第59話 夢
◇シアナside◇
ルクスとフローレンスのダンスを見届けたシアナは、その二人についてくる形でフローレンス公爵家の前に置いてある馬車前まで来ていた。
「フローレンスさん、今日も本当にありがとうございました!とても楽しかったです!」
「こちらこそ、とても楽しいお時間を過ごさせていただけて、本当にありがとうございます」
ルクスとフローレンスの二人が互いに感謝を伝え合っていると、フローレンスがルクスに向けていた視線をシアナに向けて言った。
「シアナさん、私とルクス様のダンスはいかがでしたか?」
一見すると特におかしなところのない質問だが、そんなフローレンスの言葉にシアナは怒りを抱いていた。
────私がルクスくんとフローレンスのダンスなんて見たく無いと思ってることを知っていながら私にそのダンスの感想を求めてくるなんて、本当にふざけているのかしら。
そんなことを思いながらも、シアナはルクスに変に思われないように表面上はその怒りを全く出さずに言う。
「ご主人様もフローレンス様もとても素晴らしいダンスだったと思います」
「そ、そうかな?」
ルクスがどこか恥ずかしそうに聞いてきたので、シアナは頷いて笑顔で言う。
「はい!とても素晴らしいダンスでした!」
そう言うと、ルクスはシアナのことを見ながら小さな声で「あ、ありがとう、シアナ」と言った。
────ルクスくん、褒められて照れているのね……ルクスくんは本当に純粋でかっこよくて可愛くて……愛おしいわ。
それに比べて────
「ありがとうございます、シアナさん……私たちのダンスを快く見て下さっていたシアナさんが居てくれたからこそ、シアナさんにそう思っていただけるダンスができたのかもしれません」
────思ってもいないことばかり言っているわね……私がルクスくんとフローレンスの踊っているところを快く見ているはずなんてないことは、フローレンス自身が一番わかっているでしょうけれど……本当に嫌な女だわ。
「そうですね……僕も、シアナに情けないところは見せられないと思ったので、それもあって普段よりも上手に踊れたのかもしれません!」
────ルクスくん……!ルクスくんが情けないことなんて無いわ!ルクスくんはどんな時でも私にとって最愛の男の子よ!!
そう思ったシアナだったが、そのことを愛という感情を乗せてルクスに伝えるわけにはいかないため、シアナは笑顔であくまでもロッドエル伯爵家のメイドであり、ルクスの従者として言った。
「ご主人様が情けないなどということはありません、ご主人様は私にとっていつでも尊敬すべきご主人様です!」
「シアナ……」
そのやり取りを見ていたフローレンスは、少し間を空けてから言った。
「ではルクス様、改めまして、本日は本当にありがとうございました……また貴族学校でお会いしましょう」
「はい!また貴族学校で!」
ルクスと別れの挨拶をしたフローレンスは、次にシアナに向けて言った。
「シアナさんも……また、お会いしましょう」
「はい、また!」
ルクスから見ると特に違和感の無い二人のやり取りだったが────その刹那。
二人は、互いに目で同じことを語り合っていた。
────ルクスくんのことは絶対に譲らないわ。
────ルクス様のことは絶対に譲りません。
そんな静かなやり取りを最後に、ルクスとシアナはフローレンス公爵家の屋敷からロッドエル伯爵家の屋敷へと帰った。
◇エリザリーナside◇
ルクスに会ってからというもの、エリザリーナはルクスのことが頭から離れなくなっていた。
起きている時は毎日頭で考え、眠っている時には夢に出てくる……それほどまでに、ルクスのことを物語の王子様のような存在だと夢を見てしまっている。
「そんな男の子が居るはずないって、わかってるのに……」
それでも、ルクスなら或いは……そう考えてしまう。
だが、エリザリーナはいつまでもこのままルクスに夢を見たままではいけないとも考えている。
「明日……街に行って、もしルクスと会ったらその時に私の容姿を見せて、この夢を終わりにする……ルクスと会わなかったら、縁が無かったってことにして、もうルクスのことは忘れる!」
自分にそう言い聞かせながら、エリザリーナは眠りへとついた────その日も、エリザリーナの夢の中にはルクスが出てきた。
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