第94話 主導権

 王城のエントランス、つまりはシアナとバイオレットのことを囲んでいる数十人の兵士たちは、しっかりと鎧と武器で武装をしていた。

 シアナとバイオレットを相手にすることを前提で呼ばれた兵士たちということは、相当練兵されている兵士、それが数十人。

 その光景を見たシアナは────全く動じずに言う。


「王城のエントランスという場所を指定する以上、エリザリーナ姉様がこの程度のことを仕掛けてくることは予想できていたわ……けれど────それでもこの場所を選んだのは、私とバイオレットが確実に主導権を握るためよ」

「主導権?」


 そう聞き返してきたエリザリーナに、シアナは言う。


「いくら練兵された兵士が何人、何十人、何百人居ようと、こうしてエリザリーナ姉様の命を握っている状況では、その兵士たちはただ武装しているだけで、動くことはできないわ……つまり、今この場では私とバイオレットが主導権を握っているのよ」


 単純な話、もし自分たちに攻撃すればエリザリーナの命を奪うと言えば、エリザリーナの部下たちは主人の命を奪われるわけにはいかないため動けなくなる。

 もしも純粋な戦闘となっていれば、数の差もあり結果がどうなっていたかはわからない……それでも、今までシアナ、そしてこの国のために幾度となくその手を様々な手段で血に染めてきたバイオレットが一度狙って標的の命を握っている状況になったのであれば、もはやその勝敗は決まったも同然だった。

 その意図でシアナがエリザリーナにそう告げると、エリザリーナは言った。


「確かに、もし今フェリシアーナが言った前提通りなら、フェリシアーナの言った通り私が用意した兵士たちがこの場に居る意味は無くなるね……だけど、嘘は良くないよ?」

「……何のことかしら」

「────今、この状況で主導権を握ってるのがフェリシアーナとバイオレットなんて、そんな嘘が私に通じると思ったの?」


 エリザリーナは、バイオレットに両腕を拘束され、首元に短刀を突きつけられている……いくらエリザリーナが弓を扱う能力が高いと言っても、両腕を拘束されていては弓を扱うことはできず、純粋な身体能力や戦闘術でバイオレットに勝つことはできない。

 そんな状況下で、エリザリーナは虚な目で、だがどこか小さく口角を上げながら無機質な声でそう言った。

 そして、首元に突きつけられている短刀に視線を送って言う。


「こんなの、ただのお遊びだよ……確かに今、フェリシアーナとバイオレットはいつでも私の命を奪える状況にあるけど、そもそも二人は私の命を奪う気なんて無いんだから」

「いいえ、もしエリザリーナ姉様が今回のことを謝罪し、手を引いてくださらないというのであれば────」

「奪えないよ、私の命は……私が居なくなったら、この国は破綻する……賢いフェリシアーナなら、そんなこと言わなくてもわかるでしょ?フェリシアーナが今後どんな計画を立ててるのか知らないけど、そんなことになったら間違いなくその計画にも支障が出る……だからフェリシアーナは私の命を奪えないし、この状況で主導権も握れない……だから、この状況は数を多く取ってる私の方が主導権を握ってるんだよ」


 エリザリーナは、シアナの目を見てそう告げた。


「……」


 そして、沈黙したシアナのことを見て自らの勝利を確信した様子のエリザリーナは、虚な目と無機質な声をやめて普段通りの声音で言う。


「本当、フェリシアーナは小さい時からあと一歩、こういうところで私に及ばないよね〜、まぁそこが可愛いところでもあるんだけど」


 もしも、今回フェリシアーナがこの場に居る理由がルクスに関連することで無ければ、この場では大人しくエリザリーナに降伏するしかなかっただろう。


「でも、今回の件、別に私はそこまで大きくするつもりは無いんだよね……このままフェリシアーナが引いてくれるなら、私もこのまま何もしない……だって、今回の件はお互いに運が良くなかっただけだと思うんだよね、私のしたいこととフェリシアーナの計画が王族交流会中に重なっただけだし」


 だが────フェリシアーナがこの場に居るのは、エリザリーナが自分の恋愛に関与しないと言ったのを破り、ルクスに関与して来たからだ。


「だから、今回のことは一回姉の私の顔を立てると思って────」

「できないわね」


 そう言ったシアナの言葉が予想外だったのか、エリザリーナは衝撃を受けた。


「他のことなら、例え破られたとしてもここまで私が怒ることは無かったでしょうけれど────今回の件だけは、絶対に許すわけにはいかないのよ」

「……破られた?フェリシアーナ、何の話して────」

「バイオレット」


 シアナは、先ほどエリザリーナが言っていた通り、当初は適切な処罰────つまり、エリザリーナに降伏させて、ルクスへ手を出すのを辞めさせるつもりで居た。

 だが────万が一、その適切な処罰を行えない場合のことを考え、もう一つの処罰を考えていた。

 シアナは、バイオレットの名前を呼ぶと続けて言う。


「このままだと、エリザリーナ姉様が今後彼にどのようなことをしてくるかわからないわ……だから────」

「そのような説明など不要です、私は、お嬢様と、そして……彼の方の幸せのために、どのようなことでもすると誓いました……なので、お嬢様のなされることに異論はありません」

「そう……なら────」


 シアナは、エリザリーナの方を見ると、虚な目と無機質な声音で言った。


「エリザリーナ姉様……やはり、エリザリーナ姉様にはこの場で消えてもらうわ」


 ────全ては、ルクスくんのために。



 この作品の連載を始めてから三ヶ月が経過しました!

 いつもこの物語を読んで、いいねや☆、コメントをくださり本当にありがとうございます!

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 作者は今後もこの物語を楽しく描かせていただこうと思いますので、この物語を読んでくださっているあなたも最後までこの物語をお楽しみいただけると幸いです!

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