第119話 運命
◇ルクスside◇
エリナさんが突然馬車に入ってきて驚いたけど、それからは特に何かが起きることは無く、僕はいつも通り貴族学校に登校して自らの席に座った。
すると、すでに僕の隣の席であるフローレンスさんは席に着いていて、僕に挨拶をしてきた。
「ルクス様、先ほどぶりですね」
「フローレンスさん!先ほどぶりです!学校に登校する前に会ってるなんて、少し変な感覚ですね」
「ふふ、そうですね……それよりルクス様、上級生の間で話題になっているということで小耳に挟んだのですが、そろそろこの国で剣術大会が行われるようですよ」
「剣術大会……名前だけは聞いたことがあります、確かこの国、そして他の国の王族の方々が主導して最強の剣術使いを決めるんでしたよね」
僕がそう言うと、フローレンスさんは頷いて言った。
「はい、私たちは今年からようやく参加できる年なので、それにより剣術に励む生徒も増えているようですよ……ルクス様はご参加なされますか?」
剣術は日々欠かさず鍛錬しているけど、剣術大会っていう本当に猛者の集まりのような場所で勝ち抜ける力量が僕にあるのかは、たくさんの人と剣を交えたりした経験が無いから僕にはわからない……だけど────王族の方が主導している、つまり、きっとと第三王女フェリシアーナ様や第二王女エリザリーナ様も見ていてくださるということ。
それに、シアナにも僕の良いところを見せられる良い機会だ……それなら。
「参加します!」
僕がそう答えると、フローレンスさんが微笑んで言った。
「そうですか……でしたら、私も参加するので本日は良ければ手合わせをお願いできますか?」
「はい!僕の方こそお願いします!いつしますか?」
「今日の四限目に剣術大会に合わせて剣術の授業があるそうですので、おそらくそこで手合わせの時間が設けられると思います」
「なるほど、それならその時間にしましょう!」
「わかりました……では、今のうちに剣術大会申込書を共に提出しに行きましょうか」
「はい!」
その後、僕とフローレンスさんは一緒に剣術大会申込書に必要なことをサインすると、それを提出して講義室の席に戻り、昨日までの他国旅行のことを二人で楽しく話し合った。
◇レザミリアーナside◇
レザミリアーナは、王城にある自らの執務室の机にある書類群を見ながら溜息を吐いて言った。
「これでは職務怠慢だな」
昨日からというもの、レザミリアーナはルクスのことが頭から離れなかった。
今まで異性に対して特別何かを思うようなことが無かったレザミリアーナにとっては、初めてのこと。
その精神的な動揺もあり、普段よりも仕事の速度が半分ほどの速度になってしまっているレザミリアーナは自らのことを職務怠慢だと言い放ったが、その仕事ぶりは普段より遅くなっていても常人の仕事の速度よりも速かった。
「……ん」
そこで、新しくある書類が届いていることに気が付く。
その書類の一番上の書類には『剣術大会』と書かれていた。
「剣術大会……もうそんな時期か」
その書類をめくると、その下には大量の剣術大会申込書が連なっていた。
万が一不審者が紛れていてはいけないため、その辺りのことをチェックしてレザミリアーナが直々に判を押すためだ。
レザミリアーナは、それぞれの申込書に目を通してから判を押していく。
そして、申込書をしばらくめくったところで、見覚えのある名前が出てきた。
「フローレンス家の令嬢……そうか、今年からもうフェリシアーナと同じく十五歳か、フローレンス家の令嬢も末恐ろしい才覚の持ち主だったな」
レザミリアーナは、フローレンスの剣術を楽しみに思いながらその判を押した────その次に申込書をめくったとき、レザミリアーナは思わず息を呑んだ。
「ル、ルクス・ロッドエル……!?」
その名前が申込書に書かれていたレザミリアーナは、思わず席から立ち上がるほどに驚愕した。
そして、そこに明記されているルクスの名前を再度見ながら言う。
「ルクス・ロッドエル……同じ名前の人間などそう居ないことや、ロッドエルは剣を鍛えていたから剣術大会に出ても不自然は無いことからも、おそらくこのルクス・ロッドエルというのは私の想起しているルクス・ロッドエルで間違いない」
それから、レザミリアーナはそこに書かれているルクスの情報に目を通す。
「伯爵家の貴族で、我が国の貴族学校の生徒……そうか、そうだったのか────我が国の、人間だったのか……」
そう呟いた後、レザミリアーナはルクスの剣術大会申込書を見ながら小さく笑った。
「このような偶然を、人は運命と呼ぶのだろうな……そうか、もしかしたら私は、見つけたのかもしれない……ロッドエル……君は、私の────」
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