第77話 価値

◇ルクスside◇

「ご主人様!お待たせしてしまい、申し訳ありません!」


 ようやく恥ずかしさを抱いていた僕の心に落ち着きが戻ってくると、そのタイミングでシアナが僕のところへ戻ってきた。


「ううん、気にしなくても大丈夫だよ……装飾店で見つけたっていう、気になるものは見られたの?」

「は、はい!十分見させていただきました!」

「そう、なら良かった」


 ひとまず、シアナが目的を果たせたみたいで安心した僕は、続けて言う。


「シアナ、さっき言っていた通り、今から一緒に街の景色の良いところに行こう」

「はい!」


 シアナが元気に頷いてくれたことで、僕は足を進め始めた────けど、すぐにシアナの足が進んでいないことに気付いた僕は、シアナの方に振り返って言う。


「シアナ?どうかしたの?」


 僕がそう聞くと、シアナは頬を赤らめながら言った。


「ご、ご主人様……その、私……」


 ……シアナは、僕に何かが言いたいことがあるみたいだけど、それを言えずに居るみたいだ。

 僕の従者という立場だから、僕に何かを言うのはことによってはそれ相応の勇気のようなものが必要になってくるのかもしれないけど、当然僕としては主人とか従者とかを気にしてシアナに我慢をして欲しく無いため、シアナが僕に伝えたいことを伝えやすくするためにシアナの方に歩み寄って言う。


「どんなことでも、言いたいことがあるなら教えてくれて良いからね」


 そして、僕がシアナの目の前までやって来ると、シアナは頬を赤く染めながら言った。


「ご主人様……私、ご主人様と……したいことが、あります」

「僕としたいこと?」

「はい……」


 シアナが僕としたいこと……どんなことなんだろう。

 今日は美味しいものをたくさん食べたり、街を見て回ったりしたけど、当然他にもできることはたくさんあるため、その中のどれかなのかな……それがどんなことだったとしても、シアナが僕としたいことがあると言ってくれるなら、僕は全力でそれに応えたい。


「聞かせてくれるかな?」


 僕がそう言うと、シアナは小さく頷いて、不安や緊張、恥ずかしさを抑えるようにしながら言った。


「私……私!ご主人様と、手……手を、繋いで……歩きたいです!」


 手を繋いで……そういえば、今までシアナと手を繋いで歩いたりしたことは無かったような気がする。

 僕は、様々なものを頑張って抑えて、勇気を振り絞りそう伝えてくれたシアナに伝える。


「うん、良いよ……目的地に着くまで、手を繋いで歩こうか」

「っ……!良いんですか?」


 そう聞いてきたシアナに、僕は僕の右手を差し伸べて言う。


「僕はきっと、世界で誰よりもシアナのことを大事に思ってて、シアナはそんな僕のことを誰よりも傍で支えてくれてるんだよ?手を繋ぐことなんて、良いに決まってるよ」

「ご主人様……!」


 僕がそう伝えると、シアナは嬉しそうな表情をして僕と手を繋いだ。

 そして、シアナは頬を赤く染めながら言う。


「……ご主人様と手を繋げるなんて、まるで夢のようです」

「こんな夢で良いなら、僕がいつでもシアナの夢を叶えてあげるよ」

「ご主人様……」


 僕とシアナは、互いに優しく手を繋ぎながら、街の良い景色が見られる場所へ向かい────到着した。

 夕暮れに照らされる街を見ながら、僕は言う。


「とても綺麗な景色だね」


 その僕の言葉に、シアナは頷いて言った。


「はい……このような景色をご主人様と見ることができ、私は本当に幸せです」

「僕も、シアナとこの景色が見れて本当に嬉しいよ……ねぇ、シアナ、一度手を離しても良いかな?」

「よろしいですが……どうかなされたのですか?」

「……ちょっと、ね」


 困惑している様子のシアナは、困惑しながらも僕と繋いでいた手を離した。

 そして、僕は夕暮れに照らされる街を背景にシアナと向き合って言う。


「今日は、いつも僕のことを支えてくれているシアナに、少しでもお礼をしたくてシアナに楽しんで欲しい思い一心でシアナのことを誘ったんだけど……シアナと一緒に楽しい休日を過ごすってだけだと、僕にとっても楽しいことだから、それだとお礼って言えるのかどうか難しいと思ったんだ」


 そう言った僕に対して、シアナは首を横に振って言う。


「そのようなことはありません……私は本日、とても楽しい時間を過ごさせていただき、本当にご主人様に感謝しています」

「僕も今日────ううん、今日だけじゃなくて、シアナには本当に毎日感謝してるよ……だから、その感謝を形にしたいと思ったんだ」

「形に……ですか?」


 僕は、困惑しているシアナの目の前に────この間シアナにプレゼントするために買った服を差し出した。


「っ……!」


 驚いた反応をしたシアナに、僕は伝える。


「本当に、いつも僕のことを思って、僕のことを支えてくれてありがとう……いつか、きっと立派な領主になって、もっとシアナに相応しい綺麗な宝石とかをプレゼントできるように、そしてシアナの主人として恥ずかしく無いように、これからも頑張っていくから……シアナに、これからも僕のことを支えて欲しい」


 僕がそう伝えると、シアナは僕の差し出した服を両手で受け取ると、その服を優しく抱きしめて涙を流しながら嬉しそうな表情をして言った。


「もちろんです、ご主人様……私は、いつまでもご主人様のことをお支え致します……どのような高価な宝石よりも、私にとって価値のあるものをくださり、本当に……本当に、ありがとうございます……」


 僕は、喜んでくれているシアナのことを見て、思わず微笑んだ。

 その後、涙を流していたシアナの涙が落ち着いてくると、暗くならないうちに僕とシアナは手を繋いで街へ戻り、そのまま二人で馬車に乗ってロッドエル伯爵家に戻った。

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