第9話 第三王女フェリシアーナ様
あの人が、第三王女フェリシアーナ様……
フェリシアーナ様のことは幼少期のパーティーで一度だけ見たことがあったが、その時はまだフェリシアーナ様も小さく、僕も小さかったため記憶も朧げだったが────今、十五歳となったフェリシアーナ様のことを見て一番最初に思ったことは、綺麗、ということだった。
「……」
白に近い艶のある銀髪を靡かせて、高貴さを思わせる白のドレス……とてもじゃないが、僕と同じ十五歳の人とは思えないし、今までに色々な人と会ってきたが、少なくとも僕と同年代であそこまで風格のある人を僕は見たことがない。
姿を現したフェリシアーナ様は、講堂前の中央に立つと、講堂に居る貴族学校新入生たちを見渡し────僕とも一瞬目が合って、何故か数秒間僕の方を見ていたような気がするけど、すぐに他の辺りも見渡してから口を開いて話し始めた。
「貴族学校新入生の皆様、こんにちは、第三王女のフェリシアーナです」
容姿だけでなく、声も透き通るような声をしていて。
「貴族学校では、私たち王族が学べない数々のことを学んでいくことになると思います」
この人が一言話すだけで、この講堂に居る人たちの感情が動かされていることが肌で伝わってくる。
「そして、時には乗り越えるのが難しいと思えるようなこともあるかもしれません……」
かくいう僕も、フェリシアーナ様が話す度に感情が動かされている。
「ですが、そういう時こそ自らがこの国をより良くしていく大きな力を持っているという自覚を持って、その力の可能性を大いに伸ばし、この国の繁栄に皆様の力を貸していただきたいと考えています」
気持ちの乗ったとても流麗な話し方……話し方だけじゃない、本当にこの国を大事に思っているというのが伝わってくる。
「以上が、私の皆様に伝えたいと思った表明です……ご静聴いただき、ありがとうございました」
フェリシアーナ様が話し終えると、講堂中がもう一度拍手に包まれた。
────これが、第三王女フェリシアーナ様……やっぱり、本当にすごい人なんだ。
僕は思わずフェリシアーナ様に魅入って居たが、その拍手に包まれながらフェリシアーナ様は講堂前から歩き去って行った。
「第三王女フェリシアーナ様、とても素敵なお言葉をありがとうございました……これにて、本日の入学式は終了とさせていただきますが、この後貴族学校校舎一階のダンス会場で入学祝いパーティーを行わせていただきます……参加は自由ですが、これから過ごす学友と交友を深めたいという方は、ご参加いただきたいと思います」
その理事長さんの言葉を最後に入学式は終了して、各々移動を始めた。
基本的には講堂から門の方に向かって帰る人か、理事長さんの言っていた入学祝いパーティーに参加する人のどちらかで大きく人の波ができていて、僕は講堂前で立ち止まってそのどちらにするかを少し考える。
……今後のことを考えたら入学祝いパーティーに参加してみたい気持ちもあるけど、図書館に出かけるとかとは理由が違って一人になっているシアナがどんな様子かも気になるから、今日は早めに帰っておきたいと思う自分も居る。
でも、シアナに土産話みたいなのもできたら楽しそうだし────そんな感じでずっと悩んで、結局僕以外誰も居なくなるまで一人講堂前で考え込んでしまっていると、横から声をかけられた。
「そろそろ入学祝いパーティーが始まるようだけれど、ルクスくんは参加しないの?」
「え?」
ついさっき聞いた綺麗な声が僕の横から聞こえて来たためその声のした方に振り返ってみると────そこには、銀髪で綺麗な青の目をしていて、整った顔立ちに長身で体つきも整っている、さっき講堂前の中央で見た第三王女フェリシアーナ様が居た。
「フェ、フェリシアーナ様!?」
僕は反射的に片膝をつくと、さっきのフェリシアーナ様の話の内容を思い出しながら言った。
「先ほどのフェリシアーナ様のお話は、とても心に響きました!その偉業の数々を完全に理解することなんて僕にはできませんが、その一端は聞き及んでいて、本当にすごい人だと思っています!」
「……そんなに畏まらなくていいのよ?例えば、婚約者に接するようにフランクで良いの」
「僕とフェリシアーナ様が婚約者になることなんて絶対にあり得ませんから、そんなこと絶対にできないです!」
「えっ……」
僕がそう言い放つと、フェリシアーナ様は僕のことを見たまま表情を暗く変化させてしまった……どうしたんだろう?
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