第121話 一言
「……現状を整理すると、王女としてルクスくんと良好な関係を築いていて、メイドとしてはこれ以上無いほどにルクスくんとの距離を縮めているわけだけれど、いよいよそれら今までの準備段階を終えてこの気持ちを表立ってルクスくんに伝えていく必要があるときがやって来た、ということね」
「その通りでございます」
シアナの言葉を聞いたバイオレットは、そう言って頷いた。
────今まで、一つ一つの出来事全てに緻密な計画を立ててそれを実行したおかげで、私とルクスくんの関係性はとても深いものになっているわ……あと必要なものがあるとすれば、第三王女フェリシアーナとしてのもう一押しね……それなら。
「バイオレット、近々他国の王族や貴族を来賓に迎え、各々の国との親睦を深めることを目的とした豪華客船パーティーがあったわね」
「はい、今から一週間後ほどと記憶しています」
「私は、ルクスくんとあのパーティーに参加して……ルクスくんとの関係性をあと一押し、もしくはそういう雰囲気にすることができたら────私は、ルクスくんと婚約したいという意思を、ルクスくんに直接伝えるわ」
「……確かにあの場であれば雰囲気も作りやすく、良い考えだとは思われますが────あのパーティーには、エリザリーナ様もご参加なされたはずです」
「えぇ、その通りよ……けれど、エリザリーナ姉様はピアノを弾くという役目もあるから、その間に私はルクスくんと抜け出すのよ」
「……承知致しました、お嬢様」
バイオレットは、どこか浮かない表情でそう答えた。
その表情が気に掛かったシアナは、そんなバイオレットに対して言う。
「何か思うことがあるのなら遠慮なく言っても良いのよ?今まであなたの意見によって助けられたこともあったし、何よりも私とあなたの仲なのだから」
シアナにそう言われたバイオレットは、少し間を空けてから答える。
「思うところ、というわけでは無いのですが……お嬢様は、ロッドエル様に……思いを、伝えることができるのですか?」
「今更何を言っているの?できるに決まっているでしょう」
「そう、ですか……」
シアナが今までルクスに自らの気持ちを伝えて来なかったのは、まだその段階に達していなかったからだ……が、豪華客船パーティーという状況を利用して何かしらの形でもう一押しすることができれば、シアナがルクスに気持ちを伝えることができなくなる理由は無い……むしろ、ルクスと一刻も早く婚約をするためにシアナとしては早く伝えたい。
そんな考えから、バイオレットに聞かれたことに対して素直にそう答えると、バイオレットはどこか小さな声でそう答えた。
「あなたがそんなに弱気なのは珍しいわね、何か悩みでもあるのかしら」
「今お嬢様にロッドエル様へ想いを伝えることが可能なのかどうかをお聞きして、いざロッドエル様に思いを伝えることを想像して思い至ったことなのですが……私はきっと、お嬢様のようにロッドエル様に直接思いを伝えることができません……あの優しいルクス様に、拒絶されたらと思うと……」
そう珍しく悩む姿を見せたバイオレットに対して、シアナは間を空けずに普段通りの口調で言う。
「別に、あなたがルクスくんにその思いを伝えようと伝えまいと……いえ、むしろあなたがルクスくんにその思いを伝えない方が私にとってはありがたいから、あなたの背中を押すようなことは言いたく無いのだけれど……私はあなたのことを妹のように思っているから、一言だけ伝えておくわね」
そう言うと、シアナはバイオレットに優しい表情を向けて優しい声音で言った。
「バイオレット、これからの人生、後悔の無いように自らが幸せになれる道を生きていきなさい……私が伝えてあげられるのは、これだけよ」
「っ……!……ありがとうございます、お嬢様」
バイオレットは、そう言ってシアナに頭を下げた。
シアナも、バイオレットに伝えられたいことを伝えられて満足しかけた────が、バイオレットが頭を上げて言う。
「ありがたいお言葉を頂いた後でこのようなことを言うのも申し訳ないのですが……お嬢様、一つ申したいことを申させていただいてもよろしいでしょうか?」
「……何かしら」
「どうして私がお嬢様の妹、なのでしょうか」
「……え?」
突然のバイオレットの発言に困惑したシアナだったが、バイオレットは口を開いてその言葉を補足するように言う。
「お嬢様は先ほど、私のことを妹のように思っていると仰っていましたが……率直に申し上げれば、私はお嬢様の方が私にとっての妹のような存在だと思っているのです」
「な、何を言っているの!?」
「一つ例を挙げると、日頃ルクス様と話し終えたあと突然私に飛びついてきたりしていることでしょうか」
「そ、それは関係ないでしょう!?」
「いいえ、関係あります」
「……そういうことなら私だって言いたいことがあるわ!例えば────」
その後、シアナとバイオレットは、まるで本当の姉妹のようにどちらが姉、または妹らしいのかの言い合いを始めた。
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