第62話 予測不能

 エリナさんと一緒にやって来たのは、公爵の人や場合によっては王族の人も時々通うことのあると言われている高級と言う言葉すら安く感じてしまいそうなほどのレストランだった。

 そんなところに連れて来られてしまった僕は、エリナさんに小声で話しかける。


「エリナさん、あの……僕にこんなところ────」

「私が払うから、ルクスは何も気にせずに美味しいものいっぱい食べて!あ、でもルクスの口に合わなかったら店変えてあげるから、その辺は遠慮しなくて良いからね……ちょっと待ってて」

「あっ────」


 僕の言い分を聞かずに、エリナさんはタキシードを着たフロントの男性と話に行ってしまった。

 距離があるからどんなことを話しているのかはわからないけど、遠目から見てもエリナさんはこの場に緊張している様子は全く無く、むしろこの場に居ることが自然だと言えそうな振る舞いをしている……もしかしたら、エリナさんはかなり偉い人なのかもしれない。



◇エリザリーナside◇

「二人で使いたいんだけど、席空いてる?できたら個室が良いんだけど」


 エリザリーナは赤のフードを被っていたが、エリザリーナがエリザリーナとしてではない一般人として店に来る時は赤のフードを被っているというのはエリザリーナのよく通う店では通例であり、ただでさえ赤のフードを被っている人物は珍しいのに加えて、その声を聞いて顔を見ずともこの赤のフードを被った人物がエリザリーナだと判断したタキシードを着たフロントの男性は丁寧な口調で言った。


「エリナ様、本日もご来店いただき誠にありがとうございます……個室席は二部屋ほど空いていますので、どうぞそちらの方をお使いください」


 エリザリーナが赤のフードを被っている時は、エリザリーナのことをエリナと呼ぶことも通例となっている。


「わかった〜」


 話していると十七歳という年相応の少女のように思えてしまいそうなエリザリーナだが、その能力で国の平和を保っているというのは誰もが知る事実であるため、フロントの男性は緊張を緩ませることなく言う。


「エリナ様として、別の方を連れて来るのは初めてでは無いですか?」

「うん、初めて……あ、そうそう、私が他の誰かと来たっていうことは他言禁止だからね」

「……承知致しました」


 どのような事情であれ、第二王女エリザリーナから他言禁止だと言われれば、フロントの男性はそれに従うしかない。

 ということで、フロントとのやり取りを終えたエリザリーナは、入り口付近で自分のことを待っているルクスの方に戻って話しかけた。


「ルクス、席取れたから行こ!」

「は、はい!」


 緊張している様子のルクスと一緒に、エリザリーナは個室へと入った。

 個室の中には、赤のテーブルクロスの敷かれたテーブルと椅子に花の生けられた花瓶が置いてある。

 二人が向かい合うように座ると、ルクスが緊張を紛らわすように言った。


「エリナさんは、よくこういったところに来るんですか?」

「うん、来るよ」


 エリザリーナは、自分のおかげで平和の保たれている街を見て回ったり、あとは純粋に美味しいものや可愛い洋服を見てそれを実際に自分で着ることが好きなため、王族の中では珍しくかなり頻繁に街に来ている────そして、ルクスが聞きたいであろう高級店によく来ているのかという問いも、当然イエスだった。

 エリザリーナからそう聞いたルクスは、少し緊張した様子で言った。


「そうなんですね……僕は、あまりこういったところには来たことがないので、少し緊張してしまいます」

「そうなんだ、ルクスは平民?貴族?」


 エリザリーナは、今まで出会ってきた莫大な人間の数と、人間に対する知識量から推測して、ルクスのことは平民だと思いながらそう聞いた。

 ────でも、ルクスみたいな子が平民なんて勿体無いから、お父様に言って貴族にしてもらわないと。

 そう思っていたのも束の間、エリザリーナはルクスの言葉を聞いて衝撃を受けた。


「伯爵家の貴族です」

「えっ……!?」


 貴族、それも男爵や子爵よりも上の、伯爵家────予測不能。

 エリザリーナは、エリザリーナを含む三人の王女と比べて剣術はかなり劣っているものの、頭脳……それも人の心理誘導や話術に関することとなれば、間違いなくフェリシアーナよりも秀でている。

 そんなエリザリーナが、ここまでしっかりと予測を外すことは珍しい────どころか、もしかしたら初めてかもしれない。

 そう思わせるほどの衝撃を感じながらも、エリザリーナはルクスに聞く。


「……生まれてからずっとそう?」

「はい、そうです」


 当然、ここでルクスが嘘を吐く理由は無いし、今までこの国の内戦を完全に無くすということを達成できるほどに今までの人生で人と話をして来ているエリザリーナには、ルクスが嘘を吐いていないことなど考えるまでもなくわかった。

 ────伯爵家の貴族に生まれたのに、これだけ優しく謙虚に育てたの?どうして?どうやって?

 エリザリーナは続けて考える。

 ────ルクスは何か願ってることとかあるのかな、ルクスの趣味は何なんだろ?何時に寝て何時に起きるんだろ?好きなご飯は何かな?

 目の前の優しくて一緒に居ると楽しく、それでも予測できないルクスに興味が尽きない。

 そう考えて今までに無いほど気分を高揚させていたエリザリーナだったが────ふと、視界の端に今自分の被っている赤のフードが視界に移り、高揚していた気分を一気に下降させる。


「……」


 このフードを外せば、全ての男は自分に見惚れるか下心を持つ……それは、エリザリーナの話術も相まってのものかもしれないが、どれだけ今興味が尽きないと感じているルクスだったとしても、このフードを外して少しエリザリーナが頭を回転させて落とそうと思えば、ルクスのことを落とせてしまう。

 ……それが可能かどうかは、このフードを取った瞬間にわかる。

 もし、自分の容姿を見て少しでもルクスが自分に対する態度や感情を変えれば、エリザリーナにはそれが表情や体の微細な動きから簡単にわかってしまうからだ。

 エリザリーナはフードを取るか悩んだ……が、やはりいつまでも夢を見ているわけにはいかないと思い、そのフードに手をかけて言った。


「そういえば、次に会ったらフードを外してあげるって約束したよね……だから、外してあげる」

「言ってましたね……でも、約束したからと言って無理に外さなくても────」

「ううん、外すよ……ばいばい、ルクス……」


 悲しそうにそう言うと、エリザリーナはフードを外し────その美貌ある顔を露わにした。

 フードを外したエリザリーナは、どこか諦めたように優しく微笑んでいた。



 この作品の連載を始めてから二ヶ月が経過しました!

 いつもこの物語を読んで、いいねや☆、コメントをくださり本当にありがとうございます!

 この二ヶ月の間でここまでこの物語を読んでくださっているあなたの、この物語の好きなところや好きなキャラクター、この物語に対する感想などどのようなことでも良いのでコメントしてくださると嬉しいです!

 作者は今後もこの物語を楽しく描かせていただこうと思いますので、この物語を読んでくださっているあなたも最後までこの物語をお楽しみいただけると幸いです!

 今後もよろしくお願いします!

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