第108話 アクセサリー店
◇ルクスside◇
僕は、宿泊先の屋敷の中にある僕に割り当てられた部屋に荷物を置くと、その部屋の中を見渡していた。
その部屋の中には高価そうなものしか無いけど、しっかりとベッドやソファが置いてあって、リラックスもできそうだ。
僕は、試しにベッドに────乗ってみようとした時、僕の部屋のドアがノックされた。
「はい!」
僕はドアの前に居る人にも聞こえるように大きな声でノックに返事をすると、すぐにそのドアを開けた────すると。
「ご主人様!少しよろしいでしょうか!」
そこには、シアナの姿があった。
「シアナ、どうかしたの?」
「もしご主人様がお忙しくなければ、ご主人様にお供させていただく形でこの街を見て回りたいと思いご主人様のお部屋へ来させていただきました」
「あぁ、そういうことならもちろん大丈夫だよ……外に出るなら、フローレンスさんにも伝えてからの方が良いかな?」
僕がそう聞くと、シアナは少し考えてから笑顔で言った。
「いえ、フローレンス様はこの宿泊先とお話を通してくださった方ということもあって、もしかしたら何かこの後もしなければならないといけないことがあるのかもしれません……なので、ご迷惑をお掛けしないためにも置き手紙を残すという形でお伝えした方が良いかと思われます」
「そうだね、そうしよう」
僕は、紙を取り出してそこに今からシアナと街へ出かけるという旨の文章を綴り、その紙を持ってシアナと一緒に廊下に出ると、僕はフローレンスさんの部屋のドアに備え付けられているボックスにその紙を入れた。
「じゃあ行こうか、シアナ」
「はい!」
そして────僕とシアナは、この国へ来てから初めて二人で行動を始め、まずは大通りへ行くことにした。
「見てくださいご主人様、あちらにアクセサリーが売っています」
「本当だね……ちょっと見てみる?」
「はい!」
僕がそう聞くと、シアナが元気にそう答えてくれたため、僕はシアナと一緒にアクセサリ―店を見てみることにした。
そこには、宝石や金でできたアクセサリーがたくさん売ってあって、僕は見慣れない光景に少し驚きながら言った。
「た、高そうなものがいっぱいだね」
「そうですね……」
僕の言葉にそう返事をしてくれたシアナは、続けて笑顔で言った。
「もし私がこういったものをご主人様にプレゼントして差し上げられるようになったら、その時はたくさんのものをご主人様にプレゼントして差し上げますね!」
シアナがこういうものを僕にプレゼントできるようになったらっていうのは、シアナがたくさんのお金を持てるようになったらって意味だと思うけど────
「シアナの気持ちは嬉しいけど、僕はシアナが僕に高いものをプレゼントしてくれるよりも、シアナがそのお金で好きなものを食べたり、好きなことをして楽しく笑顔で居てくれる方が嬉しいかな」
「っ……!ご主人様……!」
僕がそう伝えると、シアナは目を見開いた。
そして、続けて目を輝かせながら言う。
「私は、ご主人様が笑顔で居てくだされば、それだけでとても楽しい気持ちになれます!ですから、私にとっての幸せは、ご主人様が幸せで居てくださることなのです!ご主人様が幸せになってくださるのであれば、土地でも国でもご主人様のお好きなものをお渡しします!」
最近はあまり無いと思っていたけど、久しぶりにシアナの言葉の規模がとても大きくなった……だけど。
「そういったものも大事なのかもしれないけど、僕はシアナが傍に居てくれるだけで幸せだよ……だから────」
「おい、そこのメイド服」
「……はい?」
突然、後ろから高貴な服を着ている少し太った体型で、高そうなアクセサリーを至る所に付けているおそらくは貴族と思われる男性に話しかけられたシアナは、そう疑問の声を漏らしながら後ろを向いた。
僕は、その瞬間にシアナとその男性の間に割って入って言う。
「彼女は僕の従者なので、何か話があるなら僕に話を────」
そう言おうとした時、この人は拳を握って僕のことを殴ろうとしてきた────けど、僕はそれを避けて言う。
「暴力はやめて、落ち着いて話し合いませんか?」
「黙ってろ!俺が話があるのはそのメイド服の女だけで、お前なんてどうでもいい!!」
そう言うと、その人は何度か僕に拳を振るって来た。
……でも、おそらくこの人は武術については素人で、僕は剣術を基礎としてある程度は鍛錬を積んでいたため、それを避けることができた。
「避けてんじゃねえ!」
そう言って怒った様子のその男性は、先ほどよりも大きく振りかぶった。
それも、隙が大きかったから避けることはできた────けど、僕はその人の拳の軌道上、もしそのまま力を加えればシアナに拳が当たってしまうことに気が付き、僕はシアナのことを抱きしめた。
「ご、ご主人様っ……!」
結果的にその男性に背を向けることになった僕は、背中を一度その男性に殴られてしまった……けど、その直後。
僕は、悲しそうな表情をしているシアナに声を掛けた。
「シアナ……大丈夫?」
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