第2話 死体発見

 そんなある日、つまり、

「発掘隊がいない日」

 のある日、いると思っていた誰かが、いなくなっていることに誰も気付かなかった。

 しかし、それを知らされたのは、その日の朝だった。普通に通学している小学生たちが、いつものように、歌を歌いながら、集団登校していた。

 母親たちは、

「恥ずかしいから、歌なんか歌いながら登校しないで」

 といっていたが、先生の方では、

「歌を歌ってくれている方が、防犯としてはありがたい」

 と思うのだが、父兄を刺激しないように、何も言わなかった。

 母親連中も、先生が何も言わないことに言及することはなかった。

 というのも、

「皆、自分のセリフに集中してしまっていて、何も言わない」

 という状態になっていたのだった。

 特に、

「ママさん連中」

 というのは、自分たちがいいたいことだけを言ってしまえば、一通り満足してしまうというところがある。

 だからこそ、先生の方も心得ていて、

「下手に相手を刺激しない方がいい」

 ということで、余計なことは言わないのだ。

 要するに、

「不満に思うことを忘れるくらい、自分たちで盛り上がってくれればいい」

 というところだ。

 そうすれば、

「何話していたんだっけ?」

 ということになり、自分たちさえ満足すればそれでいいということで、それ以上何も言わなくなってしまう。

 そう思っていると、自分たちが、文句を言うために集めたくせに、

「じゃあ、そろそろ終わりましょうか?」

 と、なるのだった。

 言いたいことを、いかに吐き出させるか?

 ということがミソであり、その間だけ、耐えていればいいのだった。

 先生はさすがに慣れていて、嵐が過ぎ去れるまで、

「いかに、右から左に受け流すか?」

 というだけのことであった。

 子供たちは、親がそんな、

「モンスター」

 であるということを知らない。

 子供たちも案外、先生と同じようなことを考えていて、母親から叱られる時も、

「いかにやり過ごすか?」

 ということを考えているに違いない。

 しかし、何しろ親子なので、考えていることは分かるだけに、やり方をうまくやらないと、こちらの気持ちを看破されてしまい、却って煽りを買ってしまうこともある。

「あんた、ちゃんと聞いているの?」

 などと言われ始めると、少し作戦を変えなければいけない。

 徹底的に恐縮し、もっと気を散らすようにしておかないと、こっちの精神が参ってしまう。

 ただ、こうなると先生と同じで、

「叱り付かれるのを待つしかない」

 ということで、次第に興奮から、ろれつが回らなくなり、自分でも何を言っているか分からなくなると、母親もそれ以上は何も言わなくなることだろう。

 そのうちに、顔色が、真っ赤だった状態が冷めてくるのを感じると、子供も、

「しめたものだ」

 と感じてきて、こうなると、少々気を抜いても、もう母親に子供を看破するだけの力はなくなってしまっている。

 要するに、

「力の入れどころ」

 というものが分からないからムダなところに力が入ってしまい、本当に何がいいたいか分からないまま、ただ、体力を消耗するだけになってしまうのだった。

 母親たちが、

「何を言っているか分からない」

 という状態に、いつものごとくなったことで、先生も、

「あ、嵐が去ったか?」

 と思っていたので、先生も、子供たちに、

「恥ずかしいから、歌いながらの登校なんか、やめなさい」

 などということは一切いうことはなかった。

 むしろ、

「大いに歌いなさい」

 と言いたいくらいで、なぜかというと、

「歌って声が出ていると、変な連中に襲われるということはない。そもそも集団登校というのは、それぞれに何かあった時、誰かが知らせに行くということと、変なやつが出てきにくくするため」

