第103話 呼応

「ほ、本当に、良いのか?」


 フローレンスがそんなことを考えていると、ルクスの財布を盗んだ男性が動揺した様子でルクスにそう聞き返した。

 すると、ルクスはとても優しい笑顔で言う。


「はい、自由に使ってください……そこまで多い額では無いですけど、少なくは無いと思うので、五人で相談して使えば、また商売を始めることもできると思います」

「っ……!俺たちにもう一度、チャンスをくれる……ってことか?」

「チャンスをあげるなんて上から目線なことを言うつもりはありません……でも、商売で失敗したということは、何かしたい商売があったっていうことですよね?それなら、これも何かの縁だと思うので、僕もできる限りのことをしたいと思っただけです……それに、自分がお金を持っているのに、お金に困っている人を目の前にして何もしないなんてことはしたくありませんから」


 優しい声音でそう告げたルクスに対し、ルクスの財布を盗んだ男性はルクスに頭を下げて言う。


「盗みなんてして、すんませんでした!それと、恩に着る!もう二度とこんなことはせず、真っ当な商売で売り上げて、あんたに恩返しに行くことをこの命に誓う!!」

「俺もだ!」

「俺もそうだ!」

「俺だって!」


 そして、それにつられるように三人の男性もそう声を上げて頭を下げ────少し間を空けてから、もう一人の男性も同じように賛同の声を上げながら頭を下げた。


「そ、そんな、恩返しなんて……」

「そうだ……名前、名前を教えてくれ!」


 もし、この男性がまだ何か悪事を企んでいるようなら、フローレンスはルクスに名前は教えないようにと伝えたが────フローレンスの目から見ても、もうこのルクスの財布を盗んだ男性が悪事を働くようには見えなかったため何も言わないでいると、ルクスが言った。


「僕はルクス・ロッドエルと言います……あ、名前は教えましたけど、本当に恩返しとかは考えなくても良いので────」

「よしお前ら!ロッドエルさんに恩を返すためにも、今度こそ絶対成功させるぞ!!」

「おおおおおお!!」

「えっと、あの……はい……」


 目の前の男性たちの反応に困っている様子のルクスだったが、ルクスの財布を盗んだ男性が大きな声で言った。


「ロッドエルさん!俺たちは早速新しい商売始めたいんで、今日は失礼します!またいつか絶対にこっちから会いに行くんで、その時は高いものでも奢らせてくれ!!」

「た、高いもの!?いえ、本当に────」

「今日は本当にありがとうございました!!」


 ルクスの財布を盗んだ男性がそう言うと、五人の男性はルクスに頭を下げてその場を去って行った。


「た、高いものなんて……ど、どうしたらいいんでしょうか……」


 フローレンスは、とても可愛げのある理由で悩んでいるルクスのことを見て、優しく微笑みながら言う。


「ふふ、素直に受け取られても良いのでは無いですか?彼らは、心よりルクス様へ恩を返したいのです」

「恩なんて売ったつもりは無かったんですけど……でも、いつかその時が来たら、何かの縁ということでフローレンスさんの言う通り受け取ろうと思います」

「はい、それでよろしいと思います」


 そして、それから少しの間宿泊先の屋敷へ向けて、大通りを楽しみながらも足を進めていたルクスとフローレンスだったが、その途中でフローレンスが足を止めて言う。


「申し訳ありません、ルクス様……少しあちらの店内で私のことをお待ちいただいてもよろしいでしょうか?」

「え?はい、もちろん大丈夫ですけど、どこかへ行かれるんですか?」

「はい、ですが本当に少しの間だけですので、ご心配なさらないでください」

「わかりました!あのお店はお花とかが売ってるみたいなので、僕の屋敷の庭に似合いそうな花とかを探してみたいと思います!」

「とても良いと思います、私も是非後で共にお探しさせてください」

「はい!僕の方こそよろしくお願いします!」


 そんなやり取りを最後に一度ルクスから離れたフローレンスは、急いで先ほどの五人の男性の後を追った。

 ────幸いにも、四人の方はルクス様のお優しきお心に呼応するように改心なされたようですが……一人、少し怪しい方が居ましたね。

 人を疑い、尋問すること。

 それは、人を疑うことを知らないルクスにはできないこと。

 だが、フローレンスはそれでも良いと考えている……ルクスの綺麗な心を守るために、自らがそのルクスの魅力でもあり弱点でもある部分を埋める。

 フェリシア―ナも似たようなことを考えているとは思うが、その方法がフローレンスとは大きく異なる。

 ルクスを守るために命を奪うことを前提としているフェリシア―ナのやり方に納得することなど、フローレンスにはできない。


「ルクス様にできないことを私が行うことで、ルクス様の綺麗さを私がお守りいたします……第三王女様、あなたのやり方ではルクス様のお傍に居るに相応しく無いことを、私がこれから正しい方法でルクス様のことをお守りすることで、証明させていただきます」

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