第52話 敵意

◇ルクスside◇

「おはようございます、ルクス様」

「おはようございます、フローレンスさん」


 次の日の朝、貴族学校に登校するとフローレンスさんから挨拶されたため、僕はフローレンスさんに挨拶を返しながら席へと着いた。


「ルクス様、この休日は何をして過ごされたのですか?」

「この休日は……」


 僕は、あまり大きな声で言って良いことでは無いと思ったけど、フローレンスさんになら言っても大丈夫だと判断したため、フローレンスさんにだけ聞こえる声で言った。


「実は、第三王女フェリシアーナ様のお誘いで、王城へ行っていました」

「っ……!?」


 それを聞いたフローレンスさんは、驚いた表情になって言った。


「ルクス様、大丈夫ですか?何もおかしなことをされませんでしたか……?」


 おかしなこと……?

 ……そうだ。

 普通、王城に誘われる人はよほどの有力者の方や、罪を問われる立場にある人だけだから、きっとフローレンスさんはその辺りのことで僕が何か変なことに巻き込まれてしまったのではないかと心配してくれているんだろう。

 僕は、そんなフローレンスさんのことを心配させないように言う。


「何もされていません、僕は確かに第三王女フェリシアーナ様のお誘いで王城に行かせていただきましたけど、それはあくまでも第三王女様としてのフェリシアーナ様としてではなく、フェリシアーナ様個人として僕のことを誘ってくれたと、ご本人も仰っていました」

「……ですから、心配なのです」

「え……?何か言いましたか……?」

「いえ、何でもありません」


 フローレンスさんが小声で何かを呟いていたみたいで、僕がそれを聞き逃してしまったから聞いてみたけど、フローレンスさんは首を横に振ってそう言った。

 ……表情が少し暗い表情だったから少し気になったけど、何でもないと言ってくれているのにそれでもさらに追求するのは不自然だから、今はとりあえず気にしないことにしよう。

 僕がそう判断していると、フローレンスさんが言った。


「ですが、ルクス様のご様子を見た限りでは、特に何かおかしなことをされたというわけでは無さそうですので、安心致しました」

「心配をおかけしてすみません……おかしなことというのは何もされていませんけど、一つフェリシアーナ様と思い出に残ったことならしました」

「……それは、何でしょうか?」


 ……僕は、一瞬それを勝手に僕の口から言って良いものなのかと言うのを躊躇おうとしたけど、僕は今までのフローレンスさんと過ごしてきた時間でフローレンスさんのことをとても信頼しているため、その躊躇いを無くして言った。


「実は、王城のダンス会場でフェリシアーナ様とダンスを踊らせていただいたんです」

「……ダンス、ですか」

「はい!フェリシアーナ様はダンスも本当に上手で、一緒に踊りながら思わず目を奪われてしまっていました!」

「……」


 僕がそう伝えると、フローレンスさんは少し間をあけてから言った。


「ルクス様……よろしければ、次の休日は私の屋敷で過ごしませんか?」


 フローレンスさんの屋敷……そういえば、前に次はフローレンスさんの屋敷内に招いてもらえるという話になっていたけど……


「本当に良いんですか?」

「はい、ルクス様さえ良ければ、是非」

「そういうことなら、お願いします!」


 ────そして、僕は次の休日、フローレンスさんの屋敷へ招かせてもらうこととなった。



◇フローレンスside◇

 フローレンスは、貴族学校から馬車に乗ってフローレンス公爵家の屋敷へと帰りながら、今日ルクスから聞いたことについて考え事をしていた。


「あのような人物がルクス様とダンスなど……許し難いことですね」


 フローレンスからしてみれば、例えルクスのためであったとしても平然と手を血に染めるような人物が、その手でルクスとダンスを踊ることなど到底許せるものではなかった。


「ですが……ご安心ください、ルクス様……あのような人物との思い出など、私とルクス様の思い出で塗り替えて差し上げますから……」


 そう言いながら、フローレンスは嬉しそうに微笑んだ。



◇シアナside◇

「お嬢様、次の休日、ロッドエル様がフローレンス様のお誘いによって、フローレンス公爵家へ招かれることとなりました」


 ルクスの見張りを行っていたバイオレットは、帰宅早々ルクスとフローレンスが次の休日にフローレンス公爵家の屋敷で時間を一緒に過ごすことを伝えていた。

 そして────それを聞いたシアナは……


「そう……何としてでも、あの女の思い通りに行かせるわけにはいかないわ」


 冷たい目でそう言い放ち、フローレンスに敵意を燃やしていた。

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