 ということに尽きるのだ。

 だから、先生としても、

「子供たちの安全を考えると、大いに歌ってくれた方がいい」

 と思っていたのだ。

 それに、近所迷惑というのも気にしなくてもいい、何と言っても、朝の喧騒とした雰囲気の中なので、元気がある方が却って活気があるというものだ。

 子供たちのその中には、

「前まで、友達付き合いができず、引きこもり予備軍」

 というような子供もいた。

 そんな子供でも、輪の中に入ってこれるようにしてくれたのが、

「歌を歌う」

 という魔法を使うことで出来上がった。このグループだったのだ。

 そんなグループが、その日もいつもと同じ時間に通学していた。

 最初の頃は、道の横にある、発掘現場のその場所を、気にしながら歩いていた。

 なぜなら、そこは、結構急な断崖外絶壁のようなところになっていて、手すりを持って歩かないと、危ないと思えるくらいであった。

 本当に最初の頃は、

「こんな怖い道、まともに歩くのはきつい」

 と言われていたのだ。

 だから、子供たちは反対側の道を歩いていたのだが、そちらは、今度は人通りが多くて、却って危ないということで、発掘現場を危険のないようにシールドを貼り巡らせることで、安全を図ったのだった。

 シールドなので透明になっていて、

「下は見えるが、危険はない」

 というところであった

 そんな道なので、最初こそ、違和感があった子供もいたが、今は誰も気にもしていない。そんな怖い場所だなどという意識もなく、横目には見えているが、それを発掘現場だとわざわざ意識している子供もいなかったのだ。

 だが、あまりにも慣れてくると、たまに、意識することもあるようで、その日は一人の男の子が、気が付けばそこから、崖になっているところを覗き込んだのだ。

 その子にしてみれば、

「最初から、意識をしていたも知れないな」

 と思ったのだが。後から思えば、どうやらその時、

「断崖絶壁の下の方から、光が差してきた気がした」

 というのだった。

 もちろん、下が光を発するなどなんだろうから、

「朝日が反射した」

 ということになるのだろうが、そのことを後になって思い出すと、意外と、他の子供たちも、

「俺も俺も」

 と言い出したのだ。

 やはり、意識らしいものはあったということか。

 そんな下を見ると、その子が急に歩くのを辞めた。

 他の子は、その様子を違和感だとは思っていないようで、ただ、もう一人が彼の目線の先を無意識に見ると、

「あっ、あれは」

 といって、何かを見つけたようだった。

 最初は、何かが光ったような気がしたのだ。

 その光り方というのが、一瞬光っただけで、後は、それほど感じなかったのだ。

 しかも、直視した時に見えた光ではなく、見えた瞬間には、明後日の方向をみていたのだった。

 だから、

「あっ」

 と気が付いた見た瞬間には、すでに遅く、

「気のせいだったのか?」

 と思っていると、

「今のは何だったんだ?」

 と一人の少年が、そういうのだった。

「気のせいだったわけではない」

 と一人が感じたが、すぐには声を出すことはできなかった。

 しかし、気がつけば、まわりの皆、ある一点を明らかに眺めている。その様子を見ているのだが、見るからに、

「凍り付いた様子であり、決して止まっているわけではないのに、その様子が、色を失っているということから、凍り付いているように見える」

 というようなものであった。

 そんな様子を見ていると、

「誰かが何かを言わないと、このまま凍り付いたままになる」

 と思った。

 かといって、言い出しっぺが自分になることを恐れている。

 つまり、

「その場の雰囲気を壊すことを恐れている」

 ということであった。

 壊してしまうと、何かの怨念がのしかかるかのように感じるのだった。

 もちろん、そんなことはないはずだし、もしその呪縛を受けるとすれば、

「最初に発見した人だ」

 と言えるだろう。

 だか、それが誰なのかというのが、この中で分かるはずもない。だから、皆それぞれ怖がっていることで、

「最初」

 になりたくないということであろう。

 そんな中において、勇気を出して一人の男の子が、

「警察」

 と言い出したのだ。

 きっと、その子が一番最初に、金縛り状態から脱することができたのだろう。

 それを思うと、皆、

「最初に抜けたのが俺だったら、俺が声を出していることになるんだろうな」

 と感じたが、そう思うと、それまで感じていた、

「呪縛」

 というものが、

「夢幻のようなものであった」

 と言えるのであろう。

 それを考えると、警察にさっさと電話をした少年、

「彼がこの中でのリーダー格だ」

 といってもいいだろう。

 敢えて、リーダー格というものを決めていなかった。一応班長を決めないといけなかったが、

「不公平になる」

 ということで、恨みっこなしの、じゃんけんで決めたのだった。

 ただ、そのことを言い出したのも、その子であり、

「最初から、彼にしておけば、何も問題なかったんだろうな」

 と思えたのだった。

 それが、不公平というものを作るという意味では、本当に、

「恨みっこなしだった」

 といってもいいだろう。

 実際には違う子がリーダーにされたが、ここまでの決定の時にはいつも、この子だったということを、後になって気づかされるということが多かったのだ。

「まあ、これでいいだろう」

 というのが、彼らの班だったのだ。

 彼らが見つけた時、まわりには、数人の人たちが、通勤通学に勤しんでいた。その人数は、そんなに多くなかったような気がする。そもそも、このあたりを通るのは、学生が多く、駅に向かうバス停とは、少し離れたところに位置していたのだ。

 だから、少し少年たちの様子がおかしいということに気づく大人は少なかった。

 いや、気付いたかも知れないが、その様子を横目に見ながら、

「俺には関係ない」

 と思って、余計なことを考えずに、足早に学校に向かったのかも知れない。

 彼らが狼狽えはじめて少ししてのことだった。ちょうど通りかかったのが、学校の先生だったのだ。

 先生は、生徒の様子がおかしいことに気づいた。

「おい、お前たち、どうしたんだ?」

 と、後ろから声を掛けられ、それぞれに振り替えると、皆それぞれに、何とも言えない不思議な表情をしていた。

 しかし、実際に感じたのは、

「皆、何か普段は見ることのないような何かを見つけたような気がする」

 というものであり、その直感を、後で刑事に聞かれた時も、そう答えたのだった。

「先生、あそこ」

 といって、生徒の一人がラミネート版の向こうを指さした。

 先生は、覗き込むようにしたが、すぐには、暗くて、よくわからなかった。しかも先生は、高所恐怖症の気もあるので、余計にそう感じたのだろう。完全に腰が引けていて、下を覗き込んでいるつもりでも、半分は視線だけを向けているだけで、顔は明後日の方向を向いていたのだ。

 ただ、確かに言われてみれば、何か白いものが、薄暗いその場から見えたのだ。それが、帽子のようなものだというのが分かったのは、少ししてからだった。

 そう、白くて丸いものが、そこには落ちている。

「とりあえず、警察に通報だ」

 ということで、先生はスマホを取り出して、警察に通報した。

 先生はとりあえず、

「警察には通報しておいたので、君たちが学校へ行きなさい」

 ということで、生徒を学校に行かせて、警察の到着を待つことにした。

 もちろん、簡単にであるが、生徒には発見した時の様子と、発見した大まかな時間を聴いておいた。

 とにかく驚きで時間的な感覚など覚えているわけではないだろうが、生徒たちが、

「大体いつも何時頃にここを通るか?」

 ということくらいは、分かるだろうということ、聞いておいた。

 その時間から逆算すれば、先生が通り過ぎるはずだった時間の、約5分くらいということになる。直線距離にすれば、先の方にかすかに見えるかも知れないというくらいの距離だっただろう。

 もちろん、その間に、何組もの生徒が通り過ぎている。誰も彼らの様子がおかしいということに気づかなかったのだろうか?

