第15話 出張だそうですよ!?
︎︎翌日、僕はスマホのアラームではなく玄関のチャイムの音で目が覚めた。こんな朝から僕の家に来る人といったら一人しかいないけど、今日はちゃんした用事があって来たはずだから今日は許そうと思う。
「早めに来るとは思ってましたけど、五時ってなんですか五時って。朝から来るとしても七時とか八時……妥協しても六時に来るのが普通だと思うんですけど?」
「同じ学校に通えるようにしましたし、クラスも同じになるように話をしたので許してくれませんかね?」
︎︎シアの学校の件に関しては全面的に会長やおかげだから元から許すつもりではいたけど、こんな朝から来たことを悪いとは思ってないんだね。会長になってから時間関係なく呼び出されることが多すぎて感覚狂っちゃってるなこの人。
「こんな時間に来たところでシアも礼華もまだ寝てますよ。というか、ちゃんとご飯食べてから来てますか?」
「出張先からそのまま来たので全然食べてないですよ?」
「不健康ですねぇ……。今時間ありますよね? 作ってくるので待っててください。一応シアの保護者なんですから、倒れられると僕も困ります」
︎︎会長になって仕事量が増えたのはわかるけど、ちゃんとご飯を食べないと仕事も進まないでしょ。協会の仕事をしたことはないけど、ご飯を食べる時間が無いほど忙しいわけないよね? 依頼で数日間張り込みすることがある【冒険者】の方が食べる時間が無いほど忙しいと思うけどね。
「別に料理できないわけじゃないんですからちゃんと作りましょうよ。そうじゃなくてもせめてコンビニで買ってきて食べるとかあるじゃないですか」
「出張先にコンビニどころか休む場所なんて無かったんですからしょうがないじゃないですか」
︎︎僕は普通に東京とかに行ってると思ってたんだけどなぁ、そりゃあご飯なんて食べれないよね。コンビニどころか休む場所がない所なんてこの日本という国で数箇所しかない。
︎︎イレギュラーによってモンスターが地上に出て、そのまま放置されている【危険区域】。その場所には人なんて居ないし、コンビニはあるかもしれないがモンスターの巣窟である。
︎︎【冒険者】に制圧の依頼が来て、大人数で向かうことは多々ある。現に大学の先輩たちは僕が入部する前から今もずっと【危険区域】で戦っているはずだ。
︎︎それより、そんな歩いてたら怪我するようなところで会長は何をしに行ってたんだろう。普通に協会のトップが出向くような場所では無いと思うんだよね、歩いてるだけで怪我するような場所だし。
「そんなところに何しに行ってたんですか……【冒険者】ですら中々行かないですよあんなところ」
「その【冒険者】の様子を見に行ってたんですよ。残念ながら殉職してしまった方が出てしまったので……」
︎︎そう言うと会長は一枚の写真を僕に見せてきて、「天乃江さんが通っている大学の先輩です」と呟いた。写真の人は腕がちぎれて、血溜まりの真ん中に寝転んでいた。
︎︎唯一の救いと言えば僕がこの先輩と関わりがなかったことだろうか、そうじゃなければ絶対に僕は吐いてたし、精神的に動けない状態になっていたかもしれない。
「こんなものを見せて申し訳ないんですけど、まだ新人である天乃江さんにはやり直せるチャンスがあるんです。ここでひとつ聞きます、これを見ても【冒険者】を続けたいと思いますか?」
「これが”一般の【冒険者】”の末路だと言うのなら、尚更僕は辞める訳にはいきませんね。僕は普通の【冒険者】じゃないみたいですからね」
「提案なんですけど、行く気ありますか?」
︎︎まぁ普通じゃない僕は行くべきなんだろうけど、そのためにはこっちも色々条件がある。
「条件として、礼華にはただの出張という事にしておくことと、礼華の世話を任せたいと思います。礼華は僕のことを心配すると思いますが、絶対に帰ってくるとだけ言っておいてください」
「わかりました……。死なないでくださいね」
︎︎そろそろ二人が起きてくるだろうしこの話はやめにしよう。【危険区域】に行くのは初めてだけど、さっきの写真からもわかる通り生半可な覚悟じゃ死ぬ場所だ。
︎︎帰る場所があって、自分を待つ僕が死ぬ事は許されない、僕は何がなんでも生き残って帰ってきてやる。
「使いすぎには気をつけてくださいね。いつ異変が起こるか分からないんですから」
「使ったのは地下室に行った時の一度だけですよ。僕はそれに頼りっきりで生きてるわけじゃないので、本当にやばい時にしか使いませんよ」
︎︎会長と一緒にシアが帰ったあと、僕は会長から今回の出張に関しての説明が送られてきていた。報酬は全く気にしてなかったけど、とにかくとてつもない額だったとだけ言っておこう。
︎︎必要な物に関しては全部協会が用意してくれるらしいので、僕が持っていくのはあの短剣と素材を入れるリュックくらいかな。
「お兄ちゃん、出張っていつ帰って来るの?」
「それは分からないかな、でも絶対に帰ってくる。一週間か、一ヶ月か、どれほど掛かるか分からないけど……僕は必ず礼華の元に帰ってくるから」
︎︎僕はそっと妹の頭を撫でた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます