第114話 初めて

 洋服店に入った僕とレミナさんは、一緒に店内を見渡した。

 男性用から女性用まで、様々な種類の服が用意されているみたいだ。


「レミナさんは、今日どんな服を探しに来たんですか?」

「正装などでは無く、普段使いできるものを探しに来た」

「普段使い……でしたら────」


 僕がある方向へ足を進めると、レミナさんも僕の後ろについてきた。

 そして、その場所に到着すると僕はその辺りを見渡しながら言った。


「この辺りの服になるんじゃないかと思います」


 ここは女性服がたくさん売っている場所で、正装が売っているのはまた別の場所だけど、普段使いというならこの辺りにある可愛いかったり綺麗だったりする女性服が打ってつけのはずだ。

 そう思ってここにレミナさんのことを連れて来たけど……


「……」


 レミナさんは、腕を組んで目の前の女性服を見つめるだけで、それ以外に特に動いたり、何かを言ったりはしなかった。


「えっと……レミナさん?」


 もしかして、何かを間違えて僕はレミナさんのことを怒らせてしまったんだろうか……そんなことを思い、レミナさんの様子を窺うようにそう聞いてみるとレミナさんが言った。


「……私には、こういった女性らしい服といったものは似合わない」

「どうしてですか?」

「……ロッドエル、君の質問に答える前に君に答えてもらいたいことがあるが、君は私にこういった一般的に可愛いとされる服が似合うと思うのか?」

「はい」

「っ……!」


 特に迷うことでも無く、簡潔に答えられることだったため僕がそう即答すると、レミナさんは僕から顔を逸らして言った。


「よ、よくそんなことを恥ずかしげも無く言えるものだな……それに、私にこういった服が似合うはずがない」

「そんなことはありません、例えば……この白のワンピースなんて、レミナさんにピッタリだと思うんです」

「だから、私にそういった服は似合わないと────」


 僕の意見に意義を挟むために、僕から顔を逸らしていたレミナさんは僕の方を見て僕と目を合わせた────その瞬間、その先を言うのをやめて、少し間を空けてから再度口を開いて言った。


「本当に……私に、似合うと思うか?」

「思います」

「……」


 僕がそう答えると、レミナさんは目の前にある白のワンピースを手に取って言った。


「君がそこまで言うなら着てみるが、似合わなくとも落胆しないでくれ……私のせいで君を落胆させてしまうのは、少し胸が痛くなりそうだ」

「落胆なんて……仮に似合わなかったとしても、似合う服が見つかるまで色んな服を着てみれば良いんですから」

「……そうだな、私も君のその精神性を見習うとしよう」


 レミナさんは、小さく笑いながらそう言った。

 その後、僕とレミナさんは一緒に試着室へ向かうと、僕はレミナさんがワンピースに着替え終えるのを待つことにした。

 ────それから数分後、試着室の中から声が聞こえてきた。


「ロッドエル……一応着てみたが、やはり私に似合っているとは思えない」

「……良ければ、カーテンを開けて見せていただけませんか?」


 僕がそう言うと、レミナさんは「……そうしよう」と返してくれて、その直後レミナさんの入っている試着室のカーテンが開かれた。

 そこには、当然白のワンピースを着たレミナさんの姿があった……綺麗な白のワンピースとレミナさんの綺麗なワインレッドの髪が、とても綺麗に合わさっていて、白のワンピースがレミナさんの全体的な体の良さをとてもよく引き出していて────


「とってもよく似合っています!やっぱり、レミナさんのような綺麗な人には綺麗な白のワンピースもとても良く似合いますね!」

「っ……!そんなにも褒められると……少し、羞恥心を抱いてしまいそうになるな……こんなことは、初めてだ」


 そう言いながら、レミナさんは頬を赤く染めた。

 そして、レミナさんは自らの後ろにある鏡の方を向いて言った。


「私に似合っているかどうかは私自身ではわからないが……少なくとも、この世界の中で君だけでも似合っていると感じてくれているのであれば……悪くない」


 そう言うと、今度は僕の方を向いて言った。


「私はこの服を購入しよう」

「はい!とても良いと思います!」


 僕がそう言うと、レミナさんは僕に近づいてきて僕の顔に右手を添えて言った。


「ふふ、もし君が我が国の人間であれば、君とは今後も定期的に友好的な関係を築いていきたいと思うほどに君のことは気に入った……が、そんな偶然は無いのだろう……そんな偶然があるとすれば、それはもはや偶然ではなく、運命だ」

「我が国……運命?」


 レミナさんの言葉の意味がわからずそう聞き返すと、レミナさんは僕の顔から手を離して言った。


「気にしなくて良い、こちらの話だ」


 よくわからなかったけど、レミナさんが気にしなくて良いと言うならこのことは気にしないでおこう。

 その後、レミナさんは白のワンピースから元着ていたオーバーコートの服に着替えると、白のワンピースを購入してから店内を出たため、僕もそれに合わせて店内を出る。

 すると、レミナさんが言った。


「君には色々と世話になったが、今日はこれまでだ……ロッドエル、いずれまた君の元へ行かせてもらっても構わないか?」

「はい、もちろんです!またお話しましょう!」


 僕がそう言うと、レミナさんは少し口角を上げてこの場を去って行った。

 レミナさんの背中が見えなくなると、僕も今日は色々と満足したため宿泊先の屋敷に帰ることにした……またレミナさんと会える日が、本当に楽しみだ。



◇シアナside◇

 ────同じ頃。


「────何がルクスくんの妻よ、冗談でも口にして良いことと口にしてはいけないことがあるということをあなたは知らないのかしら!」

「冗談ではありません、私はいずれ本当にルクス様の妻としてルクス様のお傍でルクス様のことを支えます」

「あなたにそんな資格は無いわ!」

「それは、第三王女様の方です……!」


 シアナとフローレンスは、互いに意見をぶつけ合いながら剣を交え続けていた……が、少ししてから。


「フローレンスさん、少し良いですか?」

「ル、ルクス様……!?」

「ルクスくん……!?」


 部屋の外からルクスの声が聞こえて来たため、二人は剣を斬り結ぶのをやめてルクスの方へ意識を向けた。

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