第73話 疑念

◇ルクスside◇

 様々な店を転々として一緒に美味しいものを食べた僕とシアナは、街で楽器を奏でている人を見かけたのでその音楽に耳を傾ける。


「……綺麗な音色だね」

「はい!……ご主人様は、何か楽器に触られていたりするのですか?」

「ううん……バイオリンには少しだけ興味があったんだけど、なかなか時間が取れなくて結局できてないんだ……今は少し時間の余裕があるから、そろそろ始めてみても良いかもしれないね」

「そうなんですね!私、バイオリンでしたら少々できますので、僭越ながらご主人様に教えて差し上げることができます!」

「え……!?そ、そうなの!?」

「はい!」


 シアナがバイオリンを弾けるという事実に僕が驚くと、シアナは笑顔でそう返事をしてきた。

 シアナが本当に大体のことはできるというのは、今までシアナと過ごしてきた時間から知っていたことだけど、バイオリンまでできるなんて……


「本当に、シアナはすごいね」


 僕がそう伝えると、シアナは首を横に振って言った。


「い、いえ!私などよりご主人様の方がすごいです!」

「ううん、シアナはすごいよ」


 それでも僕がもう一度そう伝えると、シアナは頬を赤く染めて言った。


「あ、ありがとう……ございます」


 そんなシアナのことを見ていると、僕はとても微笑ましい気持ちになった。

 シアナは賢くて、優秀で、どんなことでもできるけど……僕にとっては、本当に可愛い女の子だ。


「シアナ、次は装飾店を見に行かない?王城とかフローレンスさんの屋敷とかを見に行った時に、少し僕も興味が湧いたんだ」

「わかりました、見に行きましょう!」

「ありがとう」


 その後、僕とシアナは一緒に装飾店を見て回った────こうしてシアナと二人で、何か特別な用事があるわけでもなく街で過ごすのは初めてだけど……僕は、これからもこんな時間を過ごしたいと思うほどに、とても楽しい時間を過ごすことができた。



◇フローレンスside◇

「大人しく、とは……一体どのように私のことを大人しくさせるのでしょうか?」

「それはね────これでだよ」


 そう言うと、ピンクのフードを被った人物はそのフードの背中からあるものを取り出した。


「……弓、ですか」


 フローレンスは、そのピンクのフードを被った人物が背中から取り出した物を見てそう呟いた。

 弓は基本的に一対一という状況で使う武器ではなく、基本的には味方の援護という状況でこそ真の力を発揮する。

 そのため、フローレンスは弓が取り出されたことに少し驚いていた。


「弓だからって舐めてると痛い目見るよ?弓は使い手の腕で化けるってことを教えてあげる」


 そう言うと、ピンクのフードを被った人物は矢を取り出して、その矢をフローレンスの方へ向けて放った。

 が、フローレンスはその矢を剣で弾く。


「確かに弓は強力な武器ですが……一定以上の剣術を会得している者であれば、不意を突かれる形以外で射抜かれてしまうことはありません」


 フローレンスがそう言うも、ピンクのフードを被った人物は気にせずに一発、二発とフローレンスの方へ向けて放つ。

 フローレンスは、それらも弾いて言った。


「これ以上続けても時間の無駄ですので、手短に終わらせていただきます」


 そう言うと、フローレンスは一気にピンクのフードを被った人物の方へ向けて走り出した────その時、フローレンスの方へ向けてピンクのフードを被った人物は一発の矢を放つ。

 フローレンスはその矢を弾くために剣を構えたが────その矢が先ほどよりも速いことを見切ると、弾くことは諦めてその矢を避けることにした。


「今のは────」

「言ったでしょ?弓は使い手の腕で化けるって……矢の重さや質が変わると、放たれた矢の速さや遅さ、軽さや重さが変わるの」

「……そのようなことをすればその矢を放つ際に瞬時に放ち方を変えないといけなくなるのでは無いですか?」

「博識だね〜、そうそう、当然矢の質が変わるってことはそれに応じて引っ張る力とかを瞬時に調節しないといけないの……大体の人はそれができないみたいだけど────私は頭と経験でできちゃうんだよね」


 フローレンスは、目の前に居る人物の正体に対する疑念を強める。

 ────この方は、一体何者なのでしょうか……国の事情を深く知っており、かつ弓において常人では考えられないほどの技術力を有している。

 フローレンスが疑問に感じているのも束の間────突然多くの気配を感じたかと思えば、十人の顔から足まで鎧を着た人物たちがフローレンスのことを取り囲んでいた。

 そして、ピンクのフードを被った人物は鎧を着た人物たちへ向けて言う。


「その子は別に悪い子じゃ無いから、命は奪ったらダメだよ?できるだけ痛みなく優しく大人しくさせてあげてね」


 そう言われた鎧を着た人物たちが頷くと、ピンクのフードを被った人物は奥にある三人の男子生徒の居る建物の方へ足を進めた。


「待ってくださ────」


 フローレンスがピンクのフードを被った人物のことを言葉で止めようとするも、フローレンスのことを取り囲んでいる十人の鎧を着た人物たちが少しずつフローレンスに距離を縮めてきていた。


「あなた方は、一体何者なのですか?」


 フローレンスがそう問いただすも、鎧を着た人物たちは何も言葉を返さない。


「……言葉を利けないと言うのであれば、強引にでも聞かせていただきます」


 改めて剣を構えたフローレンスは、十人の鎧を着た人物たちと戦闘状態に入った。



◇エリザリーナside◇

「予想外のトラブルだったけど、万が一護衛が居る時のことを想定して立てた策が上手くハマった感じかな」


 そう呟きながら、ピンクのフードを被ったエリザリーナはとうとう目前にある三人の男子生徒の居る建物を見ながら言う。


「ルクス……私が今から、ルクスに酷いことしようとした奴らのことを処理してあげるね」


 ルクスのことを想像して優しく微笑んだ表情をすると、エリザリーナはその建物の中へと足を踏み入れた────そして、建物の中へ足を踏み入れて、三人の男子生徒が視界に入った瞬間に、エリザリーナは虚な目となっていた。

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