第50話 ダンス
◇ルクスside◇
僕が緊張したままフェリシアーナ様とバイオレットさんが客室に戻ってくるのを待っていると、しばらくしてから客室のドアが開いて、二人が客室の中に戻ってきた。
「フェ、フェリシアーナ様!バイオレットさん!」
僕が嬉しくなって思わず二人の名前を呼ぶと、フェリシアーナ様とバイオレットさんが言った。
「待たせてしまったわね、ルクスくん」
「申し訳ございません、ロッドエル様」
客室に戻ってきて早々、二人が僕に謝ってきたので、僕は首を横に振りながら言う。
「あ、謝るようなほどのことではないので気にしないでください!」
「ありがとう、ルクスくん……それはそうと、バイオレットに優しい言葉をかけてくれたようね、バイオレットの主人として礼を言わせてもらうわ」
「お、お礼なんて……僕は、大したことは言っていません」
そう言った僕だったけど、フェリシアーナ様は何かを言いたげな目で僕のことを見てきた。
「フェリシアーナ様……?」
「……なんでもないわ」
少し気になったけど、フェリシアーナ様がなんでもないと言ってるなら今は気にしないのが得策だろう。
そして、フェリシアーナ様は続けて言った。
「ルクスくん、今から客室の外に出てルクスくんとしたいことがあるのだけど、ついてきてくれるかしら?」
「それは、もちろんついていきます……けど、どこへ行くんですか?」
僕がそう聞くと、フェリシアーナ様は明るい表情で言った。
「着いてからのお楽しみよ」
「わ、わかりました」
そして、僕たちはフェリシアーナ様を先頭として王城ないの廊下を歩き、階段を一階まで降りると、またしばらく王城内の廊下を歩き────そして、広い空間にやってきた。
その場所には大きな窓がいくつもあり、その窓一つ一つにその窓と同じ大きさのカーテンがあった。
今はカーテンがかけられていないみたいだけど、もしカーテンがかけられたり夜になったりしても大丈夫なように、上にはシャンデリアがいくつか縦列に掛かっている。
そして、壁はシンプルだけど豪華な装飾で、一つ大きな絵画が掛けられている。
「こ、ここは……」
「王城のダンス会場よ」
「王城の、ダンス会場……」
王城のダンス会場と言えば、王族や王族関係者の人同士がダンスを楽しむ時や、他国の王族の方との交友を深めるときに使われる場所だ。
後者の方は、最近はあまり無いみたいだけど、それでも特別な場所であることに変わりはない。
「ど、どうして僕をここへ?」
僕が王城のダンス会場に連れてこられたことに困惑していると、フェリシアーナ様は僕に手を差し伸べて笑顔で言った。
「ルクスくん……私と、踊ってくれないかしら?」
「っ……!」
僕が、フェリシアーナ様と踊る……!?
異性の人とダンスを踊るというのは、それだけでとても深い意味を持つ……王族の人ともなれば、それは尚更だ。
そして、フェリシアーナ様もそんなことはわかっているはず……もちろん、この三人しか居ない場でダンスを踊っても、それで形式的に何かが変わるわけじゃない────けど、やっぱりそれが大きな意味を持つことだけは間違いない。
「……」
フェリシアーナ様がそうしてくれている以上、僕がそのことに疑問を抱く必要はない。
今重要なのは、僕がフェリシアーナ様と踊りたいかどうか。
今までフェリシアーナ様と接してきて……王族としてのかっこいいフェリシアーナ様や、少し照れたりもしているフェリシアーナ様を見てきた。
その上で……僕は────フェリシアーナ様と、踊りたい。
そう強く思った僕は、フェリシアーナ様の手を取って言う。
「はい、踊りましょう!」
「ルクスくん……!」
そして────僕とフェリシアーナ様は、少しの間だけ二人で楽しく踊った。
◇バイオレットside◇
王城のダンス会場の端から、踊っている二人のことを見て、バイオレットは少し口角を上げながら小さく呟いた。
「────やはり、お二人はとてもお似合いですね……私もいつか、ロッドエル様と……」
バイオレットは、自分の頬が赤くなっていることに気づき、すぐに黒のフードを被った────それでも、バイオレットは踊っている二人のことを見ながら、未来にある望みを見出さずにはいられなかった。
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