第106話 交渉成立
◇シアナside◇
王城内に入り、そこからは案内役によって案内されるがままに足を進めると、王族専用の客室へと案内された。
「ここからは文字通り王族専用の客室になる、悪いがバイオレットは部屋の前で待っていてもらえるか?」
「承知しました」
レザミリアーナにそう言われたバイオレットが頭を下げてそう言うと、シアナとレザミリアーナはその客室の中へ入った。
そこには、ご年配と思われる白髪の人物が居た……その人物は、ご年配の人にしか出すことのできない穏やかさを表情に出している。
「カティスウェア王、先日ご要望いただいた通り、私の妹である第三王女フェリシア―ナを連れてきました」
その人物のことを見てレザミリアーナがそう言うと、白髪の人物────カティスウェア王は少し驚いた表情で言った。
「ほう、儂はてっきり第二王女様が居らっしゃるのかと考えていましたが、そう参りましたか、わざわざ来てくださりありがとうございます、どうぞ席へお座りください」
そう促され、シアナとレザミリアーナはカティスウェア王の対面になるように座った……そして、カティスウェア王はシアナの方を見て続けて言った。
「細かい話の方は、先日そちらに居るフェリシア―ナ様の姉、レザミリアーナ様と話させていただいておるから、この場はただ儂のわがままで生まれた場じゃ……どうしても、レザミリアーナ様の妹にお会いしてからレザミリアーナ様の話を受けるかどうか決めたかった」
「……何故、その必要があったのですか?」
シアナが純粋な疑問を投げかけると、カティスウェア王は優しい表情で頷いて答える。
「うむ、貴国は経済から武力まで、とてもバランスよく取れた国で、それを可能としている三人の王女様たちの力には儂も感服しておる……じゃが、レザミリアーナ様からの交渉を引き受けるうえで、どうしても一つだけ懸念点があったのじゃ」
「その懸念点とは?」
「────その王女様たちの全員が、誰も婚約者を決めておらぬということじゃ……一つの国をとても良い方向へ進めている王女様たちの誰も婚約者を決めていないというのは、かなり稀なことだからのう」
確かに、王女が誰も婚約者を決めていないというだけで稀なことなのに、それが一つの国を良い方向へ進めるほど優秀な王女たちともなれば、それは尚更だろう。
「だからこそ、レザミリアーナ様以外の王女様を見て、お主らが交渉相手として良いのかを見極めたかったのじゃ」
一通り話を理解したところで、シアナは聞いた。
「そうですか……でしたら、今実際にレザミリアーナ姉様の妹である第三王女フェリシア―ナのことがカティスウェア王にはどう映られましたか?」
「そうですな……私の今までの経験から鑑みるに、あなたは王族に生まれるべくして王族に生まれたような方なのでしょうな、少し話しただけですがその優秀と噂の能力と合わせて考えても間違いないんじゃろう……そして────どうやら、もうすでに愛を知っているようじゃ……儂は、そのことにとても安心した」
────一瞬、このカティスウェア王は、自分とルクスの関係を知っているのかと疑いそうになったシアナだったが、すぐにその考えを改めた……目の前の人物は、紛うことなき一国の王で、その経験はシアナの想像しているよりも遥かに豊かなはずのため、この短い時間でそのことがバレてしまってもおかしくはない。
そう仮定して、シアナは返事をする。
「カティスウェア王は、とても慧眼で居らっしゃるのですね」
「はっはっは、いやはや、結構……お時間を取らせてしまいましたな、あとは紙でのやり取りとなりますので、お好きにご退室なされてください」
「それはつまり、例の交渉の件を吞んでいただける、ということでよろしいですか?」
ずっと黙っていたレザミリアーナがそう聞くと、カティスウェア王は穏やかな表情で頷いて答えた。
「ありがとうございます」
レザミリアーナがハッキリとそうお礼を伝えると、退室するよう言われたレザミリアーナとシアナは、王族専用の客室を後にした。
そして、部屋から出ると────
「お嬢様、交渉が成立したそうですね」
と、おそらくバイオレットの隣に居るレザミリアーナから話を聞いたであろうバイオレットがシアナにそう話しかけてきた。
「えぇ、私が直接何かをしたというわけではないけれどね」
シアナがそう言うと、レザミリアーナが言った。
「何を言っている、お前は今日十分自らの役目を果たした……そのことは素直に誇るべきことだ」
「……ありがとうございます」
シアナがそう返事をすると、その後は三人でこの国のことについて話をしながら王族用の馬車の方へと足を進めた────が、交渉を終えたシアナの心の中は、ほとんどがルクスのことで埋め尽くされていた。
────あの女……ルクスくんに何か変なことをしていたら、今度こそ本当に許さないわよ。
◇フローレンスside◇
────同じ頃。
「こちらのお花は、ルクス様の屋敷のお庭に似合いそうですね」
「本当ですね!すごく似合いそうです!……あ!」
「何かお庭に似合いそうなものが見つかりましたか?」
ルクスが大きな声を上げたため、フローレンスが優しく微笑みながらそう聞くと、ルクスはとても明るい笑顔で一本の水色の花を見せて言った。
「僕の屋敷に似合うかはわからないんですけど……この綺麗なお花、フローレンスさんにとてもお似合いだと思います」
「っ……!」
路地裏からルクスの元へ戻ったフローレンスは、ルクスと一緒に大好きな花を見て心が落ち着いていたが────そのルクスの言葉に、フローレンスは頬を赤く染め、胸を高鳴らせた。
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