第101話 カティスウェア帝国
◇シアナside◇
馬車がカティスウェア帝国の門へ到着すると、フローレンスが門兵に自らがフローレンス公爵家の人間であることを示す紙を渡すと、門兵は今シアナとルクス、そしてフローレンスの乗っている馬車を国の中へ通した。
「こ、これで入国したんですね……!」
「はい」
それに対しフローレンスがそう相槌を打つ。
────他国へ連れてきただけでこんなにもルクスくんが喜んでくれるのなら、今度フェリシア―ナとしてルクスくんのことを他国へ連れて行ってあげようかしら……もちろん、フローレンスは抜きでだけれど。
やがて、馬車が馬車降り場に到着すると、三人は馬車から降りる。
すると、シアナはルクスへ言った。
「では、ご主人様……馬車の中でお話しさせていただいた通り、私は少しの間だけ離れさせていただきます」
ここに来るまでの道中、これからの予定を話し合っている中で、シアナはこの国で個人的に見ておきたいものがあると伝え、入国直後にルクスやフローレンスの元を離れ、一定の時間が経てばルクスとフローレンスが宿泊する予定の屋敷で合流する予定となっている。
当然、シアナが個人的に見ておきたいものがあるというのは建前の事情で、本当の目的は他国交渉の場へ赴くためだ。
「うん、わかったよ……この国は経済が発展していて整備も整っているから大丈夫だとは思うけど、気を付けてね」
「ご心配くださりありがとうございます!ご主人様も、慣れない土地で大変なこともあるかもしれませんが、御身を第一にご考えください」
シアナがそう伝えると、ルクスは頷くことでそれに応えた。
そして、次にシアナはフローレンスに向けて話しかける。
「フローレンス様、どうか、ご主人様のことをよろしくお願いします」
────私の居ないところでルクスくんに何かしたら容赦しないわ。
といった視線とともにそう言うと、フローレンスが言った。
「はい、元よりそのつもりでしたが、シアナさんにお願いされたとあればなおのこと、ルクス様のことは私にお任せいただきたいと思いますので、シアナさんはルクス様のことをご心配なさらずご自分の果たすべきことを果たされてください」
フローレンスは特に視線に意味を込めなかったが、その言葉だけでもシアナにとっては十分皮肉を感じるものだった。
────私が好きでルクスくんのことをフローレンスに預けるわけじゃないとわかっているのに、私にお願いされたとあればなんて……すぐにでも他国交渉を終わらせて、ルクスくんとフローレンスの二人の時間を終わらせるわ。
そう心の中で告げた後、ルクスに向けて言った。
「ではご主人様、行ってまいります」
「行ってらっしゃい、シアナ」
優しい笑顔でそう言ったルクスに対し、シアナも笑顔を返すとシアナはルクスとフローレンスに背を向けて歩き出した。
相変わらずルクスの優しい笑顔に目を奪われそうになったシアナだったが、一度立ち止まって今からレザミリアーナと共に他国交渉をすることを思い返し、すぐに頭を落ち着かせてから再度足を進め、第三王女フェリシア―ナとして正装に着替えると、黒のメイド服を着たバイオレットと合流してレザミリアーナの居る場所へ向かった。
「来たか、フェリシア―ナ、バイオレット」
すると、いつも通り凛々しい立ち姿をしたレザミリアーナが二人に向けてそう話しかける。
「遅くなり申し訳ありません、レザミリアーナ姉様」
「別に良い、それよりも、到着したなら早速王城へ向かい他国交渉へ赴くことになるが、問題無いか?」
「はい」
「問題ありません」
「よし、では行こう」
そして、シアナとレザミリアーナ、バイオレットの三人は、王族用の白の馬車に乗ると、一緒にカティスウェア帝国の王が待っている王城へと向かった。
◇ルクスside◇
一度シアナと別れた僕とフローレンスさんは、僕たちが宿泊する予定の屋敷の方向へ足を進めながらも、その街並みやお店の数、そして何より人の数に驚いていた。
「すごいたくさんのお店と人の数ですね」
「カティスウェア帝国はこの辺り一帯の経済の中心国ですから、様々な国の人間がここで商売を行っているのです……人が多いのは、当然この国が経済の中心国ということもあると思われますが、この場所が大通りだからでしょう」
「なるほど……」
当然、この辺りの国々の経済中心国であるカティスウェア帝国という国の名前は僕も知っていたけど、僕は自分が将来治めることになる領地運営の勉強だけで手いっぱいだったため、他の国のことはあまり知らない。
「フローレンスさんは本当に物知りですね!」
僕がそう伝えると、フローレンスさんは頬を赤く染めて言う。
「私などまだまだです……情勢を知るために他国の情報も収集しているというだけですので」
「情勢……フローレンスさんは本当にすごいです!」
「あ、ありがとうございます」
フローレンスさんは、頬を赤く染めて小さな声でそう言った。
そして、僕は思ったことを口にする。
「経済の中心国ということは、この国ではあまり物騒なことは起きないんでしょうか?」
「はい、比較的に安全な国だと思われます……ただ、経済国ということもあり、商売に失敗してしまった方々────」
フローレンスさんが話している最中────僕の左前から突然僕の方に向けて走って来た男の人と、僕は肩がぶつかってしまった。
「おっと、悪ぃ」
「ぼ、僕の方こそごめんなさい!」
僕がそう謝罪すると、その男の人は僕たちの後ろを去って行った。
……いくら突然走って来たからと言っても、誰かと肩がぶつかってしまうなんて。
本当に申し訳な────
「ルクス様、あの方を追いかけましょう」
僕がそう考えていると、フローレンスさんが突如そんなことを言った。
「……え?ど、どうしてですか?」
僕がそう聞くと、フローレンスさんは言う。
「────ルクス様のお財布が、あの方に盗まれてしまったからです」
「え……!?」
その言葉を聞いた僕が、ポケットに入れていた財布を確認すると……確かに、財布が無くなっていた。
「背中が見えなくなる前に、追いかけましょう」
「は、はい!」
僕は、突然のことに少し動揺しながらも、フローレンスさんと一緒にさっき僕と肩のぶつかった男の人を追いかけることにした。
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