第97話 レザミリアーナ姉様
第三王女フェリシアーナと第二王女エリザリーナの姉である第一王女、レザミリアーナは他国交渉で明日までは帰ってこないはずだった。
そして、もしもこのような物騒な状況をレザミリアーナに見られたらレザミリアーナの怒りを買うとわかっていたからこそ、レザミリアーナが帰国する前日にこの場を作った。
だが……レザミリアーナは、まだ帰国予定日になっていないにも関わらず帰ってきた。
そのことに、驚きを覚えているシアナの目は虚なものでは無くなっており、普段の目となっていた。
その直後、シアナはバイオレットにエリザリーナから短刀を下ろし拘束を解くようアイコンタクトで伝え────るまでもなく、バイオレットはその両方を為しており、さらにはいつの間にかエリザリーナの後ろからシアナの後ろへとやって来ていた。
シアナがレザミリアーナの登場に動揺していてバイオレットへの指示が遅れてしまったとしても、バイオレットはシアナの思考をしっかりと読んでいる、どころかそれ以上に答えてくれる。
レザミリアーナの反応を見るに、バイオレットがエリザリーナの首元に短刀をかざしていたことやエリザリーナの体を拘束していたことは、バイオレットの判断の速さのおかげもあり見えていなかったらしい。
そのことにシアナが安堵していると、エリザリーナは何事も無かったかのように普段の声音で言った。
「レザミリアーナお姉様、お姉様の帰国は明日じゃなかったっけ?」
「王族以外の人間が居るときは私に敬語を使えと何度も言っているだろう」
「はいは〜い!えっと、お姉様の帰国は明日じゃなかったんですか〜?」
敬語を使うよう促されたエリザリーナは、軽い声でそう聞いた。
そのことに呆れを覚えながらも、一応は敬語を使っているため特に指摘はせずにレザミリアーナが言う。
「確かに帰国予定日は明日だったが、少々話が変わった……言わば、今は一時帰国のようなものだ」
「一時帰国ですか〜?どうして?」
「それはエリザリーナとフェリシアーナにも関係のあることだから後で伝えるが────その前にこの状況を説明してもらおうか、王城のエントランスにこれだけの兵士、そしてエリザリーナとフェリシアーナが向かい合い、フェリシアーナの隣にはバイオレット……帰国早々異常事態だ、私が来るまでの間ここで何をしていた?」
レザミリアーナは、力強い声音でそう言った。
レザミリアーナの性格は、品行方正で厳粛、もしこの場で命のやり取りを行おうとしていたなどと告げればレザミリアーナは間違いなく怒りを覚えるだろう。
シアナがどう答えるべきか悩んでいると、先にエリザリーナが口を開いて言った。
「いや〜、実は私がフェリシアーナのこと驚かせるつもりでここに呼んで、私の部下たちに囲ませて『い、いきなり囲まれてびっくりしたわ!』みたいな感じの反応見たいなって思ったんですけど〜、フェリシアーナ全然驚いてくれなくて今ちょうどこの場が冷えちゃってたんですよ〜」
「兵士たちは武装しているようだが、悪戯にしては度がすぎていないか?」
「だって、フェリシアーナが相手なんだし、そのぐらいしないと驚いてくれないかな〜って」
「夜を選んだ理由は?」
「夜の方が怖いじゃないですか、今度お姉様にもしてあげましょうか?お姉様が夜王城の廊下を歩いてる時に……わっ!みたいな」
「……要するに、エリザリーナの悪戯ということか、だがそのような悪戯に部下を夜まで連れ回すのは王族のあるべき姿では無いな」
「ちゃんとお金払ってるし、夜護衛の中から選んでるんで大丈夫です!」
「そんなことに財源を……まぁいい」
他国交渉の疲れもあるのか、レザミリアーナはエリザリーナに注意するよりも呆れの方が勝ったようで、その話に一区切りつけた。
────よくもあんな嘘を平然と並べられるわね……レザミリアーナ姉様がエリザリーナ姉様の言葉を完全に信じているとかと言ったらおそらくそうでは無いでしょうけれど、少なくとも表面的な理由は説明できたならこの場でそれ以上追求しても意味がないから、追求はしないのでしょうね。
