第68話 資料

◇エリザリーナside◇

「……あったあった」


 王城の書庫へやって来たエリザリーナは、その中にあるたくさんの資料の中から貴族学校の資料を見つけると、その資料をめくり────すぐにルクスのことを探した。


「ルクス、ルクス……!」


 ルクスのページとなるまで次々に資料をめくっていると────


「ルクス〜!ルクスだ〜!!」


 ようやくルクスの資料が乗っているページとなったので、エリザリーナは資料をめくる手を止めた。


『ルクス・ロッドエル 爵位:伯爵家』


「伯爵家のルクス・ロッドエル……ロッドエル!?ロッドエルって言ったら、確か人柄が良いで有名なところ!!あぁ〜!ルクスの家って感じ〜!ルクスのことを産んでくれてあんなに優しい子に育ててくれたご両親に、今度挨拶に行かないと!挨拶……あれ?待って……ルクスって、婚約者居るのかな!?」


 そう思い咄嗟に婚約者の有無が書かれている欄に目を通すも、そこには該当者無しと書かれていて、エリザリーナは一息吐いて安心した。


「良かったぁ……もし婚約してたら、どんな手を使ってでも離れさせないといけないところだったけど、元々居ないならルクスの悲しむ顔を見なくて済むね!」


 そして、続けてルクスの貴族学校で行われた学力試験の総合点数に目を通した。


『第二位 ルクス・ロッドエル 九百三十七点』

「わ〜!ルクス九百三十七点で二位だ!貴族学校の最初の試験は通例として難しく作られてるはずなのに、やっぱりルクスは努力家なんだね〜!」


 それから下へ視線を逸らし、各科目の詳細な点数に目を通す。


「あぁ、この落としちゃった六十三点はほとんど戦術論なんだ……確かに、ルクス苦手そう……あれ?私は勉強大体なんでもできて、当然戦術論もできるから────もしかしたら、それを口実にルクスのこと王城に呼び出せるんじゃない!?お勉強教えてあげるからって!でも、そうなったら私が王族だってことがバレちゃうから、その時にもし私がまだ王族だってバレてなかったとしたら、別に屋敷でも買ってそっちにルクスのこと招くのもアリだよね……そうなったら私とルクスの二人だけの勉強会……楽しそう〜!」


 ルクスに恋心を抱いているエリザリーナは、もはやルクスに関することの妄想が止まることはなく、それからもしばらくの間ルクスとの勉強についての妄想を膨らませ────それが落ち着くと、次にエリザリーナはルクスの貴族学校での生活に目を通す。


『他の生徒と比べても勉強意欲が高く、真面目で熱心で物腰が柔らかいため、将来にとても期待できると教師から評されている』

「当然ね!はぁ、ルクス、ルクス……」


 そんな資料を見ながら、さらにルクスに対する好意を高めていたエリザリーナだったが────


『貴族学校内での人的トラブル 二件』

「……は?ルクスが、人的トラブル……?あのルクスに限って、トラブルなんて……」


 突然出てきた一文に驚きながらも、エリザリーナはその資料に真剣に目を通すことにした。


『一、貴族学校授業初日、ルクス・ロッドエル氏とザルド・ザーデン氏が口論をしている目撃情報を多数取得、目撃情報によれば侯爵家であるザルド・ザーデン氏が伯爵家であるルクス・ロッドエル氏のことを一方的に弾圧、最初は穏便に対応していたルクス・ロッドエル氏だったが、ザルド・ザーデン氏の放ったある一言をきっかけにザルド・ザーデン氏に反論を始め言い合いとなった……なお、ザルド・ザーデン氏はこの日の夜、何者かに暗殺されているが、国家転覆の罪が判明したのでこの件は貴族の間で暗黙の了解となっている』


 その文に目を通していたエリザリーナは、途中から虚な目をしていた。

 そして、無感情に無機質な声で言った。


「ルクスにこんなことをした奴が今ものうのうと生きてるんだとしたら消さないといけなかったけど……そっか、死んでるんだ」


 エリザリーナは無感情にそう呟くと、続けて次の文へ目を通す。


『二、貴族学校初学力試験結果発表当日、ルクス・ロッドエル氏とゾルマ・ゾルダン氏を主とした三人の男子生徒が不自然に三対一で手合わせをしているという目撃情報を多数取得、この件についてはルクス・ロッドエル氏からの被害申告がされておらず、ルクス・ロッドエル氏は三人の男子生徒を圧倒したという目撃情報を得ているため不問とされているが、別件で三人の男子生徒には多数の不正が発覚、よって国の制度に則り貴族学校を退学処分、そして爵位剥奪となっている』


 二つ目の文に目を通したエリザリーナは、先ほどと同じように無感情に無機質な声で言った。


「ザーデンもゾルダンも、爵位の優位意識が強いことで有名なところで、ザーデンは資料を見ただけじゃわからないけど、少なくともゾルダンに関しては学力試験結果発表当日ってことは、ルクスが自分たちよりも成績が良かったからってことなんだろうね……寄ってたかって、あの優しいルクスにこんなことを……」


 エリザリーナは誰よりも貴族たちを見てきたため、誰よりも貴族として生まれた身でありながらルクスのような優しさを持って育つことが難しいかを理解している。


「やっぱりルクスはすごいね……三対一でも圧倒して勝っちゃうぐらいに剣術ができて、学力試験でも二位で、下らないプライドで自分に八つ当たりしてきた奴らが居るのにそのことを申告しないなんて……本当、ルクスは優しいよ……だけど────貴族の世界がそれだけじゃダメだってことを私は知ってる、ううん……貴族だけじゃなくて、王族の世界もそれだけじゃダメ……そう、ルクスは私と婚約して、いつか王族になるんだよ?でも、安心して……ルクスはそのままで居てくれたら良いから────それ以外は全部、ルクスの視界に入らないように私が処理してあげる」


 エリザリーナはルクスのことを思い浮かべて虚な目のまま優しく微笑むと、続けて言った。


「だから……ルクスにこんなことをしたのに、退学処分と爵位剥奪なんかで許されてるこの三人の男子生徒のことは、私が綺麗さっぱり処理してあげるね……ルクス、本当に本当に大好きだよ」


 その後、エリザリーナは三人の男子生徒を処理するために、情報を集め始めた。

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