 先生は、そう考えたが、先生も、自分が担任だから、生徒の異変に声をかけたのだし、まったく関係のない人であれば、

「果たして、声を掛けたりなどするだろうか?」

 と考える。

 そして、

「そもそも、生徒たちの異変にも気づいていないかも知れない」

 とも思った。

「それほど、他人が何をしていようが、気にしない世の中になったのか?」

 とも思ったが、こんなことは今に始まったことではなく、そんなところで何かが起こっているなどと思いもしないだろうから、下手に声をかけて、

「学校や会社に遅刻したら、バカバカしい」

 と思ったことだろう。

「相手が子供だから」

 というわけではない。

 相手が大人だって同じことだ。

 大人も子供も変わりない。本当に、このあたりで、何かが起こったという話を聴いたこともなかった。

 しかも、ラミネート版が張り巡らされていて、その向こうは発掘現場だ。少なくとも、自分たちとは違う世界のことである。

 警察がやってきたのは、通報してから、15分くらいだった。とりあえず、110番したが、何がどうなっているのか、説明もつかないので、とりあえず来てもらうことにした。

 先生は、その間に学校に連絡を入れ、遅れる旨の話をし、学校側も、本人が訳も分からない状態にて、承知するしかないという状態だったのだ。

 そんな状態において、社会人になってから、いや、学生時代にも、こんな不可思議な緊張感は初めてだった。

 小学生の頃は、結構いろいろなことに興味を持つ少年で、

「もし、自分が小学生の頃だったら、あの子たちと同じで、俺が一番最初にこの状況を見つけたかも知れない」

 と感じたほどだった。

 先生の頃も、子供の頃は集団登校だった。

 先生の頃の方が、正常はおかしな時代で、何しろ、時代的には、

「世紀末」

 と言われた時代、世情がややこしい状態だった。

 その世情というのは、恐怖を煽るような、まるでホラー小説的な猟奇犯罪も、結構あり、「猟奇犯罪と世紀末というものに、何か関係があるのか?」

 ということを思わず考えさせられてしまうのだった。

 最近でも、猟奇犯罪というのが減ったわけではない。猟奇犯罪というよりも、凶悪という意味では、いろいろ増えてきた。

 それも、

「動機なき殺人」

 というのが多くて、特に犯行が残虐になってきたのは、通り魔的な犯罪に見えるからだった。

 しかし、そういう意味では、今の時代は、通り魔というよりも、被害者と加害者の間に何らかの関係があり、しかも、その殺し方が、いかにも恐ろしいものが多かった。

 ナイフで突き刺す時など、何度も何度も刺したり、殴る蹴るなど、当たり前の行為のようだった。

 だから、殺された人も、

「まさか、自分が殺される」

 などということを分かっていたのだろうか?

 と感じるのだった。

「気が付けば死んでいた」

 という言葉が、似合うというもので、

「殺されたことも分からない」

 というのは、昔のドラマなどであったような気がする。

 そのドラマというのは、死んだ人が、

「死後の世界」

 へ行く前に、それぞれの門があるというのだが、特に、

「変死」

 だったり、

「殺された」

 という人が行くところの門の前にいるという人が主人公だった。

 そこにやってきた人が、自分が殺されたということどころか、死んだということすら分かっていないようだった。

 だから、まずは、

「本人が死んだ」

 ということを自覚させるところから始まるのだが、本当に死んだ人は、

「自分が死んだのだ」

 ということを認識しているものなのだろうか?

