第39話 三対一
剣術は勉強面よりも苦手なのに、三人同時に相手をすることになるなんて……でも、今問題なのはそこじゃなくて、どうしてあの人たちが僕のことを嫌っているのかということだ。
三対一で勝負なんて、僕のことを嫌っているからそんなことをするんだろうし、嫌っていなかったとしても僕のことを倒したいというのが目的なのは間違いない。
僕が一人で色々と考えていると、隣に居るフローレンスさんが僕に話しかけてきた。
「ルクス様、あのような方達のことなど、あまり気になさらなくて結構だと思いますよ」
「で、でも……どうして、あの人たちは僕のことを倒したいんでしょうか?」
僕がそう聞くと、フローレンスさんが順位表を見ながら言った。
「きっと、くだらない理由でしょう……剣術での手合わせも、受けなくとも良いと思われますよ」
くだらない理由……そこまで言うってことは、フローレンスさんにはもうその理由まで予測できているんだろうか……でも。
「もしかしたら、僕が知らない間に悪いことをしてしまったのかもしれないので、剣術の手合わせだけはしてみます……そこで、話し合いができそうであれば話し合いをしてみて、もし僕が悪ければすぐに謝って、誤解があったりすればその誤解を頑張って解くことにします」
「そうですか……ルクス様がそうなさると決めたのでしたら、私は何も言いません」
そう言って、フローレンスさんは優しく微笑んでくれた。
◇フローレンスside◇
ルクスと一緒に席に座ったフローレンスは、ルクスのことを見ながら思った。
ルクスはやはり、人の暗い部分を知らず、優しすぎると……そして同時に思う。
────そのように純粋でお綺麗なところを、私は心から愛していますルクス様……ご安心ください、仮にルクス様が攻撃を受けそうになった時には、私が必ずやルクス様のことをお守り致します……ルクス様のことを傷付けようとする輩のことは、私が絶対に許しません。
フローレンスは、少し悩んでいる表情をしているルクスのことを見ながら、心の中でそう強く誓った。
◇ルクスside◇
────三限目。
三限目は、いよいよ今日から始まる剣術の授業の時間……今までは剣術の授業でどういった技術を学べるのかとかをとても楽しみにしていたけど、今は少し違う。
僕に手合わせをしようと話しかけてきた男子生徒三人と目が合う……すると、その三人の男子生徒は僕のことを睨んでいた────や、やっぱり僕は睨まれるようなことをしてしまったのかな?
そんな不安を持っていると、先生が剣術の授業の説明を始めた。
「この剣術の授業では、主に木刀を使って剣の扱い方や技術を勉強していくことになります……そして、本日は生徒同士の実力を知るために、それぞれで模擬戦をしていただきます」
模擬戦……そういうことなら、あの人たちと手合わせをするのにも都合は良さそうだ。
その後、木刀を受け取った僕たち生徒は、各々模擬戦をする相手を決めて、その相手が決まったら早速模擬戦を始めるようにと言われた。
────そして、三人の男子生徒は僕のところへやって来ると、その三人の男子生徒は僕のことを睨みながら僕のことを囲んだ。
僕は、その三人に問いかける。
「あの、どうしてこんなことをするんですか?」
すると、朝も僕に話しかけてきた三人の中の一人が口を開いて言う。
「お前に面子が潰されたからだ」
「面子……?あの、よくわからないんですけど、僕が何かをしてしまったってことですか?」
「そうだ、お前は伯爵家の分際で、学力試験で二位を取った」
「伯爵家の分際でって……試験の結果と爵位が関係あるんですか?」
「あぁ、ある……フローレンス、あいつは公爵家だからまだ良い、あいつが一位を取ったならそれはそれで爵位の優位性の証明になる……だが、伯爵家の人間なんかに二位を取られちゃ、侯爵家の俺たちの面子は丸潰れだ」
爵位の優位性に、面子……?言葉はわかるのに、言っていることの意味が全然わからない。
試験の結果は問題を解けたかどうかで、爵位なんて関係ないはずなのに……
「仮に学力試験がどんな結果だったとしても、本当に大事なのは貴族として領民の人たちに豊かな生活を────」
「黙れ!とりあえずお前は今から潰してやる!やれっ!!」
そう大声で言うと、ずっと喋っていなかった二人が木刀を持って僕の方に近づいてきた……この二人の動きを見て僕は────この二人には負けないと確信した。
二人が木刀を振り上げた瞬間に、僕はその木刀の先端を狙って二人の木刀を遠くに飛ばした。
「なっ……!」
木刀を飛ばされた二人は驚いた様子だった────けど、すぐ後ろから気配を感じた僕が後ろに振り返ると、そこにはさっきからずっと話していた人が僕に向かって木刀を振り下ろそうとしていたため、僕はそれを同じく木刀で受け止める。
「この……!」
目の前のこの人は苛立たしそうにそう呟いていたけど、それを受けたことによって、僕はこの人の剣術の練度が僕よりも低いことに気が付いた。
「も、もうやめてください!これ以上は────」
「うるせえっ!俺は、お前みたいな奴が嫌いなんだよっ!」
そう言うと、今度は雑に木刀を振り回してきたけど、体の向きからその剣筋が読めたため、僕はそれを全て避け────その木刀を遠くに飛ばした。
「っ!く、くそっ!覚えてやがれっ!」
それだけ言うと、三人の男子生徒はこの場を去って行ってしまった。
「ま、待ってください!もう少し話を────」
「ルクス様、これ以上の会話は不可能だと思われます」
僕が三人の男子生徒にもう少し話をするために呼びかけようとした時、僕の横の方からフローレンスさんが近づいてきて僕にそう話しかけてきた……確かに、あの人たちとあれ以上の会話をするのは、難しいのかもしれない。
「フローレンスさん……僕、わからないんですけど、爵位とか、試験の結果とかって、そんなに重要なんですか?それで、人を傷付けても良いと錯覚してしまうぐらいに……やっぱり、僕にはわからないです」
僕がそう聞くと、フローレンスさんは僕のことを抱きしめてくれて、優しい声音で言った。
「そのようなこと、わかなくても良いのです……ルクス様は、何も間違ってなどいません」
「フローレンスさん……ありがとう、ございます」
────その後、先生が揉め事と聞いて僕たちのところにやって来たけど、僕は事を大きくはしたくなかったため、先生に揉め事は起きていないと説明した。
明日からあの人たちの考えが変わってくれれば良いけど、あの雰囲気だとそんなことは無いのかな。
僕は、明日から僕の学校生活に少し不安を抱きながら、今日の貴族学校での一日を終えた。
◇フローレンスside◇
家に帰ったフローレンスは、屋敷に帰ると資料を見ていた。
「カードは揃いました……ルクス様をお守りするために、行動を起こすとしましょうか」
そう呟くと────フローレンスは今日一日のルクスの落ち込んだ表情を思い出し、ある人物たちへの敵意を募らせながら口角を上げて暗い空の下屋敷の外へ出て馬車に乗った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます