第107話 妻
◇ルクスside◇
フローレンスさんと一緒に選んだお花を何本か購入すると、僕とフローレンスさんは僕たちの宿泊する予定という屋敷の前までやって来た。
「とても立派な屋敷ですね」
僕がその屋敷を見て素直にそう言うと、フローレンスさんが言った。
「そうですね……私が、ということではないので誇らしくは言えませんが、このお屋敷の持ち主の方はフローレンス公爵家と親交のある方で、お父様がこのお屋敷の建築に携わったと聞いています」
「そうなんですか!?本当にすごいですね……」
他国の人、それもこんな屋敷を建てられるぐらいの人と親交があって、実際にこんなにも立派な屋敷を建てられるなんて、フローレンスさんのお父様というだけあってすごい人だ。
「私もいつか、お父様のように建築を……そして、ガーデニングを今よりも深く勉強し、綺麗な場所を増やしていきたいと考えています」
「とても良いと思います!もしそうなった時は、フローレンスさんに色々とその辺りのことを教えてもらったり、お仕事を依頼させてほしいです!」
僕がそう言うと、フローレンスさんは優しく微笑んで言った。
「ふふ、その時はルクス様の妻として、全て無料で行わせていただきますので、ご安心ください」
「つ、妻……!フ、フローレンスさん、誰かに聞かれていたら恥ずかしいので、あまり外では────」
「妻……?」
横から、聞き覚えのある声で困惑の色を含んだ声が聞こえてきた。
僕がその声の方を向くと────そこには、カティスウェア帝国に入国して直後一度別れたまま、メイド服を着ているシアナの姿があった。
僕は、今の話の流れの恥ずかしさを誤魔化すようにフローレンスさんの方からシアナの方へ体を向けて言う。
「シアナ、もう用事は済んだの?」
「はい!ご主人様の元から離れてしまい申し訳ありませんでした!」
「ううん、何か見たいものがあったんだったら自由に見てきて欲しいから、何も謝ることじゃないよ」
「ありがとうございます……!」
シアナは、とても明るい笑顔で言った。
シアナの笑顔を見ると、僕も明るい気持ちに────
「少し気になることがあるのですが、ご主人様はどうして妻という言葉を使われていたのでしょうか?」
明るい気持ちになりかけた僕のことを、シアナのその問いによって先ほどの少し恥ずかしい気持ちに寄ってしまったけど、僕はすぐに説明する。
「な、なんでも無いから気にしなくてもいいよ、シアナ」
僕がそう説明すると、僕の横に居るフローレンスさんが言った。
「何を仰っているのですか、ルクス様……シアナさんにも関係の無いことではないのですから、シアナさんにもしっかりとご説明していただかなくてはなりません……ですが、ルクス様がお恥ずかしいと思うのでしたら、私からシアナさんへご説明させていただきます」
ご説明……フ、フローレンスさんが僕の妻ということを、シアナに説明!?
そう考えるだけで、僕は恥ずかしさのようなものが込み上げてきて、急激に心拍数が上がり、顔も熱くなった。
僕がそんな状態になっていると、フローレンスさんはシアナの方に近づいて続けて言う。
「シアナさん、妻……という言葉の説明でしたね、簡単に言えば────私が、ルクス様の妻になるということです」
「ご……ご主人様の、妻……ですか?」
「はい、そうなった際には是非、シアナさんも私とルクス様のことをお手伝いしてくださいね」
フローレンスさんがそう言った後、シアナはフローレンスさんのことを見たまま少し固まってしまった……突然のことに、シアナはとても困惑しているみたいだ。
僕は、そんなシアナのことを落ち着かせてあげるためにシアナに向けて言う。
「シアナ、僕はフローレンスさんから婚約のお話をいただいているけど、まだフローレンスさんと婚約すると決まったわけじゃないから、安心して?」
「っ……!」
僕がそう伝えると、シアナは目を見開いて言った。
「つまり、ご主人様がフローレンス、様を妻にするというのはご主人様が言っていることではなく、現段階ではフローレンス様が仰っておられる仮定の話、ということですか?」
「うん、そういうことだよ」
僕がそう言うと、シアナは少し間を空けてから笑顔で言った。
「すみませんご主人様、ご主人様が突然婚約相手を決定なされたのかと思い、少し動揺してしまいました!」
「ううん、そんなこと突然聞いたら驚くのは当然だから、謝ることじゃないよ」
「ありがとうございます……ご主人様は今まで何を────」
その後、僕は少しの間この街に来てからのことをシアナに話した。
財布を盗まれたことは、シアナのことを不安にさせてしまうかもしれないから言わないほうが良いとフローレンスさんに言われて、僕もシアナのことを不安にはさせたくないためそのことだけは言わなかったけど、それ以外のこの街についての感想をシアナと話し合った。
◇シアナside◇
「────ルクス様、お話も落ち着いたようなので、そろそろ中へ入りましょうか」
「はい!シアナも、大丈夫?」
「問題ありません!」
シアナがそう返事をすると、三人は一緒に宿泊先の屋敷の中へ入り、受付を済ませるとその廊下の中を歩いていく。
そして、その道中────シアナはフローレンスの背中を見ながら思う。
────この女、絶対に許さないわ……ルクスくんの妻になるなんて仮定の話を事実のように話して、私のことを動揺させてようとしてくるなんて……!
そう考えた後、さらに続けて考える。
────大体、私が頼んだこととは言っても、ルクスくんと他国を観光なんて、私もまだできていないのに……それを、この女は……!
仕方が無いとわかっていてもそのことに納得の行っていないシアナが、それを表すように強烈な殺気を放つと、ルクスが咄嗟に後ろに居るシアナの方を振り向いたため、シアナはすぐにその殺気を無くしてルクスに聞いた。
「どうかなされましたか?ご主人様」
「う、ううん、なんでもないよ」
そう言うと、ルクスはすぐに前を向いて再度歩き出したため、シアナもその後ろを歩く。
────早く、ルクスくんと二人きりになりたいわ。
その後、三人はそれぞれ自らに割り当てられた部屋へと入っていき────荷物を置き終えると、シアナはすぐにルクスの部屋へ向かった。
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