第116話 絆
◇シアナside◇
ルクスがフローレンスに求められる形でフローレンスの頭を撫でているのを見て、シアナは今にも殺意の込められた目をして剣の柄に触れた。
────今は私がメイドだから強く出れないとわかっていて……この女、今すぐにでも斬り伏せてしまった方が良いんじゃないかしら。
そして、剣を鞘から抜こうとしたが、どうにか自らを精神的に戒めることに成功し、剣から手を離した。
────落ち着きなさい、私……こんな公の場、それもルクスくんの見ている目の前で荒事なんてできないわ。
冷静になったシアナは、あくまでもルクスの従者のシアナとしてフローレンスの頭を撫でているルクスに言った。
「ご主人様!道端でこのような形で留まり続けていると人目を集めてしまうかもしれないので、そろそろ目的地へ向かわれた方が良いと思います!」
「あぁ、うん、そうだね」
シアナがそう伝えると、ルクスは少し慌てた様子でそう返事をすると、フローレンスの頭から手を離した。
そして、ルクスはフローレンスに優しく聞く。
「フローレンスさん、このぐらいで大丈夫ですか……?」
「はい、ありがとうございました……とても心地良く、まさに至福の時間というものを体感させていただきました」
フローレンスは、とても穏やかな表情と嬉しそうな声音でルクスにそう伝えた。
────あの女に触れた手なんて、本当なら今すぐにでも洗ってあげたいけれど、ここで私が変な挙動を取るわけにはいかないから、なんとしても我慢しないといけないわ。
「じゃ、じゃあ、改めて行きましょうか」
「はい」
「……わかりました!」
ルクスがそう言うと、シアナとフローレンスそう返事をして三人は一緒にホットケーキ店へと向かった……その道中、シアナは全力でフローレンスに対する殺気を抑えるのに全神経を注いでいた。
◇ルクスside◇
三人でホットケーキ店に到着して、席に着いた僕たちがホットケーキと紅茶を注文すると、少し時間が経ってから三人分のホットケーキと紅茶が届いた。
「とっても美味しそうですね!」
「はい!」
「えぇ、とても美味しそうです」
「早速食べてみましょう!」
ということで、僕たち三人はそれぞれほとんど同時にホットケーキを一口食べた────このホットケーキは、バターやメイプルシロップが乗っていて甘く、生地もとても良く、出来立てということもあって中がとてもふわふわだった。
「こ、こんなに美味しいホットケーキ食べたことありません!」
「私もです!」
「噂通りの絶品ですね」
そして、次に僕たちはカップに入っている紅茶に口を付けてそれを一口喉に通した……紅茶も、深みがあってほどよく良い後味が残ってとても美味しい。
「紅茶も美味しいですね」
「そうですね、とても良い茶葉を使っているようです」
「それぞれのものがどれもとても高品質で、経済の中心国というのを感じられてとても良いですね!」
「そうだね、シアナ……この茶葉をシアナやフローレンスさんが淹れてくださったら、もっと美味しくなるかもしれないですね」
「っ……!」
「っ……!」
それに、バイオレットさんも……そういえば、久しくバイオレットさんと会っていないから、久しぶりに会いた────と考えようとした時、僕は自らの発言を振り返ってすぐに言う。
「ご、ごめんなさい!こんなこと、店の人に失礼でしたよね、もちろんこのお店の人が淹れてくださっているこの紅茶もとても美味しいんですけど、二人が淹れてくれたらもっと美味しいかなってなんとなく思っただけで────」
「そのように弁明などされずとも、ルクス様の言葉の意図はわかっております……それに、ルクス様にそのように仰っていただけて、嬉しくないはずがありません」
「私もです!ご主人様、是非今度私がこの茶葉でご主人様に紅茶を淹れて差し上げます!」
「私も淹れて差し上げますので、その時はどうぞ好きなだけ私の淹れた紅茶をお飲みください」
「シアナ、フローレンスさん……二人とも、本当にありがとうございます!」
僕は、とても優しい二人が身近に居てくれることに、感動を覚えながら二人にそう感謝を伝えた……この三人で他国旅行へ来たことによって、より二人との絆のようなものを感じられたような気がする。
明日で帰国……楽しい時間は本当にあっという間だけど、僕は今まで以上に二人との絆を感じられたことが本当に嬉しくて、その後も楽しい気分のまま二人と一緒にホットケーキと紅茶を楽しく食べた。
◇エリザリーナside◇
三人の王女の中で唯一本国での留守を命じられたエリザリーナは、自室のベッドの上で枕を抱きしめながら呟く。
「本当、フェリシア―ナもやってくれたよね、フローレンス家の令嬢を利用してルクスのことを旅行ってことで他国に移動させて、私がルクスと会えないようにするなんて……でもそれも終わり、得た情報によるとルクスは明日には帰って来るはず……早く会いたいなぁ、ルクス……ルクス……本当……大好き……あ~!早く明日にならないかな~!」
その後、エリザリーナは自室のベッドの上でしばらくの間頭の中をルクスのことで埋め尽くし続けた。
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