第42話 資格
「こ、これは……」
講義室に入ると、黒板に『退学者 以下三名』と書かれていて、そこには見慣れない三人の名前が書かれていた。
「誰だろう……」
……どれだけ考えても見覚えも聞き覚えもない名前だったため、僕は少しモヤモヤしたものを抱えながらも自分の席に座った。
すると、隣の席のフローレンスさんが朝の挨拶をしてくれた。
「おはようございます、ルクス様」
そうだ……もしかしたら、フローレンスさんなら何か知っているかも知れない。
僕は、挨拶ついでにフローレンスさんに退学者の人について何か知らないかを聞いてみることにした。
「おはようございます、フローレンスさん……あの、黒板に書かれていた、退学者の人は、どうして退学になったんですか?」
「私も詳しくは……噂に聞いたところ、不正行為が明らかになり、爵位も剥奪になったということですが」
「そ、そうなんですか」
「えぇ……ですが、あの方々が退学になられて良かったですね」
「あの方々……?」
「昨日ルクス様と剣術で手合わせをしていた三人の男子生徒のことです」
「え……?」
退学したのは……あの三人の男子生徒?
「昨日までは全くそんな素振り無かったのに、どうしてそんなことになったんですか!?」
「私もわかりません……ですが、不正行為が明らかになったということなら仕方の無いことでしょう」
確かに、不正行為を行っていたならそうなってしまっても仕方ない……けど、まさかこのタイミングでそんなことになるなんて。
「できることならあの人たちとも仲良くしたかったんですけど、退学してしまったならできそうにないですね」
「……あの方達と、仲良くなさろうとしていたんですか?」
「いきなりは難しくても、人と関わる以上最終的には仲良くなりたいと思ってしまいます……少しずつ時間をかければ、あの人たちともきっと仲良くなれたと思うんです」
それをできなかったのは少し悲しいけど、爵位まで剥奪されたなら、不正をしてしまったことを反省して、とても優しい人になるはずだ。
「……そうですね」
フローレンスさんは、穏やかに微笑みながらそう頷いてくれた。
そして、フローレンスさんはそのまま続ける。
「ルクス様は、将来良い公爵家の当主となりそうですね」
「……公爵家、ですか?僕の家は伯爵家ですよ……?」
「私と婚約すれば、ルクス様は公爵家となります」
「こ、婚約……!フ、フローレンスさん!」
「ふふっ、冗談です────と言いたいところですが、冗談ではありません……ルクス様とであれば、今すぐにでも婚約致しますよ」
フローレンスさんは、そう言って優しく微笑んだ……婚約。
父さんにもこの貴族学校で婚約者を見つけるように言われているし、いつかは決めないといけない問題だからいつまでも後回しにはできない────けど、僕はまだまだだから、今はきっとその時じゃない……僕は、将来どうなっているんだろう。
「……」
そんなことを考えていると先生が講義室に入ってきて、お金に関する不正行為によって退学者が出たことを軽く説明してから今日の講義が始まった。
そして、今日の全講義が終わると僕はロッドエル伯爵家の屋敷へと帰った。
◇シアナside◇
ルクスが屋敷に帰ってくると、黒のフードを被ったバイオレットも屋敷に帰ってきてシアナの自室へと入った。
そして、シアナはバイオレットに話しかける。
「帰ってきたわね……それで、結果はどうだったの?」
「予想通り、動きがありました……例の男子生徒三人は不正発覚によって退学処分となり、爵位も剥奪となりました」
それを聞いたシアナは、少し間をあけてバイオレットに聞く。
「……それだけ?」
「はい」
その返事を聞くと、シアナはため息を吐いて言った。
「どんな方法で行動に移すのかと思えば……甘いわね、あの女……もしその三人の男子生徒が逆上してルクスくんに何かしたらどうするつもりなのかしら」
「……そうならないように、何か釘を刺したのではありませんか?」
「それが甘いと言っているのよ、命を奪っておかないとルクスくんの危害が加えられる可能性がゼロになることは無いわ……私が今すぐ処罰しに行きたいところだけれど、一度この国の制度によって決定したことをその翌日に無視して行動を起こすのは、賢い選択では無いわね」
そのシアナの言葉に、バイオレットはハッキリと言う。
「男子生徒三人のことを我々の手で処罰できる日となるまで、仮に例の男子生徒三人が何をなされたとしても、私がロッドエル様のことを必ずお守り致しますのでご安心ください」
そんなバイオレットの言葉を聞いて、シアナは少し口角を上げながら言った。
「そうね、頼りにしているわ……」
そう言われたバイオレットがシアナに頭を下げると、シアナは真面目な表情で言った。
「今回の一件でよくわかったわね」
シアナがそう言うと、バイオレットは顔を上げて頷く。
「はい……やはり、お嬢様とフローレンス様のロッドエル様を守るというやり方は違うようですね」
「えぇ────あの女に、ルクスくんと結ばれる資格は無いわ……私がルクスくんと結ばれるためにも、そのための計画を進めましょうか」
「承知しました……全ては、お嬢様の仰せの通りに」
その後、二人はルクスのことを王城に招いた時の計画を進め────いよいよ、その日は目前にまで迫っていた。
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