第113話 不快感
洋服店へ向かう道中、僕は少し気になっていたことがあったため、そのことをレミナさんに聞いてみることにした。
「レミナさんは服についての知識が無いと言っていましたが、今レミナさんが着ている服はとても似合ってるように見えるので、ご自身で思っているほど服を選ぶことができないわけでは無いんじゃないですか?」
レミナさんが今着ているのはコート服……袖や襟の部分が少し特徴的で高級感があるけど、それをしっかり着こなしているから、自分で服に関する知識が無いと思ってしまっているだけで、本当は自分で服を選べる可能性もある。
そんな考えを元にそう聞いてみたけど、レミナさんは首を横に振って言った。
「これは家で用意されている服でな、私の立場や職務上適当な服を着て過ごすわけにもいかないからと、オーバーコートという服を高級感のある生地や他には無い袖や襟という条件付きでオーダーメイドしたらしい」
「そうなんですね」
それでこんなに高級感のある服を着ているんだ……それにしても、立場や職務上っていうことは、レミナさんはやっぱり貴族の人なのかな。
服だけじゃなくて話している時の雰囲気からもそんな感じがする……けど、どこか普通の貴族の人とは違う雰囲気も感じる。
普通の貴族の人から感じる雰囲気とレミナさんから感じる雰囲気の差がどんなものなのか、僕がわからないでいると、レミナさんは言った。
「本当に困ったものだ、服の知識が無いから服を選ぶ際にはこうして誰かに、普段であれば妹に付き添いを頼まねばならない」
「妹さんが居るんですね」
「あぁ、二人居る……三女は真面目で振る舞いもしっかりとしていて、時折年相応に感情を抑制できないこともあるようだが、いずれ間違いなくその力を世界に示すことのできる人物だと私は確信している」
レミナさんがそこまで言うということは、その人は本当にすごい人なんだろう……どんな人なのかな。
「問題は次女だ、服選びに付き添ってくれたり、その他の能力面から見ても間違いなく必要な人材で優秀であることも認めるが、性格に難がありすぎてな……正直、あれを御すことのできる人間がこの世に居るのか私には疑問だ」
レミナさんの妹さんというだけあって、とても特色が強そうな人たちなのは話を聞いているだけでもわかった。
「妹さんたち二人もすごい人なんですね」
「そうだな……機会があれば君の前に二人の妹を連れてこよう、その時は妹のどちらかを君にもらって欲しい、妹たちも君のような心優しい人間なら喜ぶだろう」
「え、え……!?」
僕が突然言われたことに驚いていると、レミナさんは小さく口角を上げて言った。
「ふふ、冗談だ」
レミナさんは声音の雰囲気がずっと落ち着いている感じの人だから、冗談を言っているのかどうかが全然わからない。
僕がそんなことを思っていると────
「ここだ」
レミナさんが一つのお店の前で足を止めてそう言ったため、僕はレミナさんと一緒に洋服店の中へ入った。
◇シアナside◇
────同じ頃。
シアナとフローレンスは、宿泊先の屋敷の中にあるフローレンスの部屋の中で対峙していた。
「それで、私に話があるというのは何のことかしら」
「口で話すよりもお見せした方が早いでしょう、こちらの件です」
そう言うと、フローレンスは昨日ルクスがフローレンスへ残した、シアナと街へ出かけるということが書かれている置き手紙を見せてきた。
シアナは、それを見たうえで聞いた。
「それがなんだと言うの?」
「そうですね……私は昨日のある一件で、やはり第三王女様は間違っておられるとさらに強く確信することができました……そして、そのような方がルクス様とお二人で街へ出かけるなど、私にとっては気分の良いものでは無いのです」
シアナがルクスと二人で出かけることがフローレンスにとって気分の良くないことであることなどシアナにとっては百も承知であり、だからこそルクスに置き手紙という方法をルクスに促した……が。
「あなたの気分なんて私にはどうでも良いわ……でも、昨日で自らの考えに確信が強まったというのは、奇遇だけれど私も一緒よ」
「……でしたら少し、剣を使った単純な力比べをしませんか?」
「……具体的にはどういう意味かしら?」
シアナがそう聞くと、フローレンスは細剣を抜いて言った。
「剣を使うと言っても、私は第三王女様と違い命を奪うようなことは致しません……が、私の知らぬ間に第三王女様のような方がルクス様とお二人で街へ出かけられていたり、そもそも第三王女様が偽りの姿でルクス様のような綺麗な方と生活を共にしているということに、私は不快感を覚えているのです……ですから、剣を斬り結びそういった感情に少しでも折り合いをつけることができたらと思った次第です」
フローレンスのその言葉を聞いたシアナもフローレンスと同じように剣を抜くと言った。
「そういうことなら、私もあなたには不快感が堪えないから、ここでそういった感情を少しでもぶつけることができるのなら、それは良い機会ね」
シアナがそう言うと、フローレンスはルクスに微笑むときよりも幾段か暗く微笑んで言った。
「ご賛同いただけて光栄です……それでは────始めましょう」
「えぇ」
そして────二人は、二人だけの空間で剣を斬り結び始めた。
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