第123話 緊張
◇ルクスside◇
豪華客船パーティー当日。
僕は、馬車に乗って手紙でエリナさんに伝えてもらった豪華客船パーティーが行われるという港までやって来ていた。
豪華客船パーティーが開始されるのが夜の19時で、今はそれよりも少し前だからちょうど良いぐらいの時間だろう。
僕は港で商売をしている人たちのことを見ながらエリナさんとの待ち合わせ場所に向けて足を進めて呟く。
「……普段も港を見る機会なんてほとんど無いけど、夜の港なんて特に来る機会が無いからなんだか新鮮な気持ちになって楽しいな」
そんなことを思いながらエリナさんとの待ち合わせ場所に向けて足を進め、エリナさんとの待ち合わせ場所に到着すると────そこには、赤のフードを被った人物……エリナさんの姿があった。
「ルクス~!」
僕が着たことに気付いたエリナさんは、僕の名前を呼んで僕との距離を縮めてきた……今から他国の王族や貴族の人も招く豪華客船パーティー、それもエリナさんはそのピアノ弾きとしての役目もあるというのに、特に緊張した様子はなくいつも通りの様子だった。
「こんばんは、エリナさん」
「こんばんは!夕方から夜になるぐらいの時間帯に会ったことはあったけど、こうして今から夜になるっていう時間帯にルクスと会うのは初めてだね」
「そうですね……普段からあまり夜外に出るような機会が無いので、今は港っていう場所だったりこれから豪華客船に乗るっていうことも含めて、とても新鮮な気持ちでいっぱいです」
「そうなんだ~!でも、ルクスは今後もあんまり夜とか出歩いちゃダメだよ?この国に表立った内乱とかは無いけど、夜は悪い人が居るかもしれないからね~」
「それは怖いですね、気を付けます」
僕がエリナさんの言葉を受け止めて軽くそう返すと、エリナさんは言った。
「いずれ、ルクスがそんなこと何も気にしなくても楽しく暮らせるような国を、私が作ってあげるからね……」
「エリナさん?何か言いましたか?」
その声がとても小さく聞き取れなかった僕がそう聞き返すと、エリナさんは首を横に振って両手を後ろに回して言った。
「ううん、何も言ってないよ!それより、そろそろ豪華客船行こっか!」
「はい!」
ということで、僕とエリナさんは一緒に港を歩き────少ししてから、エリナさんは左手をある方向へ向けて言った。
「見えてきたね、あれが私たちが今から乗る豪華客船だよ!」
そう言ってエリナさんが指を指した方向にあったのは────文字通り、豪華客船だった。
「あ、あれに、今から、僕たちが……」
僕は、思わずその豪華客船の大きさに驚かされる……普通の船の何十倍も大きく、船の上には客室と思われる窓が数百、下手をしたら千を超える数がある。
「乗るのが始めてだったら緊張すると思うけど、ルクスには私が居るから平気だよ!もし何か困ったことが合ったらなんでも私に言ってね!」
「あ、ありがとうございます、エリナさん」
もし僕一人だったら間違いなく委縮してこの豪華客船の中に入るなんてことはできなかったと思うけど、フードの中から優しい笑顔を覗かせてくれているエリナさんが僕の隣に居てくれるなら、きっと大丈夫なはずだ。
僕は、そのままエリナさんと一緒に豪華客船の前までやって来ると、僕たちは一度立ち止まった……僕がその豪華客船を見てその場に立ち尽くしていると、エリナさんが優しく聞いて来る。
「ルクス、やっぱり緊張する?」
僕は、そんなエリナさんのことを心配させないために言う。
「……大丈夫です、ありがとうございます」
そう答えた僕だったけど────エリナさんは間を空けて言った。
「私に嘘なんて言っても意味ないよ、むしろ嘘吐かれちゃうほうが色々と心配しちゃうし……本当は緊張してるよね?」
……ここまで言われたら素直に認めるしかないため、僕がそれに対して頷くと、エリナさんは優しい表情をフードから覗かせて僕に手を差し伸べて言った。
「じゃあ、手出して?手繋いであげるから!」
「手、ですか!?そ、それは────」
僕が少し恥ずかしい気持ちになっていると、僕が手を出すまでもなくエリナさんは左手で僕の右手を握って来て言った。
「はい、これでもう大丈夫だね!」
「っ……!は……はい」
「うん、じゃあ行こっか!」
その後、僕とエリナさんは一緒に豪華客船の中へ入ると廊下を歩き始めた。
……僕は女性、それもエリナさんのような綺麗な人と手を繋ぐだけでこんなに緊張してしまうのに、エリナさんは特に動じていない様子だった。
やっぱり、エリナさんはすごい人だ……僕がそう思っていると、エリナさんは空いている右手で自らのフードを深く被った。
「……」
普段からあまり他の人に顔が見えないようにしてるみたいだったから、そろそろ大勢の人と会う可能性も考慮して深く被り直したのかな。
……僕もエリナさんに頼ってばかりじゃなくて、ちゃんと堂々としてないと!
僕は、心の中で自分に対してそう言い聞かせた。
◇エリザリーナside◇
────ルクスと手繋いでる、ルクスと手繋いでる!!え、どうしよう、今日もうこれだけで満足、ていうかもしかしたら恋人繋ぎとかしてもバレない?え、嘘、良いの?本当に!?え、どうしよう!?顔絶対赤くなってるからフード深く被り直して良かった!!ていうか……ルクスと手繋いでるこの時間、幸せすぎ!!廊下ずっと続いて!!お願い!!
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