第79話 思惑

◇ルクスside◇

 次の日、貴族学校に登校した僕は、席に座ると隣の席のフローレンスさんと朝の挨拶を交わした。


「フローレンスさん、おはようございます」

「ルクス様、おはようございます……休日に街外れで出会って以来ですね」

「はい!」


 いつも、休日明けにフローレンスさんと会う時は、会っていない期間は少しのはずなのに久しぶりのような感覚に陥るけど、今週は休日にフローレンスさんと会っているから、特別久しぶりといった感覚は感じない。

 僕がそんなことを思っていると、フローレンスさんが言った。


「それはそうと……ルクス様、そろそろあの時期ですね」

「あの時期……?」


 僕が、あの時期と言われてすぐにその答えが出ずに居ると、フローレンスさんが言った。


「月に一度行われる、王族交流会の時期です」

「あぁ〜!そういえばそうですね!」


 そうだ、あと少しで王族交流会の時期……貴族学校の入学式、そして前回の王族交流会では第三王女フェリシアーナ様がこの貴族学校まで出向いてくれたけど、フェリシアーナ様も忙しいだろうし、三回連続で王族の方が貴族学校に来てくださる機会に来るというのは難しいだろう……となると。


「次の王族交流会では、いよいよ僕たちが貴族学校に入学してからは初めて、第三王女フェリシアーナ様以外の王族の方が来てくださるかもしれないですね」


 僕がそう言うと、フローレンスさんは頷いて言った。


「はい、私もそう考えています……第一王女様か第二王女様、ですね」

「僕は、第一王女様とも第二王女様とも会ったことが無いので詳しくは知らないんですけど、フローレンスさんはそのお二方とお会いしたことありますか?」

「第一王女様は、他国との交渉などに力を入れているようですので、他国の方と関わる機会のあまり無い私はほとんど接点がなく、数年ほど前にたまたま同じパーティー会場に居ることがあり遠目に見たことがある程度です」

「そうなんですね」


 やっぱり、あの第三王女フェリシアーナ様のお姉さんということもあって、第一王女様はそう簡単にお目にかかれる存在では無いらしい……というか、そもそもフェリシアーナ様も簡単にお目にかかれる人ではない人だから、何度かお会いできている僕はもしかしたら本当にすごい運を使っているのかもしれない。


「第二王女様は、数年ほど前に第二王女様自らが直接フローレンス公爵家の屋敷へ来てくださったときに直接この目で見たことがあります……と言っても、その時の第二王女様は国の調停に協力をしてもらうよう話をしにフローレンス公爵家へいらしたらしく、その時は私のお父様が第二王女様と話をしていましたので、私はその会話を横で聞いているだけでしたが」

「そうだったんですね……第二王女様は、どんな雰囲気の方でしたか?」

「フローレンス公爵家が国の調停に邪魔となる存在ではなく、むしろ調停のために力を振るえる家だからというのもあるのかもしれませんが、その時の第二王女様は第三王女様と比べると、王族の方としてはとても砕けた印象の方でした」

「砕けた印象……あまり威圧感が無いということですか?」

「はい」


 僕がそう聞くと、フローレンスさんは頷いてそう答えてくれた。

 ……第一王女様に関しては相変わらず全然どんな人かわからないけど、威圧感のあまり無い王族の人というのはなかなか珍しいと思うし、第二王女様をこの目で見てみたいな。

 でも────


「どちらの方が来てくださるとしても、とても楽しみですね!」


 僕がそう言うと、フローレンスさんは穏やかな表情で言った。


「はい、とっても」



◇シアナside◇

 シアナは、ロッドエル伯爵家の庭の手入れをしながらルクスとバイオレットに二人で過ごす時間を作る方法を考えていた。


「プライベートで、いきなり私の従者のバイオレットがルクスくんと二人で過ごすというのはルクスくんも違和感を感じるでしょうし、かといって私のついでという形で二人きりになることはバイオレットの望む形ではないわよね」


 そして────一つの答えを導き出した。


「王族交流会なら王族の関係者のバイオレットは自然に参加できて、エリザリーナ姉様がルクスくんに執着する理由は無いはずだから、ルクスくんとバイオレットがその会場から居なくなったとしてもそこまで気にしない……フローレンスだけが少し問題だけれど、そこは対策を考えれば、あの場が王族交流会という場である以上どうにかなるわね────決まったわ、ルクスくんとバイオレットが二人で過ごす日は、王族交流会の日よ」


 シアナは、その王族交流会という場がまるでルクスとバイオレットのために設けられているのではないかと思ってしまうほどに綺麗に条件が合うことに少し驚きながらも、バイオレットの喜ぶ顔が目に浮かぶようでそのことを嬉しく感じた。



◇エリザリーナside◇

 エリザリーナは、王城にあるテラス席に座り、街並みを見ながら王族交流会について考え事をしていた。


「王族交流会、どうしよっかな……エリナとしてルクスと会った時は髪型は普段のツインテールじゃなくてロングだったし、服装もフードの付いてる服で普段と全然違ってたから、きっとルクスは王族交流会でツインテールになってドレスを着て、王族として振る舞ってる私のことを見ても私がエリナだってことには気付かない」


 だが、自ら正体を明かせば別だ……だから、問題はエリザリーナが自ら正体を明かし、ルクスと距離を縮めるか……だが。


「もしそんなところを見られたら、ルクスが変に目立っちゃってあの三人の男子生徒の件の二の舞になっちゃうかもしれないし、もし私に恨みでも持ってる奴が居たらルクスがそいつに狙われちゃうかも……じゃあ、少なくとも王族交流会の場じゃ正体は明かせないかぁ」


 エリザリーナは、せっかくルクスと同じ場に初めてエリザリーナとして出るのに、自分がエリナだと正体を明かせないことが少し歯痒かった。


「でも、一言交わすぐらいなら交流を目的とした場なんだし、問題ないよね……うん、決めた!ひとまず、一言だけルクスと言葉を交わしてその日は満足することにする!……早くルクスと会いたいなぁ」


 エリザリーナは王族交流会の日にルクスと会うことを想像すると、頬を赤く染めて自然に口元を緩めていた。

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