シアナはそんなエリザリーナの話術に少しだけ感心しながら、次のレザミリアーナの言葉に耳を傾けた。
「ならば、次に私がどうして一時帰国をしたのかの説明をする……先ほど話が変わったと言ったことは覚えているな?」
「はい」
シアナがそう言って頷くと、レザミリアーナは説明を続ける。
「本来、私一人で他国交渉を行い、契約を結ぶ予定だった……実際、今までもそうしてきた────が、相手が交渉条件に、私以外の王族、それも私の妹のどちらか一人を連れてきて会わせるように言って来た」
「つまり、エリザリーナ姉様か私のどちらかをということですね……何かの罠という可能性はありませんか?」
あまり聞き慣れない不自然な要求にシアナがそう聞くと、レザミリアーナは言う。
「経験上わかることだが、罠では無い……おそらく、他国交渉に慣れている私ではなく、他国交渉に慣れていないエリザリーナかフェリシアーナのどちらかから我が国を見極めたいのだろう、確かにこのような要求をしてくる国は珍しいが、それだけ経済や資源だけでなく人を重視している国ということだ」
この国は、全ての水準において間違いなく世界の中でも上位に位置する。
それは主に三人の王女たちのおかげだが、今回レザミリアーナが交渉している国はそれらのものだけではなく人も重視しているようだ。
レザミリアーナがそう説明したあと、エリザリーナが手を挙げて言った。
「はいは〜い!じゃあ私!私が行く〜!私だったら絶対契約完了まで持っていける!!」
「確かに、お前ならそれも難しくないかもしれない……が、今回私はフェリシアーナを連れて行こうと思う」
「……私を?」
シアナがそう聞き返すと、レザミリアーナは頷いて言った。
「フェリシアーナは、王族として必要な知性、剣術、精神性を持っている、その才は私よりも上だと言って良い────だがまだ経験不足だ、だからこそ私はフェリシアーナに、今回の他国交渉で少しでも経験を積み、王族として少しでも成長を遂げて欲しい」
レザミリアーナは、姉としてどこか優しい微笑みを妹であるシアナに向けながらそう言った。
シアナは、それに対して頷いて答える。
「わかりました……私が、レザミリアーナ姉様と共に他国干渉を遂行します」
「あぁ、頼りにしている」
二人がそんなやり取りをしていると、エリザリーナが大きな声で言った。
「え〜!待って待って!私も久々に他国行きた〜い!!」
そんなエリザリーナの言葉に、目を一段と鋭くしてレザミリアーナが言った。
「他国交渉は旅行じゃない、自由な時間があったとしてもそのときは他国の市場調査や問題点を見つけそれを我が国に重ね改善できるかどうかを思考する時間だ」
「ちょっ、お姉様目怖〜!でも〜!私だけ留守番なんて────私だけ、留守番?」
それから、エリザリーナは小さな声で呟く。
「フェリシアーナが居ないってことは、私その間にルクスと……」
エリザリーナがシアナとレザミリアーナには聞こえない声で何かを呟くと、エリザリーナは手を挙げて言った。
「は〜い!じゃあ私、お留守番してま〜す!」
「突然態度が変わったようだが、わかったならそれでいい……フェリシアーナ、再度他国交渉へ赴くのは三日後だ、それまでに準備をしておくように」
シアナはそのレザミリアーナの言葉に頷きながらも、エリザリーナの思考を推測していた。
────どうせ、私が居なかったらルクスくんのことを好きにできると考えているのでしょうけれど、そうはいかないわ……三日後までに、何か対策を考えないといけないわね。
シアナがそう思っていると、レザミリアーナが言った。
「話はこれで終わりだ、そろそろお前たちも休んだ方がいい」
「はい」
「は〜い」
シアナとエリザリーナがそう返事をすると、レザミリアーナは堂々とした姿勢のまま王城のエントランスを去り────再度、王城のエントランスにはシアナとバイオレット、そしてエリザリーナとその部下たちだけが残り、シアナとエリザリーナは改めて向き合った。
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