第89話 フード
────本日の貴族学校での授業が全て終わると、僕は馬車に乗って街へやって来ていた。
その理由は、前エリナさんと会った時の別れ際に今日貴族学校が終わった後に一緒に美味しいものを食べようと約束したからだ。
あまりシアナのことを心配させたく無いから夜と呼ばれる時間帯になる前には帰らないといけないけど、それでも十分楽しめるはずだ。
僕がエリナさんとの待ち合わせ場所に向かうと────そこには、赤のフードを被ったエリナさんが居た。
そして、エリナさんは僕に気が付くとすぐに僕の方に駆け寄って来て言った。
「ルクス!」
「こんにちは、エリナさん……今日も赤のフードを被ってるんですね」
「うん!外に出てる時はほとんど必需品だからね〜」
今までの話からして、エリナさんが相当良い家の生まれだということはなんとなく理解できている。
そして、どうしてフードで顔を隠さないといけないのかはわからないけど、それもおそらく家に関係する理由があるんだと思う。
だけど……
「なんだか勿体無いですね、エリナさんほど綺麗な人の顔がフードで隠れちゃってるなんて」
「っ……!」
エリナさんは、一度顔を俯けると、少し間を空けてから言った。
「もう〜!ルクスってば、口が上手なんだから〜!」
「う、嘘じゃ無いです!」
「まぁ、私も自分が可愛いのは自覚してるんだけど、ルクスに言われるとなんか色々と変わってくるっていうか……」
エリナさんは、小さな声で何かを呟いた。
僕はそんなエリナさんの様子を不思議に思い、首を傾げて言う。
「エリナさん?」
僕がそう様子を窺うと、エリナさんは両手を振って言った。
「な、なんでもないなんでもない!それより、今日はケーキ食べに行くって約束だったでしょ?早く行こうよ!」
「は、はい!」
やっぱりエリナさんの様子が少し気になったけど、今それを言及しても仕方ないから、僕はエリナさんと一緒にそのケーキ屋さんに向けて歩き始めた。
そして、ケーキ屋さんに到着すると、僕たちはその店内の個室に入り対面になるように席へ着いた。
「……」
この店内に入る前の外装を見て思っていたことだけど、ケーキ屋さん、なんていう表現をして良い場所なのかわからないほど高級感に溢れている。
ほとんどが白で統一された外装や店内で、インテリアもとても高級感があり、それこそ公爵家とか侯爵家の女性の人が紅茶と一緒にケーキを食べてゆっくり談笑していそうな場所だ。
「ルクスはどれ食べたい?」
そう言って、エリナさんがたくさんのケーキの名前が載っているメニュー表を見せてくれた。
「……どれも美味しそうですけど、オーソドックスに生クリームのショートケーキにしようと思います」
「じゃあ私もそれにしよーっと」
エリナさんがそう言って注文を済ませてくれると、エリナさんが注文が届くまでの時間を使って僕に話しかけてきた。
「そういえば、ルクスって貴族学校に通ってるんだよね?」
「はい、そうです」
「噂で聞いたんだけど、最近貴族学校で王族交流会があったんだよね?」
「ありました!王族交流会ごとに一人の王族の方が来てくださるんですけど、今回は第二王女エリザリーナ様が来てくれました!」
僕がそう言うと、エリナさんは少し間を空けて言う。
「そうなんだ、エリザリーナ……様は、どんな感じの人だった?」
「優しくて綺麗で、とても話しやすい人でした……本当に、あんな人が第二王女様として居てくれるこの国に生まれられて良かったなと感じます」
「っ……!そ、そんなに、その……良い、感じの人だったの?」
エリザリーナ様と話せる人なんて、おそらくほとんど居ないだろうから、奇跡的にでも言葉を交わすことができた僕は、エリザリーナ様の優しさを広めないといけないのかもしれない。
そう思った僕は、エリナさんにエリザリーナ様の魅力を伝えることにした。
「本当にとてもすごい人でした!王族の方なのに本当に話しやすくて、威圧感が無かったり、でも王族の方としての威厳はちゃんとあって、目とか顔立ちとかが綺麗で、あとはご存知だと思いますけどこの国をほとんど完全に調停してる本当にすごい人です!!」
「そ、そう……なんだ……」
僕がエリザリーナ様の魅力を伝えると、エリナさんはフードを深く被って小さな声でそう言った。
「……そういえば、店内の個室に入ったのに、フードを外されないんですか?」
僕が純粋な疑問を投げかけると、エリナさんはどこか辿々しい口調で言った。
「あ、あぁ、えっと……うん、後で外す、けど……私、今ちょっと見られたらいけないぐらい顔熱いっていうか……」
エリナさんは小声で最後の部分は聞こえなかったけど、見られたらいけないというところだけ聞こえたため、僕はその部分についてすぐに自分の意見を言う。
「見られたらいけない……?エリナさんは心身ともにとても魅力的な女性だと思いますよ」
「顔赤くなったり口角上がったりで余計フード外せなくなっちゃうからやめて!!」
「え……?」
口角……?
僕がそんなエリナさんの反応に困惑していると、少ししてから僕たちの注文したケーキが届いたため、僕たちはそれを一緒に食べることにした。
その頃にはエリナさんもかなり落ち着いていて、今からケーキを食べるということでエリナさんはそのフードを外した────やはり、エリナさんはとても魅力的な人だ。
そんなことを思いながらも、僕とエリナさんは同じように目の前にあるケーキに口を運んだ。
「お、美味しいです!」
「そうだよね!」
「はい!この生クリームとフワフワな生地がとても食べ心地が良いです」
高級店といった雰囲気なだけあって、素材にもかなりこだわっているのがよくわかる。
僕とエリナさんが、少しの間ケーキの味を堪能しながらそれぞれケーキを食べ進めていると、エリナさんが言った。
「……ねぇ、ルクス、一つ聞きたいことがあるんだけど、良い?」
「はい、なんですか?」
僕は、一度ケーキを食べる手を止めると、次のエリナさんの言葉に耳を傾けることにした。
「────もしエリザリーナ様から直接婚約して欲しいって言われたら、ルクスはどうする?」
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