 それを考えると、死んだ人に、

「どうやって死んだのか?」

 ということを思い知らせるのだから、

「あまりいい役ではない」

 といってもいいのかも知れない。

 それを思うと、生徒の代わりに、警察と相対しないといけないと思うことで、憂鬱にならないまでもない。

 しかし、

「これも先生としての仕事だ」

 と思うと、それも仕方ないことなのではないかと思うのだった。

 警察が、やってきたのは、その時だったのだ。

 まあ、15分くらいというと、普通にそんなに長い待ち時間というわけではないのだろうが、気が付けば、来ていたのだった。

 しかし、その感覚は、15分よりもかなり長く、その長さは、

「一度、感覚がマヒするまでになっていて、それが一周して戻ってきた」

 というほど、大げさに聞こえるほどだった。

 だから実際には、1時間近くも待っていたような気がするくらいで、

「学生の頃、好きな女の子をデートに誘い、来るかどうか分からないという気持ちの中で、待たされていた」

 というくらいの気持ちになっていたのだった。

 あの時と、今回での一番の違いとして、

 彼女に対してであれば、

「いつになってもいいから来てほしい」

 という思いと、

 警察に対してであれな、来るというのは確定しているので、

「なるべく早くきてほしい」

 という思いであった。

 つまり、

「待ち人ではあるが、来る来ないの問題から、さらに、来るのが分かっている場合は、とにかく早く」

 ということで、結果、求めているものがまったく違うということであろう。

 来てほしいということを中心に考えていると、待っている間がリアルに、

「なかなか時間が過ぎてくれない」

 と感じるが、

 来るのが分かっているものに対しての待ちわび方というのは、感覚がマヒしていて、気が付けば来ていることに、自分の中で苛立ちを覚えることで、結果、

「もっと、どうして早く来ないんだ」

 という苛立ちに繋がるのだった。

 さて、そんな精神状態の元、警察がやってくると、今度は別のスイッチを入れなおさなければならない。

 何と言っても、相手は国家権力だ。

 しかも、こっちが呼びだしたのだから、待たされても仕方がないと思うと、それまでの苛立ちを一度リセットさせて、刑事と相対するということに集中しないといけないだろう。

「まるで、刑事ドラマみたいだ」

 と、刑事ドラマを見ている時は、

「一生の中で、警察と相対するなど、一度あるかないかだろう」

 と思っていたので、

「そんなあるかないか分からない確率のものを、ずっと気にしているほど暇じゃない」

 ということで、刑事ドラマを見ていても、完全に他人ごとだった。

 昔の刑事ドラマなどを有料放送でやっていたのを見たこともあったが、今では考えられないような、恫喝的な取り調べなど、完全に他人事としてしか見ていなかったのだった。

 何と言っても、今と一番違うのは、

「取調室の汚さ」

 だった。

 最近の取調室は、今の刑事ドラマを見れば分かるが、昔の取調室というと、まるで、監獄と同じようなところで行われていて、机の上には、タバコの吸い殻が何本も捨てられていて、刑事は、タバコを咥えばがらの取り調べをしているくらいだったのだ。

 そんなことは、今の時代ではありえない。何といっても、室内が禁煙だからだ。

 昔の取調室では、取り調べを受けている人間が、タバコを吸えるわけもない。吸えるとすれば、

「白状した後」

 ということで、刑事の恫喝や泣き落とし、さらには、暴力など、昔の取調室というと、

「本当に何でもあり」

 だったのではないか?

 と思わせるものだった。

 刑事というものが、どんなものなのかということを、今と昔の違いからも見ることができる。

 刑事や検察というのは、弁護士や容疑者を相手に、昔のような、

「力技」

 は通用しないということである。

 法曹界も、いろいろややこしいというものだ。

 警察が来ては見たが、どうも、

「ここは、簡単に入れる場所ではないようだ」

 と警察が言っていることもあって、電話でいろいろ許可を取っているようだったが、

「そんなことを悠長にしていて大丈夫なのか?」

 というのが、先生の率直な気持ちだった。

 それでも、警察は必至になってあちこちに連絡を取り、確認していたのだが、そのうちの一人が、先生のそばによってきて、事情を聴こうということだった。

 先生の方も、何も目新しい情報を知っているわけではない。

「生徒たちが、何か変だといって、あのあたりに集まっていたので、とりあえず事情も分からないまま、私が通報しました」

 ということだった。

「他の人は気づかなかったのに、生徒たちはよく気づきましたね?」

 と言われたので、

「ええ、何か眩しいものが見えたというのが、生徒たちから聞いた話です。私が見ても、何か真っ白いい、そう帽子のようなものが見えたので、それで警察に急いで通報したというわけです」

