第64話 感情

◇ルクスside◇

「ルクス、美味しい?」


 注文したパスタが届いたので僕がそれを食べていると、そんな僕のことを見ながらエリナさんがそう聞いてきた。

 僕は、それに強く頷いて答える。


「はい、美味しいです!パスタなんて高級食品ほとんど食べたこと無かったんですけど、食べやすくて味も僕好みなので、本当に美味しいです!」

「良かった、ルクスの口に合ったんだね」


 そう言って、エリナさんは嬉しそうに笑った。

 そして、エリナさんは続けて言う。


「ルクスは伯爵家の子息なんだよね?家はどんな感じ?何か困ってることとか無い?」

「僕は特に困っていることはありません、ありがたいことに苦の無い生活をさせていただいています」

「それなら良かったけど、もし何か困ったことがあったら言ってね?ルクスのためなら私がなんでも解決してあげるから!」

「あ、ありがとうございます」


 エリナさんの優しさがわかる言葉だけど、それと同時に僕は今まで頭の片隅で抱えていた疑問を思い出したので、そのことをエリナさんに直接聞いてみることにした。


「エリナさんは……洋服のことで貴族の人の流行を知っていたり、こういった高級店によく来てるって言ってましたけど、もしかして貴族の人なんですか?」

「うん、結構偉い方だと思うよ」

「そ、そうだったんですね」


 今までも特にあえて意識して距離感を近づけて話をしていたわけじゃないけど、もしかしたらもう少し接し方を丁寧にしないといけないのかも知れない……僕がそう考えていると、エリナさんが僕の顔を見て言った。


「言っておくけど、私が偉いからってルクスは私に恐縮したような態度取らなくて良いからね?」

「え……!?ど、どうして何も言ってないのにそのことを……?」

「私、人を見る目には自信があるの……まぁ、今のは私じゃなくてもわかっちゃうんじゃないかな?」

「そ、そうですか……」

「落ち込んでるみたいだけど、顔に出ちゃうのは悪いことじゃないよ?それだけ素直ってことだし……でも、ルクスは素直なのに予測できないところあるっていうか、素直すぎて逆に予測できないみたいなこともあったりするんだけどね」


 そう言って、エリナさんはどこか嬉しそうに微笑んだ。

 ……エリナさんの言葉の意味はわからなかったけど、エリナさんが僕と一緒に過ごしていて楽しんでくれているということがとても伝わってくる。

 そして、そのまま楽しそうな様子で聞いてきた。


「ルクスは今何歳?」

「十五歳です」

「私の二個下だ、学校とか行ってる?それとも、もう領地経営してる?」

「貴族学校に通ってます」

「……貴族学校ね」


 エリナさんは、表情は変えずにそう呟いた。

 ……どこか思うところでもあったんだろうか。


「……どうかしたんですか?」


 僕がそう聞くと、エリナさんはより明るい表情で言った。


「ううん、なんでも!ただ、貴族学校って貴族の集まりだから、ルクスが想像もできないような悪い人も居るの……だから、ルクスがそういう人に目を付けられちゃったらって思うと心配になっちゃって」

「エリナさんは優しいですね、そこまで考えて僕のことを心配してくれるなんて」

「そ、そう?ただ思ったことをそのまま話してるだけの時に優しいなんて言われたの、ルクスが初めて」


 エリナさんは優しい人だから、常に言われていてもおかしくないのに。

 そう思いながらも、僕はエリナさんのことを心配させないために言う。


「でも、僕のことは心配しなくても大丈夫です、目を付けられたり、揉め事だったりもほとんど無く、今では普通に学校生活を送れてますから」

「……ほとんど?」


 その言葉を聞いたエリナさんは、そう聞いてきた。

 ……余計な心配をさせたくないし、僕がここで言わなければ二度合ったトラブルがエリナさんの耳に入ることは無いだろうから、僕は首を横に振って言う。


「言い方が悪かったです、ほとんどじゃなくて無いです、心配させてしまってすみません」

「……ううん!それなら良いの!」


 そう言って、エリナさんは明るい笑顔を見せてくれた。

 その後、お会計を済ませて店を出る前に赤のフードを被ったエリナさんと一緒に、僕は歩き始めて言った。


「エリナさん、今日は本当にありがとうございました!後でお会計の値段を教えてもらえれば────」

「それは気にしなくて良いから!……でも、お会計の代わりに一つだけ聞きたいな」

「なんですか?」


 僕がそう聞くと、エリナさんは僕にだけ顔が見えるようにして、楽しそうな表情で聞いてきた。


「今日、楽しかった?」


 それに対して、僕は今の感情をそのまま伝えた。


「はい!とても楽しかったです!」


 そう伝えると、エリナさんは嬉しそうに口元を結んで言った。


「また遊ぼうね、ルクス……次は、ケーキとか一緒に食べに行こっか?」

「良いですね!どの辺りにしますか?」

「私、この間食べたところでとっても美味しいところがあって────」


 馬車の前まで、次にどこへ行くかを話し合いながら話し、馬車の前に到着すると僕は馬車に乗ってロッドエル伯爵家の屋敷へと帰った。



◇シアナside◇

 ルクスがロッドエル伯爵家の屋敷に戻り、そこには護衛がたくさん居るためルクスの無事が確保されたと判断したバイオレットが、フェリシアーナとして公務を行うために王城に戻っているシアナの元へとやって来た。

 その頃には、シアナが王城で行わなければならない公務は終わっていたため、シアナとバイオレットは帰るために王城の廊下を歩き始めた。

 そして、バイオレットは言った。


「お嬢様、ロッドエル様が以前少しお話させていただいた赤のフードを被った女性と、本日接触しました」

「赤のフード……あぁ、ルクスくんと洋服店でたまたま会ったという性別不詳の奴のことね?」

「はい、体格からして女性だと判断していますが、フードを被っているため不明です……そして、その方とロッドエル様が、本日お二人でお食事をしていました」


 ────突然降ってきた衝撃の事実に、シアナは思わず驚愕して足を止めてしまった。

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