第41話 主人
◇シアナside◇
「ご主人様、お帰りなさいませ」
「あ、シアナ……ただいま」
貴族学校からロッドエル伯爵家の屋敷に帰ってきたルクスのことを屋敷の門前で出迎えたシアナだったが、そのルクスの様子がおかしいことに一言で気付く。
「ご主人様、何かあったのですか?」
ルクスの様子がおかしい原因を探ろうとそう聞いたシアナだったが、ルクスは優しい笑みを見せながら言う。
「え?う、ううん、何も無いよ」
「……そうですか、突然意味の無いことをお聞きしてしまい申し訳ございません」
「ううん、きっと今日は初めての剣術の授業があって疲れてて、それが顔に出ちゃってたんだと思うよ……心配させてごめんね、あと気遣ってくれてありがとう」
それだけ言うと、ルクスは屋敷の方へ入って行った。
シアナもその後を追うように屋敷に入ると、すぐにシアナの自室へ入りある人物の名前を呼んだ。
「バイオレット」
シアナがそう呼ぶと、シアナの隣に黒のフードを被ったバイオレットが現れる。
「はい、お嬢様」
「……ルクスくんの様子がおかしかったようだけれど、もしかしてまたルクスくんのことを困らせた愚か者が居たのかしら」
「仰せの通りです」
バイオレットがそう言うと、シアナは表情を冷たくして言う。
「全く……この世で最も愚かな行為をする人間がこんなにも短期間で二人も現れるなんて驚きね」
「いえ、今回は前回のザルド・ザーデン侯爵の時とは違い、一人ではなく三人です」
「っ……!」
シアナからしてみれば、ルクスに危害を加えようとする人間が一人居るだけでも決して許せないことであるのは、以前のザルド・ザーデン侯爵の時の行動からもわかることだが、今回はそれが三人────シアナは、目と声音を無機質なものへと変えて言う。
「……事の詳細を説明しなさい」
「はい、ロッドエル様が学力試験で二位を獲られたことに、侯爵家の男子生徒三人が怒り、剣術の授業の際に木刀の模擬戦でロッドエル様のことを三対一で攻撃しました……怒った理由は、発言の内容から伯爵家よりも侯爵家の自分達の学力試験での順位日が低かったから、と推測することができます」
「前の愚か者もこの世で最も愚かだったけれど、ルクスくんに物理的な攻撃をする者まで現れるなんてね」
「……結果として、ロッドエル様は三人を返り討ちにしましたが、逆上して今後もロッドエル様に害を成す確率が高いと思われます」
事の詳細を聞いたシアナは、全く迷い無く言う。
「バイオレット、今すぐに三人の資料を調べ上げなさい」
「かしこまりました……ですが、もし本日行動を起こされるつもりならば、それは得策ではないと思われます」
それを聞いたシアナは、怒りを含めた口調で言う。
「あなた、何を言っているの?何もせず明日になったら、ルクスくんにどんな危害が及ぶかわからないのよ?」
「ロッドエル様のことは、私が必ずお守り致します……が、本日行動すればフローレンス様と遭遇する可能性がございます」
その名前を聞いて、シアナはバイオレットの言いたいことをすぐに分析し理解した。
「……あの女も、私と同じことを考えていると言いたいのね」
「はい、フローレンス様は一部始終を誰よりも近くで見ていましたので、フローレンス様の性格、そして本日のご様子を考えれば、何かしら行動に移すのでは無いかと……そして、フローレンス様と遭遇することになれば、お嬢様とフローレンス様のやり方はおそらく違いますので、その場でフローレンス様のことも相手取ることとなります……私とお嬢様の二人が居れば破れることは無いでしょうが、やはり不安材料となり得ます」
シアナとしては今すぐにでもその三人の男子生徒を自らの手で処罰したいところだが、やり方が違うことでフローレンスまで相手取るとなるとかなり面倒なことになる。
シアナは、フローレンスのことを嫌ってはいるがその実力は認めているため、バイオレットの言う通りここで感情的になって行動するのは得策ではない。
「わかったわ……あなたは明日、何があってもルクスくんのことを守りなさい」
「承知しました……ロッドエル様のことは、私が必ずお守り致します」
◇ルクスside◇
明日以降の学校生活がどうなってしまうのかという不安で僕が頭を悩ませていると、僕の部屋のドアがノックされた。
「ご主人様、入らせていただいてもよろしいでしょうか?」
シアナの声だ……僕は首を横に振って、できるだけ悩みをかき消すようにしてから言った。
「うん、いいよ」
僕がそう返事をすると、シアナが僕の部屋に入ってきて、椅子に座っている僕の隣にやって来た。
「ご主人様、気分は優れましたか?」
「う、うん……もう大丈夫だよ」
「……」
そう言った僕のことを、シアナは心配そうな目で見つめて来る……シアナに隠し事はできないみたいだ。
「本当は……今日、少し揉め事があって……それで、今後のことが少し不安になって、気分が落ち込んじゃってたんだ」
「……そうだったのですね」
「……シアナ、良かったら、シアナのことを抱きしめてもいいかな?」
「私でよければ、好きなだけ抱きしめてください」
「……ありがとう」
僕はシアナの言葉に甘えて、シアナのことを抱きしめる。
「……シアナのことを抱きしめると、もっと頑張ろうって思えるんだ、シアナの主人の名に恥じないようにって」
「ご主人様は、もう十分頑張られています」
「ううん……揉め事が一つ起きただけでこんな風にシアナに頼っちゃうぐらいに、僕はまだまだだよ」
僕がそう言うと、シアナは僕のことを優しく抱きしめてくれて言った。
「頼るのは悪いことではありません……困った時には、いつでも私のことを頼ってくださってもいいのです」
「シアナ……ありがとう……仮に明日からどんな生活が待ってたとしても、僕はシアナの主人として、精一杯できることをやってみるよ」
「はい……私もご主人様のことを、精一杯手助けさせていただきますね」
その技、少しの間抱きしめ合ってからシアナが僕の部屋を後にすると、僕は前向きに明日からの生活をどう過ごしていくかを考えることにした。
────その翌日。
貴族学校に登校すると、僕が予想していたこととは全く違う出来事が起きていた。
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