第109話 自責
◇シアナside◇
────ルクスくんが殴られた?私が傍に居ながら?それも……私のせいで?
シアナは、目の前の現実にとても大きな衝撃を受けていた。
自らを庇う形で、ルクスが殴られる……シアナにとってそんなことは絶対にあってはならない。
この太った体型のおそらくは貴族と思われる男性のことを、シアナなら一瞬で気絶させることができた。
力量差で言えばルクスにもできたが、暴力行為に大きな抵抗感を抱いているルクスにはそんなことはできない。
────だから、私がやらないといけなかった……けれど。
メイドとしてのシアナである以上、ルクスの目の前では思うように力を振るえない。
王女としてなら全ての責任を自らで終えるが、ルクスの従者という立場上、ルクスの許可なく暴力行為を行えばルクスにも悪評が経ってしまうかもしれないからだ。
そんなことを瞬時に考えていたシアナは、自らのことを心配してきたルクスに心配をかけないように間を空けずに言った。
「私は大丈夫です……ですが、ご主人様は……」
「僕は大丈夫だよ、全然痛みも無いから」
「あぁ!?お前、俺のことを誰だと思ってやがる!!」
そのルクスの言葉に苛立ちを覚えた太った体型の男性は、再度ルクスに殴りかかろうとした────が、シアナは自らのことを庇うように抱きしめているルクスのことを抱きしめ、その太った体型の男性と顔を向かい合わせると、殺気の籠った目でその男性のことを睨んだ。
「っ……メ、メイドの分際で、この俺様に何か文句でもありやが────」
シアナは、このアクセサリー店の上に居る黒のフードを被ったバイオレットに視線で合図を送ると、バイオレットは通常の人間であれば目に追えないほどの速度で店内に入ってくきて、その太った体型の男性の首を抑え、声を出せないようにすると瞬時に店外へ連れ出した。
太った体型の男性に背を向けているルクスはもちろん、このアクセサリー店の奥に居る店主と思われる人物すらそのバイオレットの動きは見えなかっただろう。
バイオレットが太った体型の男性を店外へ連れ出したことを確認したシアナは、ルクスと抱きしめ合いながらルクスと顔を向かい合わせて言う。
「ご主人様、もうあの方は店外へ出て行かれたようです」
「え……?そうなんだ、良かった……」
ルクスとシアナは一度抱きしめ合うのをやめると、シアナはすぐにルクスの背中を撫でて言った。
「ご主人様、先ほどは庇っていただいてしまい、本当に申し訳ありません……本当に痛みは無いのですか?」
「うん、きっとそういった鍛錬を積んでいない人だったと思うから、本当に痛みはほとんど無いよ……それに、シアナは何も悪く無いんだから謝らないで……シアナを庇うのは、主人として当然のことだし、何より僕自身がそうしたからったからしたことだからね」
「ご主人様……」
ルクスのとても優しい表情と声音に、シアナはさらに胸を痛める。
────こんなにも優しいルクスくんのことを、私の落ち度で傷つけてしまうなんて……
シアナは再度自責する……あの状況でも、考えればいくらでもやりようはあったはずだと思っているからだ。
シアナが心の中で自責していると、ルクスは「そうだ」と呟いてからこのアクセサリー店の店主の元へ向かって頭を下げた。
「変な騒ぎを起こしてしまってすみません!」
「い、いえいえ!どう考えてもお相手の方の方が悪く見えましたので、どうぞ頭を上げてください」
「いえ!売り物には何も被害が出ないようにしましたけど、迷惑をかけてしまったことには変わりないので……本当にすみません!」
「だ、大丈夫ですから、それより、あなたは大丈夫なんですか?」
「僕は全然大丈夫です!お気遣いくださってありがとうございます!」
「あの方は、かなりの頻度でああいった問題を────」
ルクスとこの店の店主は、少しの間そんなやり取りを続けていた。
────あの状況で売り物のことまで考えていたなんて……だからルクスくんは、相手の手を止めたり腕を掴んだりしなかったのね。
シアナは、再度ルクスの優しさを感じ、今すぐにでもルクスのことを抱きしめたかった────が。
その前に、シアナにはやらなければならないことがあった。
「……」
ルクスとこの店の店主の話は、まだまだ続きそうな雰囲気があったため、シアナは────
「……すぐに終わらせて来るわね、ルクスくん」
そう誰にも聞こえないほど小さな声でルクスに言葉を贈ると、アクセサリー店から姿を消して、バイオレットの元へ向かった。
────この場で万が一トラブルがあった場合は、路地裏で事を解決するというのを事前に決めていたため、シアナはすぐに黒のフードを被ったバイオレットのことを発見することができた。
シアナがバイオレットの元へ移動すると、バイオレットはシアナに謝罪の言葉を述べた。
「申し訳ございません、お嬢様……意識を奪うつもりは無かったのですが、感情抑制ができず力が込められてしまい意識を奪ってしまいました」
「あの光景を見ていたならそうなるのも仕方ないわね、私があなたでもきっとそうしているわ────いえ、もしかしたら私は感情を抑えられずに意識を超えたものを奪ってしまったいた可能性もあるから、あなたはよく堪えた方よ……どれぐらいで目が覚めるのかしら」
「意識が奪われた直後に首から手を離しましたので、もうすぐ目覚めるかと思われます」
「そう」
シアナがそう返事をした直後────バイオレットの言った通りに、太った体型の男性は目を覚ました。
「あ……?ここはどこだ……?」
「目が覚めたようね」
「っ……!?」
シアナがそう言うと、太った体型の男性は顔を上げてシアナの顔を見て言う。
「お、お前、あのメイド服の────」
太った体型の男性が口を開いて何かを言おうとした時、シアナはその男性の首元に剣を添えると、虚な目で言った。
「次に私の許可なく口を開いたら、その瞬間にあなたの命を奪うわ」
その目や無機質な声音から首元に添えられている剣が脅しでないことを理解すると、太った体型の男性は恐れの感情を表すように顔を青ざめていった。
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