 と先生は、

「急いで」

 という言葉を強調しながら言ったつもりだった。

 警察は先生に対して、

「そうですか。時間的にはどれくらい前だったんですか?」

 と言われて、

「そうですね、私がいつもこのあたりを通りかかる5分前くらいを生徒が通り過ぎていますので、たいだい、今から30分くらい前じゃないでしょうかね?」

 というと、

「すると、8時ちょっとすぎくらいということになりますかね?」

 と言われたので、

「はい、そうです」

 と答えておいた。

「先生は、この異常をまったく意識していなかったんですか?」

 と言われて、

「はい、私は元々が高所恐怖症なので、なるべく発掘現場は見ようとは思わなかったんですよ。いくらラミネート版が貼ってあるとはいえ、気持ち悪いものは、気持ち悪いだけですからね」

 と先生は言った。

「なるほど、分かりました」

 と話をしている間に、連絡を取っていた他の刑事に、

「迫田刑事、連絡が取れて、中に入ってもいいということになりました。ただ、中に入るにはカギが必要だということで、大至急、カギを持って来られるそうです」

 というのだった。

「どれくらいで来ると?」

 と聞くと、

「ハッキリしたことは分かりませんが、大体、15分くらいではないかということでした。大学から来るということでしたので、ラッシュの時間も過ぎてるので、やはり15分くらいで到着すると思います」

 と、伝えてきた刑事が、自分の意見を言った。

 迫田と呼ばれた刑事も、そのあたりのことは承知しているようで、

「よし、わかった」

 と答えただけで、少し考えているようだったが、

「あ、先生ありがとうございました」

 といって、踵を返すように、迫田刑事は、他の刑事のところに向かった。

 先生の方は、

「お役御免」

 ということで、このまま、学校に向かった。

 すでに、一時限目の授業は始まっていて、先生のクラスは、当然のごとく、

「自習の時間」

 となっていたのだった。

 警察の方では、現場にて、カギを使って中に入った。明かりはラミネートなので、しっかり入ってくる。確かに見てみると、底には白い帽子が置いてあり、

「ジャングルへの探検隊」

 と思しき人が入っていくような時にかぶる、白い帽子がそこにはあった.。

「まるで、ヘルメットのようだ」

 ということで、カギを持ってきた人に聞いてみたが、

「私は、発掘調査には、直接かかわっている者ではないので、ハッキリしたことは分かりませんが、たぶん、発掘関係で使うヘルメットとは違うと思います。うちで扱っているものは、特注で、大学の名前も入っているものなのですが、これは大学の名前が入っていない。ひょっとするとですが、これもどこかの特注で、ということは、このようなヘルメットを常時使っているという、こういうことには詳しい人なのではないでしょうか?」

 というのだった。

「なるほど、まずは、行ってみましょう」

 ということで、刑事が中に入ってその帽子を取ると、

「わっ」

 という声が聞こえてきた。

 この場所を覗き込んでいるのは3人いたが、声を発したのは一人だった。

 それは、大学から来た人で、このような光景にはまったく慣れているはずのない人で、さすが刑事二人は、声を出すことはなかったが、それはあくまでも声を押し殺しているだけであった。

 帽子を取ったその先にあったのは、やはり真っ白い服を着た男性で、それこそ、

「何かの探検隊」

 の雰囲気になっていたのだ。

 刑事の顔に、さっと緊張が走った。

 見る限り、血の気が引いていて、まったく動く様子もない状態に、大学の人も、見た瞬間、

「死んでいる」

 ということが分かった。

「これはひどい」

 と思ったのは、何とも言えない嫌な臭いがしてきたからだった。


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