第71話 相対
◇ルクスside◇
街へやって来た僕とシアナは、まずスイーツ店で一緒に様々な種類のタルトを食べていた。
「僕、今まであんまりタルトって食べたことが無かったんだけど、結構美味しいね」
「私も時々しか食べませんが、タルトが美味しいことは間違いないと思います!」
乗せるフルーツによって味が変えることができて、この独特な噛み応え……
「シアナの淹れてくれた紅茶と一緒に飲んだら、もっと美味しくなりそうだね」
「っ……!」
僕がそう伝えると、シアナは嬉しそうな表情をしてから大きな声で言った。
「わ、私の淹れた紅茶で良ければいつでもお飲みになられてください!あと、その……今までタルトを作ったことは無かったのですが、ご主人様がタルトを気に入られたと仰るのであれば、私も自力で作れるよう練習しますので、もし完成したらそちらの方も食べていただけないでしょうか……?」
シアナは、不安そうに聞いて来た。
シアナの作ってくれたタルト……!
僕は、それを想像すると思わず声を大きくしてしまいながら言った。
「もちろん食べるよ!シアナの淹れてくれた紅茶とシアナの作ってくれたタルトを食べる……シアナのおかげで、また僕の楽しみが一つ増えたね」
楽しみを感じている僕が口角を上げてそう伝えると、シアナは優しい笑顔を僕に向けて言った。
「私も……ご主人様のおかげで、楽しみが増えました」
僕たちは、互いに少しの間楽しいという感情を胸に抱きながら見つめ合うと、残っていたタルトを食してお店から出た。
◇フローレンスside◇
「もうお昼、ですか」
三人の男子生徒の現在の所在地である街外れの建物を早朝から見張っていたフローレンスは、一度空を見上げてそう呟くと、すぐにその建物の方へ視線を戻した。
「やはり、第三王女様の性格や状況を考えれば、夜に行動を移されるのでしょうか」
だが、だとしてもフローレンスのやることは変わらず、ただこの場でその時が来るのを待つだけ。
それまで、一切の油断もしない。
一応建物の陰に隠れてはいるが、それでも万が一自分が潜んでいることがバレた時のことを考えて舞踏会用の仮面を付けて正体を隠している。
「本来であれば守りたくも無い方々のためにこのようなことをしなくてはならないとは……ですが、それもルクス様のお優しさ故……そのお優しさを裏切らないためにも、本日何もしなければ起きてしまうであろう非道を、私が必ず阻止します」
そう改めて固く決意した直後────フローレンスは、何者かの気配を感じたため自らの気配を抑えて、その何者かの気配を探ることにした。
「……」
が、気配を探るまでもなく、その人物は堂々とその建物へ歩いて向かう姿を露わにした。
その人物は、ピンクのフードを被っており、顔や性別は不明。
────あの体型は……第三王女様とは異なりますね、体型から性別は女性だと思われますが……第三王女様の刺客、でしょうか。
そう考えたフローレンスだったが、すぐにその考えを自ら否定する。
フェリシアーナの性格を考えれば、刺客など送らずに自らの手で行動を起こすはずだからだ……つまり。
────第三王女様とは無関係の人物、ということですか……少し、想定外のことが起きてしまいましたね。
今日、フローレンスはフェリシアーナと相対するつもりでこの場へ来ているため、その場に別の人物、第三者が現れることなど想定もしていなかった。
────本日に行動を起こしたということは、あの方も三人の男子生徒に何かしらの恨みを持つ方なのでしょうか……そして、そのような人物が正体を隠してこの場に現れたということは……少なくとも、あまり明るいお話では無いのでしょう。
ピンクのフードを被った人物が、どのような意図でこの場に居るのかはわからないが、少なくともフローレンスにとってはあまり良い話で無いことは確か。
フローレンスは、建物の陰から出ると、ピンクのフードを被った人物とその建物の間に立ち塞がった。
すると、ピンクのフードを被った人物はその建物と自分の間に立ち塞がってきたフローレンスの方へ顔を向ける。
そして、フローレンスが改めてピンクのフードを被った人物と相対すると、フローレンスは落ち着いた声音で言った。
「あなたがどのような意図でこの場所へやって来たのかは知りませんが、少なくともあまり明るいお話では無いのでしょう……本日この場に来たということは、その建物に居る三人の男子生徒に何かをしに来たのか、あるいは三人の男子生徒の協力者でしょうか?どちらにしても、私にとってはあまり良いお話ではありませんので、どうぞお引き取りください……また、そうでないと言うのであればどうしてこの場へ来たのかのご説明をしてください」
フローレンスがそう伝えると、ピンクのフードを被った人物は言った。
「……君は何?あの三人に雇われた護衛?」
女性の声……だが、マスクをしているのか、会話に支障は無い程度だが声の通り方に少し違和感があり、声からその人物の正体を探ることは難しそうだ。
「私は雇われているのではなく、個人の判断でこの場に居ます」
「そうだよね、あの三人に今護衛を雇えるような余裕は無いと思うし……ねぇ、どいてくれないかな?私、ただその建物に居る三人の男子生徒にすぐに終わる用があるだけなんだけど」
「すぐに終わる用、とは……一体どのようなご用なのでしょうか」
フローレンスがそう聞くと、ピンクのフードを被った人物は声音を全く変えずに言った。
「本当にすぐ終わることだよ?私はただ────その建物に居る三人の男子生徒を処理しに来ただけだから」
◇
この物語を読んでいて楽しいと思ってくださっている方や、続きが気になると思っていただけた方は、是非いいねや☆などでそのお気持ちを教えてくださると嬉しいです!
コメントなども、皆様がこの物語を多種多様な楽しみ方をしてくださっていることを嬉しく思いながら目を通させていただいています!
今後もよろしくお願いします!
◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます