第53話 エリナ
◇ルクスside◇
次の休日にフローレンスさんの家に招いてもらうことになった僕は、その日の夜にそのことをシアナに報告していた。
すると、シアナは口を開いて第一声で言う。
「私も、ご主人様について行かせていただきたいです!」
「フローレンスさんに確認を取っておくね」
前のお茶会の時は大丈夫だったから今この場で頷いてあげたいけど、屋敷内となると話が変わってくるかもしれないため、僕はそう答えた。
「ありがとうございます!」
シアナは笑顔でそう言ってくれた。
「シアナとも、どこかの休日で出かけるっていう話をしてたのに、次の休日に予定を入れちゃってごめんね……次の次の休日は、僕と一緒に出かけよう」
「気になさらないでください!私は、ご主人様と一緒に居られればどこでも構いません!」
「……ありがとう」
────というのが昨日の話。
そして、僕について来ると言ってきたシアナのことを断って、僕は今一人で街に出てきていた。
どうして街に来ているのかと言えば、せっかくだったら出かけるだけじゃなくてもう少し何かシアナにサプライズをしてあげたいと思ったからだ。
「シアナはどんなものが好きかな……」
宝石とかアクセサリーとか、どれでも似合いそうで、好きだとは思うけどそんなものを渡したら気が引けてしまうかもしれない……そうなると、やっぱり服かな。
でも、シアナはどんな服が好きなんだろう……普段はメイド服を着ているところしか見ないから、シアナがどんな服を好きなのかがわからない。
そんなことを考えながら洋服店へ向けて足を進め、洋服店の中に入った。
そして、僕は女性用の洋服が売っている場所へと向かう。
「どれでも似合いそうだけど、だからこそどれにしようか悩みそうだ……」
僕がそれらの洋服をじっと見つめていると、赤のフードを被った人から声をかけられた。
「君、誰かへのプレゼントで洋服探してるの?」
女性の声だ……無視する理由なんて無いし、普通に答えよう。
「はい、普段からお世話になってる人に少しサプライズをしたいなと思って」
「ふ〜ん、それでその子が女の子だから女性用の洋服探してるんだ?」
「そうです」
僕がそう答えると、赤のフードを被った女性は一つの洋服を手に取って言った。
「こういうの、今の貴族の中で流行ってるよ」
そう言ってその人が見せてくれたのは、胸元を露出させているドレスだった。
「ありがとうございます……でも、ドレスとかじゃなくてもう少し普段使いできるものが良いんです」
「そうなんだ……じゃあ、こういうのは?」
それからしばらくの間、赤のフードを被った女性と一緒に洋服を選んだ。
そして、その途中で赤のフードを被った女性は聞いてくる。
「洋服をプレゼントする子って、どんな子なの?」
────そう聞かれた僕は、大きな声で答える。
「優しくて頭が良くて、僕が困ったときには、僕はまだ何も言っていないのに僕の手助けをしてくれたり、日頃から僕のことを思ってくれる、本当に優しい女の子です!」
「……へぇ」
その後は他愛無い話を交えながら一緒に服を選んでいると、赤のフードを被った女性が言った。
「人と過ごしてて楽しいって感じるの、本当に久しぶり!」
「そうなんですか?」
「うん、普段はもっと打算的な世界で生きてるから、本当に久しぶり……君が何も打算的に話してないのがわかるからかな?」
そう言った後、赤のフードを被った女性は続けて小さな声で何かを呟いた。
「でも……どうせ君だって男なんだから、私が本気出したら……はぁ」
何を言ったのかは聞こえなくて、表情もフードを被っているから読めない。
「どうかしましたか?」
僕が素直にそう聞くと、赤のフードを被った女性は言った。
「ううん、何でも無いよ……ねぇ、もし次に会うことがあったら、フード外してあげる」
「え……?」
「私、結構可愛いんだよ?それこそ、その可愛さだけで世界を平和にできるぐらい!」
言うことの規模がとても大きい……僕はそのことで、少しだけシアナを思い出した。
そんなことを思いながら答える。
「わかりました、楽しみにしてます」
「うん」
そう言った後、その赤のフードを被った女性は僕の方を少し見ながら僕の顔に右手を添えてどこか悲しそうな声音で言った。
「難しいと思うけど、君にはずっとそのままで居てほしいな……」
「……え?」
そう言うと、赤のフードを被った女性は僕から距離を取った……僕にはその言葉の意味がわからなかったけど、ふと聞いておきたいことがあったため僕はそれを口にする。
「……あなたの名前は、なんて言うんですか?」
僕がそう聞くと、赤のフードを被った女性は答えた。
「エリナ」
「エリナさん……わかりました、僕はルクスって言います」
「覚えたよ……じゃあね、ルクス」
「はい、またお会いしましょう!」
僕がそう言うと、エリナさんは洋服店を後にした……不思議な出会いだったけど、何だかエリナさんとは今後も仲良くしていけそうな気がする。
不思議とそんなことを感じた後、僕はシアナへプレゼントする服を購入した。
◇エリザリーナside◇
「あんな子居るんだ」
エリザリーナは、王城の自室のベッドに座りながら、先ほど洋服店で会ったルクスのことを思い出していた。
エリザリーナは今まで色々な身分、年齢の人と話をしてきたが、ルクスほど打算を感じない人物とは出会ったことがなかった……一度会っただけだが、エリザリーナはその仕事柄人のことを見抜く能力には自信があった。
そのため、一度会っただけでルクスのことがわかる。
「言葉にできない、ただ全てが優しさでできてるような子……私に向けられた優しさじゃなかったけど、プレゼント相手の話をしてる時のルクスは本当に眩しかった」
そして、エリザリーナはルクスの別れ際の言葉を思い出す。
「またお会いしましょう……ね」
エリザリーナは、王城の自室のベッドに座りながら、ルクスのことを思い出していた。
そして、大きな声で言う。
「私は会いたく無いけどね〜!だって、私がフード外しちゃったらあの純粋そうなルクスも獣になっちゃうし〜!」
表面上大声で叫んでいるものの、内心はただただ冷めていた。
そして、大声を上げている自分に虚しさを感じたエリザリーナは、悲しそうな声で呟く。
「本当に、楽しかったな…………貴族だったらもっと闇深い雰囲気があるはずだけど、ルクスにはそれが無かった……私がそれを見分けられないはずないから、ルクスは平民の子なのかな……関係ないかな────ルクスだって、私の容姿を見たら私に見惚れちゃうに決まってるし」
そう呟いた後、エリザリーナは続けて呟く。
「だから、私はルクスに会いたくない……ルクス、あと少しだけ、私に夢を見させて」
エリザリーナは、次にルクスと会うまでの間だけ、今まで出会ったこともないほど純粋で眩しいルクスのことを、物語の王子様のような存在だと夢を見ることにした。
エリザリーナは、そんな存在が居るはずがないことはわかっている……ルクスだって、自分が一肌脱げば優しさは欠片も見えなくなってしまうだろう。
それでも、それが決して正夢にならないとわかっていても────エリザリーナは、ルクスに夢を見ながら眠りへと落ちた。
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