第57話 秘密

◇ルクスside◇

 しばらくの間紅茶を楽しみながら大人しくシアナとフローレンスさんが客室に帰ってくるのを待っていると、客室のドアが開いて、シアナとフローレンスさんが客室に戻ってきた。


「お待たせいたしました、ルクス様」

「気にしないでください!二人で何か楽しいお話ができましたか?」


 僕がそう聞くと、フローレンスさんは微笑んで言った。


「はい、とても興味深く、未知のお話を聞くことができました」

「未知のお話……一体、どんなお話をされたんですか?」


 あのフローレンスさんにとっての未知の話なんて、一体どんなことなんだろうと思いそう聞いた僕だったけど、フローレンスさんは自分の口元に人差し指を立てて言った。


「それは、女性同士の秘密というものです……そうですよね、シアナさん?」

「……はい!」


 シアナは少し間を空けてからそう返事をした。

 二人がどんなことを話したのか聞いてみたかったけど、二人だけで共有することができるというのも仲が良くなった証だと思うし、そこに僕が無理やり介入するわけにもいかないため、そういうことならと僕は頷いて納得した。


「それはそうとルクス様、私の淹れた紅茶はいかがでしたか?」

「あぁ、とっても美味しいです!フローレンスさんの淹れ方も上手だと思うんですけど、茶葉が僕の屋敷にあるものとは違って、普段とは違う味を楽しめています」

「ご満足いただけたようで何よりです……よろしければ、今この場でもう一度淹れて差し上げましょうか?」

「良いんですか?」

「はい、今度は共に紅茶を楽しみながら話をしましょう」


 そのことを想像して楽しそうな表情をしているフローレンスさんが、近くにあった棚に置いてあるティーポットへ手を伸ば────したと同時に、そのティーポットを先にシアナが手に取ると、その横に置いてあった茶葉も手に取った。

 そして、シアナは僕の前までやって来ると、もうほとんど紅茶の残っていない僕のカップを自分の方へ寄せて言う。


「メイドの私がこの場に居るのにも関わらずフローレンス様に紅茶を淹れていただくような失礼を働くわけにはいきませんので、この場は三人分の紅茶を淹れて差し上げたいと思います!」


 確かにシアナの目線に立ってみると、その考えに至っても不思議はない……と、僕は思ったけど、フローレンスさんは言った。


「いいえ、シアナさん……私が紅茶を淹れて差し上げますので、シアナさんは気などお遣いにならなくて結構ですよ」

「気など遣っていません、メイドとしてすべきことをするだけです」

「……わかりました、ですが────ルクス様への紅茶は、私が淹れさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「いえ、フローレンス様こそ、私に気など遣わず、どうぞソファでゆっくりと座っていてください」

「私も気など遣っていませんよ、ただルクス様は私の淹れた紅茶を美味しいと言ってくださいましたので、私の淹れた紅茶をまたお飲みいただきたいと考えただけです……それも、ルクスさんの話によるとこの紅茶は普段ロッドエル伯爵家の屋敷にあるものとは違うとのことでしたので、シアナさんも慣れない茶葉では普段通りの実力で淹れることは難しいでしょう」

「ご心配なさらず、私は日頃から様々な種類の茶葉で紅茶を淹れる練習をしていますから」


 シアナとフローレンスさんが、少し言い合っている……やっぱり紅茶のこととなると、二人ともこだわりがあるのかな?

 シアナにしてもフローレンスさんにしても、言い合っているところなんてそうそう見られないから、少し不思議な感覚だけど、それだけ二人が仲良くなったと考えればこのことも喜ぶべきことなのかもしれない。

 その後、最終的にはシアナが三人分の紅茶を淹れるということで話が落ち着き、僕たちは一口それを飲む。


「美味しいよシアナ!」

「ありがとうございます!」


 僕が素直にそう言うと、シアナは嬉しそうに微笑んだ。

 そして、次にフローレンスさんが言う。


「……美味しい、ですね」


 どうやらフローレンスさんも、美味しいと思ってくれたみたいだ。

 その後、僕たちが紅茶を楽しみながら楽しく話している時間を一緒に過ごしていると、フローレンスさんが真剣な面持ちで言った。


「ルクス様……実は、本日は一つ、ルクス様にお願い事があるのです」

「僕にお願い……?なんですか?」


 僕がそう聞くと、フローレンスさんは続けて真剣な面持ちのまま言った。


「私と……踊っていただけないでしょうか?」

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