第69話 前日

◇シアナside◇

 シアナとしてルクスと二人で街に出かける日の前日、シアナはシアナの自室にて慌てた様子でバイオレットに話しかけていた。


「バイオレット!バイオレット!明日はルクスくんとのデートよ!」

「そうですね」

「あ〜!今から緊張して来たわ……当然私は今まで異性と二人で出かけるなんてしたことが無くて、今後もルクスくん以外とそんなことをするつもりは無いけれど、やっぱり初めてのことというのはとても緊張するものね」


 メイドとしてルクスに付き添うことはあっても、プライベートでルクスと二人で出かけたことはなかった。

 そのため、シアナは緊張を口にすると、落ち着かない様子で部屋中を歩き回り始めた。

 そして、その途中で何かを思い出したように言う。


「そう言えば色々とあって聞けていなかったけれど、あなたに命じたルクスくんの洋服の好みを聞き出すようにと言ったことはどうなったのかしら?」

「ルクス様のお言葉をそのままお伝えさせていただくと『どのような服でもあまり気にならないですけど、ドレス姿とかは綺麗だと思います』とのことです」

「メイドのシアナとしてルクスくんとデートに行くのよ?正装が必要な場でもメイドがドレスを着るのなんて違和感があるのに、休日に二人でデートをする時にドレスなんて着ていたらもっと違和感があるじゃない……普段使いのできる洋服の話は聞かなかったのかしら?」

「お聞きしました」

「流石バイオレットね、それで?ルクスくんはなんと言っていたのかしら?」


 ようやく自分の聞きたかった答えが聞けると胸を踊らせたシアナに対して、バイオレットは言った。


「普段使いできるお洋服の好みをロッドエル様にお聞きした際、私はわかりやすいように目の前に居る私が着る場合どのようなお洋服を着て欲しくてどのようなお洋服を着て欲しく無いのかを聞きました……すると、ロッドエル様は────私のことを綺麗だと言ってくださり、それを理由に私がどのようなお洋服を着ていても、気にならないと、言ってくださったのです……」


 どこか恥ずかしそうに語るバイオレットのことを見ながら、シアナは少し怒気を含めた声で言った。


「あなたがルクスくんにどう思われているか、そしてあなたがルクスくんにどう褒められたかは聞いていないわ、私はルクスくんの洋服の好みを聞いているのよ」

「申し訳ございません、お洋服の話はここで終了となってしまいました……失態を見せてしまい、本当に申し訳なく思っています」


 そう謝罪を受けたシアナは、一度ため息を吐いてから言った。


「まぁ、仕方ないわね……あの時は、初めてルクスくんと話して色々と混乱することもあったのでしょうし、仕方ないわね」


 それから、少しの間二人で明日ルクスとシアナが二人で出かけることについて話していると、バイオレットが言った。


「お嬢様、件の三人の男子生徒の件ですが……奇しくも、処罰可能日は明日からですがいかがいたしますか?」


 処罰可能日……ルクスに危害を加えようとしたゾルマ・ゾルダンを主とした三人の男子生徒は、国の制度によって貴族学校退学と爵位剥奪という処分が下されており、その国の制度による決定を決定直後に無視して独自の判断で処分を下すのは、少なくとも賢い選択とは言えなかったため、逆上してルクスに危害を加える可能性のある三人のことをシアナやバイオレットはこれまで警戒することしかできなかった。

 だが────明日からはいよいよ、決定直後と言える期間が終わり、いつでも処分をしても後の後始末が簡単な日となる。

 そういう意味で、明日に行動を起こすのかどうかを聞いたバイオレットだったが、シアナは言う。


「本当なら明日にでも処罰したいところだけれど……明日はルクスくんとのデートがあるから、当然そっちの方を優先して、処罰は明後日にするわ……仮に明日三人の男子生徒が何かをして来たとしても、私とあなたが居たら十分対処は可能でしょう?」

「そうですね、承知しました」



◇フローレンスside◇

 フローレンスは、夜自室で一人考え事をしていた。


「……もし第三王女様が三人の男子生徒の命を奪うとしたら、明日以降でしょうか」


 考えていたことはシアナ達と一緒で、三人の男子生徒たちのことについてだ。


「第三王女様の性格を考えると、きっと処罰可能日に……つまり明日になれば、すぐにでも三人の男子生徒の命を奪いに来るでしょう……ですが────ルクス様のためにも、そのような非道は私が必ず阻止させていただきます」


 フローレンスは、明日相対することになるであろう第三王女フェリシアーナのこと、そして最後には────やはり、想い人であるルクスのことを考えながら眠りについた。

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