第120話 大切

◇ルクスside◇

 ────四限目。

 剣術の授業、手合わせの時間……前剣術の授業があった時は、突然三対一で戦うことになったりして色々と大変だったけど、今日はそんな心配は必要無い。


「フローレンスさん!改めて手合わせよろしくお願いします!」

「はい、ルクス様……こちらこそよろしくお願いいたします」


 何故なら、今日の手合わせする相手はフローレンスさん……信頼できるなんて言葉だけでは足りないほどに、僕が信頼を置いている人だ。

 僕とフローレンスさんは互いに手合わせの挨拶をしながら持っている木刀を構えると……早速距離を縮めた。

 そして、互いの木刀を振り合うと────フローレンスさんが僕の木刀を受け止めて言った。


「ルクス様、私は防御の練習をさせていただきますので、ルクス様はどうぞご自由に私に攻撃なされてください」

「わかりました!」


 僕は、フローレンスさんに言われたとおりにフローレンスさんへ木刀を振り下ろす……けど、フローレンスさんはそれらを全て防いできた。

 フローレンスさんは、やっぱり剣も上手なんだ……でも、僕だって剣術大会でシアナの主人としてかっこいいところを見せないといけないんだ!フローレンスさんにだって負けてられない!

 そう心の中で意気込んで力強くフローレンスさんに対して木刀を振り下ろそうとしたところで────僕は、咄嗟に木刀を握る手の力を弱めた。

 すると、僕が木刀を握る手の力を弱めたことによって、受け止められた木刀は僕の真下に弾き落された。


「ルクス様、突然ルクス様の手の力が緩まったように見えましたが、どこかに不調がおありでしたか?ある程度の処置は心得ておりますので、仰っていただければ────」

「ち、違います!心配させてしまってすみません!」


 僕の動きの変化に気が付いてとても心配してくれるフローレンスさんにそう謝罪すると、僕はどうして木刀を握る手の力が緩まってしまったのか……木刀を握る手の力を緩めたのか、を口にする。


「フローレンスさんに本気で攻撃するってなると、少し気が引けて……それで、思わず力を緩めてしまいました……手合わせなのにこんな調子じゃダメですよね、本当にすみません!」


 そう言ってから、僕は急いで弾き落された木刀を拾うと、フローレンスさんが優しい声音で言った。


「ルクス様らしいとても優しいお答えですね……ですが、女性だからとそのように甘いご対応をなされていては、本番の剣術大会で足元をすくわれてしまうかもしれませんので、そのことはお気を付けください……ルクス様がそのお優しさのせいで痛い目を見てしまうところなど、私は絶対に見たくありません」


 そう言ってくれたフローレンスさんだったけど、僕はそんなフローレンスさんの言葉に対して首を横に振って答える。


「じょ、女性だからなんてつもりはありません……剣っていう武器を手にしている以上、男性にも女性にもそれぞれにしかない利点があるはずですから」

「そうなのですか……?でしたら、どうしてあのようなことを……?」


 そう純粋な疑問を投げかけてくるフローレンスさんに対して、僕は答えた。


「それは……手合わせの相手が、フローレンスさんだったからです」

「っ……!」


 いつも僕に親切にしてくれて、優しい人で、努力家で……間違っても進んで攻撃したいと思える人じゃない、僕にとって大切な人。

 そのため、僕がそう答えると、フローレンスさんは驚いたような表情をしてから頬を赤く染めた……僕は、すぐに間を空けずに言う。


「で、でも、いくらフローレンスさんのことが大切だからって、それも手合わせには関係無いことでしたよね、本当にすみません!次からはちゃんとするので────」

「ルクス様」


 フローレンスさんは、僕に近付いてくると僕の耳元で優しく微笑みながら優しい声音で言った。


「私も、ルクス様のことをとても大切に思っていますよ……私と、生涯を共に致しましょう」

「っ……!」


 そう言われた僕は、顔に熱を帯びながら少しだけ後ろに後退しながら言った。


「フ、フローレンスさん!ぼ、僕は、そういう意味で、言ったわけでは……」

「ふふ、わかっていますよ……私も、ルクス様にしっかりと攻撃できるかどうか、少し不安になりそうになってしまっていましたが……ルクス様、互いを大切に思うからこそ、互いを思い合いながら、全力で互いを高め合いましょう?」

「っ!はい!今度こそ、よろしくお願いします!」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 その後、僕とフローレンスさんは改めて木刀を構えると、今度こそ互いに木刀を斬り結び合った────



◇シアナside◇

 ルクスが今日の貴族学校から帰って来て、シアナがいつも通り出迎えを終えて自室へ入ると────


「お嬢様、少しよろしいでしょうか」


 黒のフードを被ったバイオレットがシアナの前に姿を現してそう話しかけてきた。

 それを聞いたシアナが口を開いて言う。


「バイオレット?あなたの方から話しかけてくるなんて珍しいわね……要件は何かしら」


 シアナがそう聞くと、バイオレットは言った。


「ロッドエル様の周辺を見張っている私の所見を述べさせていただきますと────この頃、ロッドエル様とフローレンス様の距離が急接近しており、エリザリーナ様もロッドエル様にとても積極的な様子でした……ですのでお嬢様、いよいよお嬢様も、ロッドエル様の従者として、そして同時に第三王女フェリシア―ナ様として、ロッドエル様に自らの恋愛感情を伝えていかねばならぬときがやってまいりました」

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