第75話 心
◇ルクスside◇
「すごいものがたくさんあったね」
「はい!お屋敷に置いたら素敵になりそうなものが、たくさんありましたね」
「うん」
装飾店を見て回った僕とシアナは、街外れ近くを適当に歩きながらそんな感想を話し合っていた。
……そろそろ、シアナに服のプレゼントを渡そう。
そう決めた僕は、シアナにあることを提案する。
「シアナ、今から街の景色の良いところに行かない?」
「わかりました!……ご、ご主人様」
僕の提案に対してはすぐに頷いてくれたシアナだったけど、その後で僕のことを呼ぶと、どこか恥ずかしそうにしながら沈黙してしまった。
「シアナ?どうかしたの?」
僕がそう聞くと、シアナは言った。
「その……先ほどの装飾店で、少しだけ気になるものがあったので、見に戻ってもよろしいでしょうか!」
「あぁ、それなら僕もついていくよ」
「い、いえ!本当に少しだけですので、ご主人様はここで待っていてください!」
「そ、そう?そういうことなら……うん、僕はここで待ってるね」
「ありがとうございます!」
そう言うと、シアナは足早に街の方へと戻って行った。
僕は、シアナが戻ってくるまでの間、この街外れの場所に咲いているたくさんの花を見ていることにした。
◇シアナside◇
街外れに居るルクスからは死角となっている場所までやって来ると、シアナは一言だけ呟いた。
「バイオレット」
そう名前を告げると、シアナの目の前には黒のフードを被ったバイオレットが現れた。
「はい、お嬢様……せっかくのお二人でのお出かけ中に、そのお出かけを中断してまで私のことを呼びつけるということは、何か緊急事態でも起きたのでしょうか?私の見ている限りでは、ルクス様周辺に特に危険は無いかと思われましたが……」
バイオレットは、もしかすれば自らに落ち度があった可能性を考え、声を暗くしてそう言った。
そんなバイオレットに、シナアは言う。
「危険では無いけれど、緊急を要することなのは間違いないわね」
「……それは一体、どのようなことなのでしょうか?」
バイオレットがそう聞くと、シアナは言った。
「私────思い切って、ルクスくんと手を繋ぎたいのだけれど、いきなり手を繋ぎたいなんて言ったらルクスくんにどう思われるかわからないから、どうすればルクスくんと自然に手を繋げるのか今すぐに考えて欲しいのよ」
────もしかしたら自分に落ち度があるかもしれないと考えていたバイオレットは、そんなシアナの発言を聞いて一気に拍子抜けをした。
そして、呆れた様子で言う。
「今すぐにでも手を繋げば良いと思われます、ルクス様ならきっと受け入れてくださるでしょう」
「ちょ、ちょっと!もう少し真剣に考えてくれるかしら!?」
「私は至って真剣です」
「バイオレット〜!!」
その後、シアナとバイオレットは少しの間言い合いを行った。
◇フローレンスside◇
十対一という状況で戦っていたフローレンスだったが、その十人はピンクのフードを被った人物からの命令通りにフローレンスのことを痛みなく大人しくさせるつもりなのか、フローレンスの致命傷となるような攻撃はしてこない。
そして、致命傷となる攻撃をしてこないのであれば、例え相手が十人だったとしても、フローレンスの細剣を扱う技量であれば対処は可能なため、あえて普段意識している致命傷を避けるという行動は度外視して、今は少しでも相手の体力を減らすことと自らが無傷で居ることに専念をしていた。
とは言っても、体力が減っているのは相手の十人だけではなく、フローレンスも同様……ここまでは無傷で凌いで来たが、それがいつ崩れてしまってもおかしくない。
そんなことを考えていると、三人の男子生徒の居る建物の中からピンクのフードを被ってきた人物が出てきて、フローレンスの前まで戻ってくると、その人物は言った。
「わ〜、いくら殺意が無い状態で戦ってるって言っても、この十人を相手に無傷って、君すごいね」
そう言われたフローレンスだったが────フローレンスはそんな言葉よりも、このピンクのフードを被った人物が平然とした様子で建物の中から出てきたという事実に対して言及を行う。
「あなたが出てきたということは……中に居た三人は────」
「うん、私が処理してあげたよ」
「っ……あなたは、自分が何をしたのか理解しているのですか?」
「してるよ……君は理解できるかわからないけど、時には処理しないといけない時もあるんだよ」
「そういったことが必要な時があることは、私も理解しています……ですが、今回は不要だったはずです、彼らは裁かれ何かを行動に移せるほどの力は残されていなかったのですから」
フローレンスがそう言うと、ピンクのフードを被った人物は重たい言葉で言った。
「長い年月をかけてその力は増えていくんだよ、復讐心と一緒に……私はそうやって醜く争う人間を、何人も見てきたから、わかるの」
「……あなたは一体────」
「ここにもう用は無いから、じゃあね」
フローレンスがその正体を改めて問い質そうとした時、ピンクのフードを被った人物と十人の鎧を来た人物たちはこの場を去ってしまった。
「私は……」
フローレンスは、何もできなかった己の無力さを感じ、無心に歩いた。
……どれほど歩いたかもわからないが、下を向いて歩いていると────そこには、花が咲いていた。
「……こんな時でも、やはりお花を見ると心が穏やかになりますね」
フローレンスは、小さく微笑んでそう呟いた。
────あとは、今の私の暗い心を晴らしてくれるような存在……ルクス様が、現れてくだされば。
そんな幻想にも近いことを想像してしまう自分に呆れを抱いていたフローレンス────だったが、そんな時。
近くから、声が聞こえてきた。
「あれ……フローレンスさん?」
────ルクス様の声……いよいよ幻聴とは、どうやら私は自分が思っている以上に精神的疲労を感じているようです。
「まさか、こんな街外れでフローレンスさんと会えるなんて思ってもいませんでした」
そう思いながらも、そのルクスの声は少しずつ近づいてくる……そして、その声は真隣から聞こえてきた。
「あの、フローレンスさん……?どうかしたんですか?」
声をかけているのに全く反応しないフローレンスのことを、心配するルクスの声……そんな声の方に、幻聴だとわかっていながらも振り向くと────そこには、本当にルクスの姿があった。
────いえ、これも幻覚なのでしょうか……ですが、幻覚だとしても、私は……!
フローレンスは、視界に入ってきたルクスのことを優しく抱きしめた。
「フ、フローレンスさん……!?」
フローレンスは、ルクスに触れられたことや、驚くルクスの声がハッキリと聞こえたことで、幻覚でもなんでもなく、本当にルクスが目の前に居るのだということを実感する……そして、とても嬉しそうに微笑んで言った。
「ルクス様、あなたという方は……本当に、いつも私のことを幸せな気持ちにしてくださいますね」
「え……?」
突然のことに状況がわかっていないルクスだったが、そんなルクスのことすら愛おしく感じ、フローレンスは少しの間ルクスのことを優しく抱きしめ続けた。
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