第17話 征討①

「応援されてるし、頑張るとしますか」


 ︎︎【危険区域】への移動中、妹の配信を見ていた僕はそう呟いて車を降りた。


「ありがとうございました。迎えには来なくていいです」


 ︎︎家まで歩きで帰れない距離では無いし、【冒険者】じゃないただの一般人である運転手さんをこんな危険なところに何回も来させる訳にはいかないからね。


「気をつけてくださいね、妹さんが待っているのでしょう?」


 ︎︎大丈夫です、と僕は頷いて先に見えるモンスターの元に走って切りつけた。


「ギィ……」


「やっぱりすごいな、これ」


 ︎︎この短刀をくれた雫先輩に感謝して、どんどんモンスターを切りつけていく。今まで使ってた剣ならこんなに容易くモンスターを切り裂くことは出来なかっただろう。


「雑種が迷い込んだか」


 ︎︎ヴァンパイアロードって人間を下に見ているやつしか居ないのかな? 人間が下ならとっくにこの世界はヴァンパイアロードの支配下になってるだろう。まぁモンスターの中で上位のモンスターなのは変わりないけどね。


「どの個体も雑種、雑種ってうるさいなぁ、もう」


 ︎︎一撃で仕留めるつもりで放った一撃だったがさすがはヴァンパイアロード、そう簡単に倒せやしないか。ヴァンパイアロードとは言ってもイレギュラーによって獰猛化してる個体だからハイロードぐらいの強さはあるかもしれない。


「雑種なのは間違いないだろう?」


「その雑種の攻撃を食らってるお前は雑種と同等ってことでいいかな?」


 ︎︎システムによって行動が決まっているかのようにヴァンパイアロードは憤慨して僕に向かってスキルを放ってきた。ヴァンパイアロードを大量に討伐してきたわけじゃないが、今までの経験上、煽ったらスキルを使ってくる個体しかいなかった。

 ︎︎もちろん僕に魅了は効かないのでそれに対して驚くのもテンプレである。


「これあげる」


「は……?」


 ︎︎僕が投げた瓶はヴァンパイアロードのすぐ近くで割れ、特に何も起きない。瓶に気を取られてるうちに僕は近づいてその首に一太刀いれた。


「舐めた真似をするな、雑種。面白い、女王様に報告させてもらう」


 ︎︎そういってヴァンパイアロードは姿を消した。……女王様とは誰だ?


 ︎︎人間も同等の知識を持つヴァンパイア達なら組織ができていても不思議じゃないが、ヴァンパイアハイロードより上の階級が居るとするのなら正直まずいかもしれない。ハイロードがAランクだし、一応その上のSランクもあるけど、Sランクなんて【冒険者】側にもモンスター側にもそこまで居ない。

 ︎︎モンスター側ならネームド個体、【冒険者】側なら会長ぐらいだろう。


「手がかりもないし、考えるだけ無駄か」


 ︎︎あ、一応先輩たちにしばらく部活に来れないこと言っておかないと。


『今【危険区域】に居ます、部活には行けません』と雫先輩に送る。雫先輩に送っておけば他の人にもだいたい伝わるでしょ、ダンジョンに入り浸ってる人以外なら雫先輩が一番発言力あるし。


 ︎︎とりあえずここら辺にはもうモンスターは居なそうだし、さらに奥に進んでいくとしよう。奥に行ったら元からここに来てる人たちも居るでしょ。





 ︎︎奥に進んで行くにつれてモンスターの死体とか、時には先に来てた人がが使っていたであろう剣があったり、戦った痕跡が多く残っていた。道中モンスターには遭遇したけど人は見なかったのが少し気になるところだ。


「なんで一人も居ないんだよぉ……」


 ︎︎【危険区域】は何ヶ所かあるけどさ、その分多くの【冒険者】が出張に来てるはずなんだけどね。僕は今年【冒険者】になったばっかりだしどんな人が行ってるのかは知らないけど、ここまで遭遇しないってことある?


 ︎︎いやまぁ、こんな危険なところに人が来ないのが一番いいんだけど、さらに【危険区域】が広くなったら溜まったものじゃないからね。普通に日本が占領されてモンスターとの戦争になりかねない。


わたくしと一緒に踊りましょう?」


 ︎︎危険を感じて僕は後ろに飛んだ。攻撃はされなかったものの、絶対間合いには入っていただろうし、下手したら使わないといけなかったかもしれない。


「人間……じゃないよね?」


「半分は人間ですわよ」


 ︎︎シアみたいに人体実験で生まれたってことかな……でもここにいるってことは前会長の仕業じゃないだろう。人体実験以外でこいうキメラが生まれることってあるのかな……ダンジョンなんかが生まれたこの世の中だしあるのかな?


「少し話し合いをしましょう、この場所について」


「その言い方からして、君がのここを統括してるってことでいいのかな?」


 ︎︎目の前の多分ヴァンパイアが頷くと、次の瞬間には別の場所に移動していた。周りにはヴァンパイア達が沢山居た、下手に動いたら直ぐに使わないといけない気がする。

 ︎︎この光景でわかった、今僕の目の前にいるこのヴァンパイアこそがさっきのやつが言ってた王か。


「単刀直入に言いますわ。こちらの住処を荒らすのは辞めて貰えます?」


「そう言われても元々は人間が住んでた場所だからね。君がモンスターを統括して人間が襲わないって言うのなら会長も考えるかも」


 ︎︎今こうして話せてるし、モンスターという脅威が僕ら人間に危害を加えなければ共存だって普通にできる。まぁ知能のないモンスターもここにはいるし、夢みたいなものだろうけど。


「絶対襲わない……というのは無理ですわね。血液が私たちヴァンパイアには必要ですから」


「じゃあ交渉は無理だ。それで、僕を逃がすつもりはないでしょ?」


「そうですわね」


 ︎︎次の瞬間、ヴァンパイアの王が襲ってくるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る