第51話 命拾い

◇シアナside◇

 ルクスとダンスを踊っている最中……シアナは、傍から見れば流麗にダンスを踊っていて、その姿は紛れもなく王族にふさわしいものだった……が、その内心は違った。

 ────私、今ルクスくんとダンスを踊っているのね……ルクスくんと手を取り合って……ルクスくんがかっこいいわ、真剣にダンスを踊ってくれているその顔……こんな風にルクスくんとダンスを踊ることができるなんて、私はどれだけ幸せ者なのかしら……あぁ、ルクスくん……本当に、愛しているわ……



◇ルクスside◇

 フェリシアーナ様とダンスを踊り終えた僕は、フェリシアーナ様とバイオレットさんの二人と一緒に、王城前にある馬車の前まで来ていた。


「フェリシアーナ様とバイオレットさん、今日は本当にありがとうございました!」

「私の方こそ、とても楽しい時間だったわ」

「私も、ロッドエル様にとても感謝しています」


 今日はフェリシアーナ様とダンスを踊ったり、バイオレットさんのことを本当に深く知ることができて、二人との関係性が大きく進展したことを感じられた……本当に、楽しかったな。


「お二人とも、またお会いしましょう!」


 僕がそう言うと、フェリシアーナ様は優しく微笑んでくれながら言った。


「えぇ、またお会いしましょう」


 そして、バイオレットさんは、表情はどこか優しく言った。


「その日を楽しみにしております」


 僕は二人とそんな言葉を交わせたことを嬉しく思いながら、馬車へと乗ってロッドエル伯爵家に帰宅することにした。

 今日は、シアナにたくさんの土産話があるから、早く聞かせてあげたいな。



◇シアナside◇

 シアナとバイオレットは、街で着替えを行ってから馬車に乗ってロッドエル伯爵家へ向かっていた。


「今日は本当にとても良い日だったわ……ルクスくんと楽しくお話ができて、ダンスも出来て……全てが計画通りよ────あなたのことを除けばね」

「それは、私がロッドエル様に魅入られてしまったことでしょうか?」

「そうよ……はぁ、ルクスくんの魅力にも困ったものね」


 シアナは、バイオレットがルクスの魅力に魅入られてしまうことも想定はしていたものの、実際にそうなったとなるとやはりそのことには困惑を隠すことができなかった。


「あの方はとても明るいお方ですが、その明るさは私のような暗いものに飲み込まれてしまうような明るさではなく、その私のことを照らしてしまうほどの明るさ……あの方のためなら、私は文字通りどのようなことでも行えます」


 シアナも、それには同感だった……ルクスのためなら、どのようなことでも行う。

 それによってルクスの幸せを守る。


「一応もう一度確認しておくけれど、あなたは今後も私の指示通り動いてくれるのよね?」

「はい、お嬢様に勘違いしていただきたくないのですが、私はロッドエル様だけでなく、お嬢様のこともとても大切に思っています……なので、隙を見てロッドエル様と少し幸せな時間を過ごさせていただくという点以外では、お嬢様に背く気はありません」


 バイオレットは、少し楽しそうな声音で言った。


「そこは譲らないのね……」


 シアナは溜息を吐いたが────こんなにも楽しそうなバイオレットを見るのは今まででも初めてだったため、そのことはやはり嬉しかった。



◇エリザリーナside◇

 公務が終わり、王城に帰ってきたエリザリーナは、王城の門前の端に立っていた男性の衛兵に話しかける。


「ねぇ、今日フェリシアーナがここに誰か連れて来なかった?」

「いえ、そのようなことはありません」


 鎧を着た衛兵はそう答える────が、エリザリーナは言う。


「もしフェリシアーナが誰かを連れて来るなら、フェリシアーナ以外の全員が公務で出払ってる今日だと思ったんだけど……君は、私のその考えが外れたって言いたいんだ〜!」

「そ、そのようなことは……」


 エリザリーナは、このまま話していても時間の無駄だと判断し、声音を少し下げて言った。


「フェリシアーナに口止めされてるんだとしたら、今すぐ私に言ったほうが賢明だと思うけど?フェリシアーナは第三王女で、私は第二王女……場所が国の方針とかに関する会議の場とかならともかく、王城なら私の方が権限は上だからね────ほら、隠し事なんて無駄だから、早く言って……今言えば見逃してあげる」


 全てを見抜かれてしまっていることや、そのエリザリーナの圧力に恐怖を感じた衛兵は、顔を青くしながら答える。


「ひっ……その……第三王女フェリシアーナ様は、男性を一人、王城へ招いていました」

「誰?」

「し、知りません!本当です!お許しください……!」


 エリザリーナは、今までその容姿の魅力や話術を利用して国内の内戦を治めてきたため、人を見る目には自信があった。

 ────この衛兵は、嘘を吐いていない。


「そう、じゃあいいや、それにしても────命拾いしたね〜!もしあと一回でも変にはぐらかそうとしてたら、どうなったかわからないよ〜!なんて、王城の前でそんな物騒なこと起きるわけないよね〜!」


 そう言いながら王城の中へ入っていくエリザリーナに、衛兵はただただ恐怖で立ち尽くすしか出来なかった。


「あのフェリシアーナを夢中にさせるほどの悪党……そろそろ、本気で落としに行っちゃおっかな……」


 そう呟き、エリザリーナは一人妖しい笑みを浮かべた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る