第115話 嫉妬

◇ルクスside◇

 屋敷に帰った僕は、さっきパンを食べたばかりだったけど、パンを一つしか食べてなくてお腹を空かせていたからシアナとフローレンスさんの二人と一緒に料理を食べに行こうと思ってシアナの部屋をノックした────けど、シアナの部屋をノックしても反応が無かったからフローレンスさんの部屋へ行って声を掛けると、フローレンスさんがドアを開けてくれた。


「ルクス様、何かご用ですか?」


 すると、そこにはいつも通り優しく微笑んでくれているフローレンスさんの姿があったため、僕は言った。


「はい、もしお時間があれば、これから僕とシアナ、フローレンスさんの三人で昼食を一緒にしたいなと思ってフローレンスさんのことをお誘いに来ました」

「私は今お時間があるので是非ご一緒させてください……共に昼食ですか、とても良いですね」

「僕もそう思ったんです!でも、シアナの姿が見当たらなくて……フローレンスさんは、シアナがどこに居るか知りませんか?」


 僕がそう聞くと、フローレンスさんは少し間を空けてから口を開いた。


「さぁ、どこに────」

「ご主人様!私はここに居ます!」

「シ、シアナ!?」


 フローレンスさんの後ろから、突然シアナの声が聞こえてきたため僕が驚くと、フローレンスさんの部屋の奥からシアナが姿を見せた。


「シアナ、フローレンスさんの部屋に居たの?」

「はい、そうです!」


 僕が居ない間に、フローレンスさんの部屋で二人で話すぐらいにシアナとフローレンスさんは仲良くなったんだ……僕は、そう考えるととても嬉しい気持ちでいっぱいになってとても気分が明るくなった。

 そして、僕はシアナに聞く。


「シアナ、今は忙しくない?」

「もちろんです!」

「だったら、フローレンスさんと僕たち二人の三人で一緒に昼食に行こう」

「わかりました!」


 ということで、僕とシアナ、フローレンスさんの三人で宿泊先の屋敷から出ると、一緒に昼食を食べに行くことになった────その道中。


「シアナとフローレンスさんは、何か食べたいものとかありますか?」


 僕がそう聞くと、シアナがそれに答えた。


「私は、ご主人様が食べたいものでしたらどのようなものでも構いません!」

「そうですね……私も、ルクス様が食べたいものでしたらどのようなものでも構いませんが、せっかく他国へ来ているのであればこの国特有のものを食べてみたいです」

「それは確かに良いですね」


 でも、この国……カティスウェア帝国特有のもの……少し考えてみるも、僕は本当に他国に関する知識が少ないため全然出てこなかった。

 僕がどうしたものかと困っていると、シアナが言った。


「この国は経済の中心国ですので特有のものと言えるかはわかりませんが、この国はホットケーキが絶品だと聞いたことがあります」


 そのシアナの言葉に呼応するように、フローレンスさんも頷いて言った。


「そうですね、ホットケーキそのものも絶品とされていますが、なんでもバターやメイプルシロップといったものも様々な国の良い部分を取り入れているそうで、とても美味しいらしいですよ」

「そうなんですね!僕、ホットケーキってあんまり食べたこと無いんですけど、甘くて美味しいので大好きです!」

「ルクス様は甘いものがお好きなのですね……少しではありますが、私はお菓子作りに心得がありますので、今度何かをお作りして差し上げましょうか?」

「い、良いんですか!?」

「はい」


 フローレンスさんがそう微笑んでくれたので、僕が「ありがとうございます!」と言うと、フローレンスさんは「喜んで」と返してくれた。

 その僕とフローレンスさんのやり取りを見ていたシアナが、少し慌てた様子で言った。


「ご主人様!私も少しですがお菓子作りをすることができます!なので、私も今度ご主人様に甘いお菓子をお作りさせてください!」

「ありがとうシアナ、そんなに慌てなくても僕はシアナの作ってくれたお菓子もちゃんと食べるから、慌てなくていいよ」


 そう伝えてから、僕がシアナの頭を撫でると、シアナは嬉しそうに口角を上げた。

 ────その光景を見ていたフローレンスさんが、どこか動揺した様子で言った。


「……ルクス様?何を、なされているのですか?」

「え……?あ……す、すみません!つい、いつもの癖で……!」


 僕は、家の外でシアナの頭を撫でてしまっていることに少し恥ずかしさを感じて、咄嗟にシアナの頭から手を離した。

 すると、フローレンスさんは間を空けずに言った。


「いつも……そのようなことを、シアナさんになされているのですか?」

「いつも、というと語弊がありますけど、時々しています……な、なんだか恥ずかしいですね」

「……」


 僕がそう言うと、フローレンスさんは一度シアナの方を見てから再度僕に視線を戻して静かに僕のことを見つめてきた。


「……フローレンスさん?」

「……」


 もしかして、普段全然怒らないフローレンスさんのことを何かの理由で怒らせちゃったのかな……?

 ……でも、この目は怒ってるって感じじゃない。

 ────何かを求めてる……?


「えっと……何か、僕にできることはありますか?」


 僕がそう聞くと、フローレンスさんは小さな声で言った。


「私も……ルクス様に、頭を……撫でていただきたく思います」

「え……!?ぼ、僕がフローレンスさんの頭を、ですか!?」


 僕がそう驚くと、フローレンスさんは頷いた。

 シ、シアナは僕の従者だから頭を撫でたりできるけど、僕がフローレンスさんの頭を撫でたりするのは失礼に当たる。

 でも、フローレンスさん自らが望んでくれているのにそれを拒むのは……

 僕は、悩んだ末に────フローレンスさんの頭を優しく撫でた。

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