして、エリザリーナは無機質な声で告げた。
「じゃあ、今から私が聞くことに対して注意を払って答えてね、もし嘘吐いたりしたら────その時は、痛い目を見た挙句命を失うことになるから」
そう告げられたその他国の王女は顔を青ざめ、僅かに残ったプライドすら打ち砕かれて感情が完全に恐怖によって埋め尽くされた。
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