第117話 称賛
◇ルクスside◇
────翌日の早朝。
僕とシアナ、フローレンスさんの三人は、一緒に馬車に乗って朝早くから馬車に乗って帰国した……そして、馬車がロッドエル伯爵家の屋敷前に到着すると、僕とシアナは一緒に馬車から降りて、馬車に乗っているフローレンスさんの方に向く。
「フローレンスさん、今回の他国旅行を誘ってくれて本当にありがとうございました!他国は行ったことがなかったので色々と不安もあったんですけど、フローレンスさんのおかげもあってとても楽しく過ごすことができました!」
フローレンスさんに向けてそう感謝を伝えると、フローレンスさんは優しく穏やかに微笑みながら言った。
「私の方こそ、とても楽しいお時間を過ごさせていただくことができましたので、ルクス様には感謝しかございません……本当にありがとうございました、また後程貴族学校でお会いしましょう」
「はい!」
僕がそう返事をすると、フローレンスさんは次にシアナの方を向いて言う。
「シアナさんも、ありがとうございました……ルクス様とは、私が貴族学校でお時間を共にさせていただきますので、シアナさんは安心していつも通りお仕事を頑張られてください」
「……はい、ありがとうございます!貴族学校からご主人様がお帰りになられた後は、私がご主人様のことを支えさせていただきますので、ご安心ください!」
「……」
「……」
そうやり取りをした二人は、しばらくの間無言で見つめ合った。
それがどうしてなのかわからなかったけど、フローレンスさんは再度僕に微笑みかけながら口を開いた。
「では、失礼いたします」
そう言い残すと、フローレンスさんを乗せた馬車はロッドエル伯爵家の屋敷から去って行った。
「とても楽しい旅行だったね、シアナ」
「はい!」
僕がそう伝えると、シアナも元気にその言葉に賛同してくれた……またいつか、二人と一緒に旅行に行きたいな。
そんなことを考えながら、僕はシアナと一緒にロッドエル伯爵家の中に入り、早速貴族学校へ登校する準備を進めた。
◇エリザリーナside◇
「情報によると、そろそろ出てくる頃かな~」
ルクスが帰国してから一時間ほど経った頃、エリザリーナはロッドエル伯爵家の近くで影に隠れてロッドエル伯爵家の門を見張っていた。
ルクスが貴族学校へ登校するための馬車がいつ出てくるかを見張っているからだ。
「ルクスの貴族学校終わるまで待ってあげても良かったけど、やっぱり無理!ルクスと会える機会があるのにそれを逃すなんて無理!!」
エリザリーナが一人でそんなことを呟いていると────ロッドエル伯爵家の門が開き、その門からルクスが乗っていると思われる馬車が出てきた。
「来た……!」
エリザリーナは、あと二分後にルクスを乗せた馬車が通る道で待ち伏せているため、ルクスを乗せた馬車が目の前に来たらその瞬間にルクスの馬車のドアを開けて入り込むという算段で居た。
「あと二分、あと────」
嬉しそうな声でそう呟いていたエリザリーナだったが、その直後背後から気配を感じ後ろを振り向こうとした────が。
「抵抗など無意味なことはやめ、所属と目的を簡潔に教えてください」
その時にはエリザリーナは首を抑えられ手を拘束され、足を折り曲げさせられたことによって完全に体の自由を失った……背後から聞こえてくる声と共に。
「そっか~、やっぱりルクスのことバイオレットにずっと見張らせてる感じなんだ~、そうなると色々難しいな~」
「その声……エリザリーナ様ですか?」
「うん、そうだよ?フードしてるからわからなくて仕方ないよね~、この距離なら私がどれだけ抵抗したってバイオレットには勝てないんだから、わかったら拘束外してくれる?」
「……承知しました」
そう言うと、エリザリーナの体の自由を奪った人物、バイオレットはエリザリーナから手を離した。
「えっと、所属と目的、だっけ?所属はこの国の第二王女で目的はルクスと会いたい、両方答えたからもう行っていいかな?」
「申し訳ありませんが、エリザリーナ様のことをロッドエル様の元へ向かわせるわけにはまいりません」
「私、この後で大事な話控えてるんだよね、一時間後ぐらいかな?公爵家の人間が三人居る話でね?もし私が上手い具合に話の調整してあげないと、対立しちゃいそうな感じなんだよね~」
ここでエリザリーナがルクスの元へ向かうのを妨害するのであれば、上手い具合の調整を放棄してこの国に公爵家の対立を生むという警告……その決断はシアナの従者であるバイオレットが簡単にして良いものでは無いことを分かった上でのエリザリーナの警告。
それを聞いたバイオレットは、少し間を空けてから言った。
「……あまり長い時間は許容できません」
「バイオレットはかしこいから話が早くて助かるね~、元からそんなに長居するつもりは無いから心配しなくても平気だよ」
そう言ったエリザリーナに対し、バイオレットは言った。
「エリザリーナ様……もしロッドエル様に何か危害を加えれば、先ほどの話があったとしても私は────」
「私がルクスに危害なんて加えるわけないじゃん、ルクスの悲しむところなんて見たくないし……もちろん、無理やり何かをするようなことだってしないよ」
「……それを聞けて安心しました」
それだけ言うと、バイオレットはエリザリーナの前から姿を消した。
「……本当優秀、やっぱりバイオレットも私の部下に欲しいな~」
なんて呟きながらも、バイオレットのことを寝返らせることはほとんど不可能だとわかっているため、その言葉はバイオレットに対する称賛の言葉だった。
そして────ルクスを乗せた馬車が目の前にやって来たため、エリザリーナはその馬車へ向けて走り出すとその馬車のドアを開けてその馬車の中に入った。
「え……!?な、何────」
突然人が入ってきたことに対して驚いているルクスのことを────エリザリーナは、馬車に入ったその勢いのまま抱きしめた。
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