第93話 王城のエントランス

◇エリザリーナside◇

 三日前、ルクスが婚約の申し出を受けてるっていう話を聞いて、エリザリーナは王城に帰った後すぐに貴族学校の学力試験で満点を取った人物のことを資料で見つけた。


「フローリア・フローレンス……」


 その名前を見て、エリザリーナは厄介だと感じた。

 フローレンス公爵家は、この国の要の一つと言っても良い家で、もしフローレンス公爵家が何かの要因で崩れたらこの国は少なからずダメージを被る────つまり、フローリア・フローレンスのことを処理するのは簡単では無いからだ。


「まさか、あのフローレンス公爵家の令嬢がルクスに婚約の申し出をしてるなんて……しかも、ルクスからはかなり好印象……だけど、あの感じだとルクスはまだ友達としか思ってない感じだろうからそこは心配しなくていいかな」


 とは言っても、フローレンス公爵家はロッドエル伯爵家の人柄が良いと言われているのとは少し意味が変わってくるものの、基本的には人格者な家。

 そんな家の令嬢、それももしその令嬢を処理してしまったらルクスが悲しむというところを考えると、いくらエリザリーナの恋路の邪魔だったとしても処理をするのは少し憚られた。


「……なんて、フローリアのことばっかり考えてても仕方ないよね────もしかしたら、私は今日でルクスとの恋を諦めないといけなくなるかもしれないんだし」


 そう言いながらも、エリザリーナには全くそのつもりが無い。

 エリザリーナにはフェリシアーナが何をしようとしているのかが大体予想できているため、それを利用した上でフェリシアーナに降伏させる。

 エリザリーナは、どうしてフェリシアーナがルクスに関与してこようとしているのかはわからないが、少なくともフェリシアーナはルクスに固執しているわけではないと考えていた。

 あくまでも王族交流会時のみの計画の一部、最悪の場合でもエリザリーナとルクスの関係がバレ、今までの腹いせのためにその関係を邪魔しようとしている、ぐらいに考えている。

 と言っても、後者はフェリシアーナらしく無いため、可能性が高いとしたらやはり前者だろう。


「まぁ、でも……そろそろフェリシアーナに、姉として時には引くことも大事なんだよって教えてあげないとね……ふふ」


 そんなことを呟きながら、エリザリーナはフェリシアーナから言伝された王城のエントランスへ向かった。



◇シアナside◇

 シアナが王城のエントランスに着いてから数分が経った頃、明るいピンク色の髪を二つ括りにして、胸元を露出させた赤色の服に同じく赤色のスリットのスカートを履いたエリザリーナがシアナの居る王城のエントランスに姿を現した。


「あれ、てっきりバイオレットも居ると思ったけど、居ないんだ?」

「えぇ、これは私たち二人のお話ですから」

「嘘かなって感じたけど、可愛い妹の言葉だから信じてあげないとね〜」


 そう言いながら、エリザリーナは明るい表情でシアナに近づいてきて、腕を伸ばせば触れられるほどの距離で足を止めて言った。


「それで?フェリシアーナ、今日はどうしてこんなことするの?」

「こんなこと、とは?」

「とぼけないでよ、今日────お姉様が他国交渉から帰ってくる前日の、それも人目に付きづらい夜を選んだのは、手荒なことをするためでしょ?」


 シアナは、我が姉ながら流石の洞察力だと感じる。

 表情や口調など、表面的なものだけを見るとエリザリーナはお世辞にも洞察力に優れていそうとは思えないが、実際は違う。

 本当は、誰よりも頭を回転させ、誰よりも的確に人の心理を読み取ってくる────が、エリザリーナがこちらのしようとしていることを見抜いていることなど、フェリシアーナとてわかってい流。


「流石エリザリーナ姉様です、それらの情報だけでこちらの意図をお読みになるとは」

「え〜、当たっちゃった〜、怖〜い、じゃあ私、今からフェリシアーナに手荒なことされちゃうんだ〜、か弱い女の子だから怖いよ〜」


 相変わらず自分とは全く合わない性格のエリザリーナの態度に加えて、自分の恋愛には関与しないと言ってきたことを破ったエリザリーナに対し、虚な目と無機質な声音で言った。


「言っておくけれど、今日の私はそんなおふざけに付き合うつもりは全く無いわ……私はここに、エリザリーナ姉様のことを処罰しに来たのだから」


 そんなフェリシアーナのことを見ても、エリザリーナは特に態度を変えずに言う。


「私、処罰されるようなことしたかな〜?フェリシアーナに迷惑かけた覚えはないんだけど〜」


 どこまでも飄々とした態度をやめないエリザリーナのことを見て、このままでは話が進まないと感じたフェリシアーナは、王城のエントランス上にあるシャンデリアに潜ませていたバイオレットに視線を送ると────黒のフードを被ったバイオレットは、その次の瞬間にはエリザリーナの両腕を拘束し、首元に短刀を突きつけていた。


「……へぇ」


 状況が変化したことにより、ようやくエリザリーナの顔つきや声音も真面目なものに変化した。

 そして、エリザリーナは続けて言う。


「フェリシアーナ、こんなことすることの意味わかってるの?今辞めるんだったら可愛い妹の悪戯心ってことで許してあげるけど、もし辞めないんだったら────もう、後には引けないよ?」


 この二人の姉妹が争うということは、当然ただの姉妹喧嘩では終わらない。

 後には引けない────それは、第二王女と第三王女の内乱が始まるということだ。

 そんなことになれば国を揺るがす事態にもなりかねない。

 そのことを警告してきたエリザリーナに対し、シアナは言う。


「引くつもりなんて無いわ」


 ハッキリとそう言ったシアナのことを見て、次にエリザリーナは自分に短刀を突きつけている人物に話しかける。


「ねぇバイオレット、こういうフェリシアーナが暴走した時こそ止めるのがバイオレットの仕事じゃないの?」


 黒のフードを被っていてバイオレットの顔は見えないが、シアナと二人で行動を起こし、ましてやあそこまで慣れた動きをできる人間は限られる。

 そのため、エリザリーナが黒のフードを被った人物をバイオレットだと断定して話しかけると、バイオレットは返事をした。


「確かにその通りですが……恥ずかしながら、今回は私も少々感情的になっております」

「そっか────なら、終わらせるしかないね」


 エリザリーナがそう言うと────突如、王城のエントランスを囲むように数十人の兵士たちが現れた。

 そして、エリザリーナは続けて虚な目となって無機質な声で言った。


「私の邪魔をしてくるなら、私も……二人のことを処理しないとね」

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