第88話 適切

◇バイオレットside◇

「第二王女エリザリーナ様を……処罰、ですか?」


 バイオレットは、昔からシアナと時間を過ごしていたということもあって、基本的にシアナの思考回路は理解している。

 だからこそ、シアナの望むことに応えることができ、シアナの計画のために必要の無いシアナの感情を抑制することもできる。

 だが……今回は王族交流会でルクスと過ごしたという楽しいことが余韻として残っていたことと、この国の第二王女でもありこの国の要でもあり、さらにシアナの実の姉でもあるエリザリーナのことを処罰するという発言には、流石のバイオレットでもその思考が読めず困惑してしまった。

 そんなバイオレットの反応は想定していたのか、シアナが処罰という言葉の補足をするように言う。


「処罰と言っても、ザルド・ザーデンの時や例の三人の男子生徒に起きた事と同義では無いわ」


 三人の男子生徒は処罰可能日になった翌日、何者かに暗殺されたことがシアナやバイオレットの耳にも入っていたが、その性格や数々の不正から誰かしらの恨みを買っていたことは間違いないため、シアナはそれを聞いた時に「手間が省けたわ」とだけ言って、すぐに三人男子生徒の件を気にすることをやめた。

 つまり、このことからシアナが何を言いたいのかと言えば、エリザリーナに行う処罰というのは命を奪うことでは無い、ということだ。

 エリザリーナが居なくなってしまえば、国の中で何が起きるかわからなくなってしまい、そうなるとルクスの身にも危険が及ぶ確率が高まるため、シアナはエリザリーナの命を奪う気は無いのだとバイオレットは認識した。

 そして、シアナの口調や声音から考えてもそのことは間違い無いだろう。

 だからこそ、今までの処罰と同義ではなく────適切な処罰を行う必要があるということ。

 だが、バイオレットは処罰以外にも気になることがあった。


「どうして、エリザリーナ様を処罰するといったお考えになられたのですか?」

「エリザリーナ姉様が、私の恋愛に関与しないと言っていたのを破り、ルクスくんに手を出してきたからよ」


 ────エリザリーナ様が、ロッドエル様に手を……?

 それは今や、シアナだけではなくバイオレットにとっても無視できない問題なため、バイオレットはそのことについて言及する。


「具体的には……どのようなことをなされたのですか?」

「ルクスくんのことを後ろから抱きしめたそうよ、それも、ルクスくんに自らのことを優しい人物だと思わせるように誘導して」

「っ……本当の話なのですか?」

「ルクスくんから直接聞いたことよ、もっとも、あなたがルクスくんの言葉を疑うなら話は別だけれど」


 当然、バイオレットにルクスの言葉を疑うという選択肢は無い。

 だが、バイオレットはシアナに比べると恋愛事に関しても落ち着いた物の見方をできる────正確には、今までシアナの暴走を止めるためにそうせざるを得なかったため、今でもその癖が身に付いているため、それによって浮かび上がってきた疑問を口にする。


「エリザリーナ様に、何か別の目的があったという可能性も考えられます」

「私からルクスくんを奪う、それ以外にエリザリーナ姉様がルクスくんのことを抱きしめる理由なんて無いわ」

「その前提が間違えていて、エリザリーナ様がお嬢様に関係なくロッドエル様のことを抱きしめたという可能性もあるかと思われます」

「それこそあり得ないわ、ルクスくんとエリザリーナ姉様は、今回の王族交流会以外で会う機会なんて無かったはずよ……それは、ルクスくんが貴族学校に居る時も見張ってるあなたの方がわかっているはずじゃないかしら?」


 確かに、ルクスとエリザリーナに共通点があるとすれば、シアナの存在だけ。

 それ以外には、エリザリーナがルクスのことを抱きしめる理由など思い当たらない。

 バイオレットが現状を理解したことを伝えるように頷いて見せると、シアナとバイオレットは早速処罰の内容と計画を立て始めることにした。



◇エリザリーナside◇

 王族交流会を終えて王城に帰ってきたエリザリーナは、早速今日の王族交流会に参加している参加者のリストに目を通していた。


「ルクスと関わりがありそうな人物は……」


 王族交流会参加者のリストに目を通しているのは、今日の王族交流会でルクスと二人きりで個室に居た人物、女性を割り出すことが目的。

 エリザリーナは、その参加者たちの中からルクスと関わりのある人物を探す────が。

 そもそも、ルクスは基本的に外部の人物と直接関わるような事はなく、それが王族の関係者ともなればさらにルクスが普段関わるような機会は無い。

 それでもエリザリーナが一通り目を通していると────


「……バイオレット?」


 参加者リストの最後の欄の名前には、バイオレットの名前があった。


「ルクスに夢中で王族交流会に参加するメンバーの名前なんていちいち確認してなかったけど、どうしてバイオレットが王族交流会に参加してるんだろ、バイオレットは基本的にずっとフェリシアーナの近くに居るはずなのに……ていうか、今日の王族交流会にバイオレット居なかったと思うんだけどな〜」


 だが、仮に参加していたと仮定した場合、バイオレットがフェリシアーナからの命令でなく独断で王族交流会に参加するとは考え難い。

 となると、バイオレットはフェリシアーナからの命令、もしくはフェリシアーナから許可を得て王族交流会に参加したということになる。


「フェリシアーナがこの王族交流会でバイオレットに何かをさせたかったのか、もしくはバイオレットの方が何かしたいことがあってフェリシアーナがそれを許可したとか……後者の方は今までのバイオレットの性格を考えれば薄そうだけど、可能性としてはあり得るよね」


 フェリシアーナ、もしくはバイオレットにもルクスと繋がりがあるとは思えない。

 ────でも、やっぱりこの王族交流会にバイオレットが意味も無く参加してるなんて考えられない。


「……フェリシアーナかバイオレット、もしくはその両方に問い詰めて反応見るしか無いかな」


 エリザリーナは、二人を問い詰める時間や場所の準備をすることにし────場合によっては、二人に対し適切な処理を行う計画を立てることにした。

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