第76話 居心地

◇ルクスside◇

 フローレンスさんがどうして僕のことを抱きしめてきているのか、僕にはわからなかったけど……今、フローレンスさんのことを拒んではいけないことを、僕は直感的に感じたため、フローレンスさんのことを拒まずに少しの間フローレンスさんに抱きしめられ続けた。

 そして、少しが経つと、フローレンスさんはゆっくりと僕のことを抱きしめるのをやめて言った。


「出会って早々抱きしめてしまい申し訳ありません、ルクス様」

「い……いえ!少しだけ驚きましたけど、嫌だったわけじゃないので気にしないでください!」

「それはとても良かったです」


 そう言って、フローレンスさんはとても穏やかに微笑んだ。

 そして、続けて言う。


「見てください、ルクス様……このたくさんのお花の光景というのは、とても綺麗ではありませんか?」

「はい、綺麗です……僕も、フローレンスさんが来るまでずっとこのお花を見てました」

「そうでしたか……ルクス様には綺麗なものが似合いますから、お花はとてもお似合いですね」

「そ、そうですか?」

「はい」

「あ、ありがとうございます」


 綺麗な物が似合うと言われて少し恥ずかしさを抱いていると、フローレンスさんはそう言って微笑んでくれた……けど、その次の瞬間、フローレンスさんはどこか暗い表情をして言った。


「……私は、ルクス様のお傍に居てもよろしいんでしょうか」


 ……え?


「な、何言ってるんですか!フローレンスさんが、僕の傍に居てダメな理由なんて無いですよ!」


 僕が、突然出たフローレンスさんの言葉にそう強く否定すると、フローレンスさんは言った。


「先ほどもお伝えしたとおり、ルクス様には綺麗なものがお似合いです……ですが、私は綺麗というほど綺麗ではなく、かと言って染まりきることもできず、無力……そのような私がルクス様のお傍に居ても、意味など────」


 僕は、そんなフローレンスさんの言葉を遮って言う。


「フローレンスさんは綺麗な方で、すごい人です!傍に居る意味なんて、居心地が良いから一緒に居たいで良いじゃ無いですか!」

「しかし……私は、自らの信念を実行することができないほど無力なのです」

「フローレンスさんは無力じゃ無いですけど、仮に無力だったとしてもそんなの気にしなくて良いです!」

「それは……何故でしょうか?」


 フローレンスさんがそう聞いてくると、僕はハッキリと言った。


「────フローレンスさんが優しい人で、僕たちが友人だからです」

「っ……!」


 フローレンスさんは、目を見開いて僕の目を見つめてきた。

 そして、少ししてからフローレンスさんは優しく微笑んで言った。


「ルクス様……私は本当に、あなたという人物と出会えてとても幸せです」

「僕も、フローレンスさんと出会えて良かったです」


 僕たちが互いに明るい表情でそう伝え合うと、フローレンスさんが言った。


「ところで……私は以前、婚約の話をお伝えしたと思いますが、その上で友人だと仰られたということは、私との婚約の話を拒否なさるということでしょうか?」

「え、え!?そ、そういうつもりでは……」

「でしたら、婚約していただけるということでしょうか?」

「あ、あの……えっと……」


 僕がどう答えれば良いのかわからずに動揺していると、フローレンスさんは小さく微笑んで言った。


「ふふ、すみません、そのルクス様のお恥ずかしがっているお顔を拝見したく、少し意地悪をしてしまいました」

「っ……!?」

「楽しいお時間も過ごすことができましたので、私はこれにて失礼したいと思います……ルクス様、良い休日を」

「……フローレンスさんも、良い休日を」


 最後に、僕は恥ずかしさを抑えてそう伝えると、フローレンスさんは僕に微笑みかけてくれた後、この場を去って街の方へ歩いて行った────その後、僕は少しの間、恥ずかしい気持ちでいっぱいになった。

 だけど……やっぱり、フローレンスさんと一緒に時間を過ごすのは、居心地がとても良かった。



◇バイオレットside◇

 ────同じ頃。

 シアナは、バイオレットとの言い合いの後、ルクスと手を繋ぐ上での不安をバイオレットに相談していた。


「まずは、手の繋ぎ方は普通の繋ぎ方の方が良いのかしら?それとも、恋人繋ぎの方が異性として意識してもらえるのかしら!?」

「手を繋いでいるのであれば、どちらでも良いと思われます」

「そんなことないわ!きっとそこには大きな差が────」


 相変わらず、ルクスのことになると普段の知的な頭脳が無くなるシアナのことを見て呆れながら、バイオレットは言った。


「そろそろお戻りになられた方がよろしいのではありませんか?ルクス様も、お嬢様が居なくて寂しい思いをしているかもしれません」

「っ……!ルクスくんに寂しい思いをさせるわけにはいかないわね……私は今からルクスくんの元へ戻るけれど、あなたは引き続きルクスくんの身の安全のために見張りを続けなさい、わかったわね?」

「……承知しました」


 そして、バイオレットはルクスの元へ向かうシアナの背中を見送った。

 ────そろそろ私も、ルクス様と……

 バイオレットは、そろそろルクスと二人で過ごすための計画を立て始めることにした。

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