第11話 休日だそうですよ②
︎︎妹の服はまだいい、問題なのはシアの服だ。普段から協会の服しか来ていないシアに似合う服っていうのが想像つかないし、前提としてしっぽを隠せないといけないのだ。
︎︎狐みたいな大きいしっぽじゃなくて、猫のしっぽだからまだ隠しやすい部類に入るとは思うけどね。
「お兄ちゃん、これ似合う? 似合うよね、知ってた。お兄ちゃん、私はこれでいいからシアちゃんのを真剣に決めてね」
「元からこれにするって決めてたのなら僕にわざわざ聞く必要はなかったのでは……?」
「雰囲気的に聞いておこうと思って?」
︎︎……それよりシアの服ってどんな感じだろ。シアが着てる協会の服は会長と副会長の趣味でロングスカートのメイド服なんだよね。
︎︎ただしメイド服なのはシアだけで他の人は私服である。まぁこれが仕事服だって言えば地下室にずっと居たシアは納得するよね。
︎︎シアはメイド服がどんな物なのかもわかってないから別に恥じらいとか全くないからね。
「気慣れた感覚ですにゃ。天乃江様、似合ってますかにゃ?」
︎︎シアが試着室出てきてそう言うが、確かにロングスカートとワンピースって似てる気がする。それにちゃんとしっぽも隠せるし、シアに似合ってもいるからこれがいいかもしれない。
「うん、似合ってるよ。それに協会の服と似たような服だし、気慣れた感覚なのはそういうことじゃないかな?」
「確かに似ている気もしますにゃ。天乃様、これがいいですにゃ!」
︎︎案外すぐに決まったことに安堵していると、隣で夏月先輩の唸り声が聞こえてきた。
「こっちも似合うし……いやこっちも捨て難い」
「大変そうですね」
「そっちはもう決まったからって他人事みたいに言わないでよぉ。雫さんのために僕は頑張ってるんだからさぁ……」
︎︎夏月先輩は雫先輩に一途だから中途半端に選ぶのは嫌なんだろうなぁ。まぁそういうところが好きって雫先輩がこの前言ってたし、部外者の僕が口出しするのは良くないよね。
︎︎同じ大学の同じ部活の人同士で付き合うってテンプレだけど一番いいよね。そういう僕は恋愛と全くの無縁なんだけどね、好きな人も居ないし気になってる人も居ないし。
「よし、決めた。これ! これが一番雫さんに似合ってるよ!」
「おー、夏月くんにしては珍しくセンスがいい。それじゃあうちはお会計してくるね」
「うぐぅ……!?」
︎︎ものすごい鋭いナイフが夏月先輩に刺さったなぁ……。あれ、そういやさらっとシアが選んだ服も持って行かれたじゃん。
︎︎普通にさっきの場で僕が払うって言っても雫先輩は払わしてくれなさそうなんだよね。
︎︎ご飯とか、まさに今みたいな買い物の時も気づいたら払われていて僕が払ったことは無いんだよね。いつも申し訳ないから何とか払おうしてるんだけど、いつも「可愛い後輩は先輩に甘えておけばいいんだよ」と言われて払ってくれる。
「夏月先輩、雫先輩を止めてくれません? 毎回払ってもらってて申し訳なさでいっぱいなんですけど」
「雫さん……というか僕らの代からしたら天乃江が最初の後輩だからね。普通にダンジョン攻略部に入るのって試験を受けたり、色々やらないといけないことがあるし、そもそも危険で一年生は居ないから唯一の後輩なんだよ、天乃江は」
︎︎【冒険者】は成人になったらできるようになるから高校三年生の人は試験を受けられる。まぁそもそも危険だから試験を受ける人の方が少ないし、今年はこの部活に入る一年生が居なかったというわけだ。
「唯一ってことは無いですよね? 僕と一緒に入った人がいるじゃないですか。仲が良いわけじゃなかったですし、会うことも入った時からなかったので名前は知りませんけど」
︎︎僕は部活に入った時の光景を思い出す。僕ともう一人だけ入部して、そのもう一人は無口で何を考えてるか分からなかった記憶がある。
︎︎その人も他の先輩みたいに部室に来てないからずっとダンジョンに入り浸ってるのかな?
「そういえば天乃江だけには言ってなかったね。あいつは、彩は……」
「不穏な空気にするのやめてくれません? その彩さんがどうなったか想像出来たんですけど」
︎︎ダンジョン攻略部に入っているということは【冒険者】であるということなのだ。それで最近来てない、夏月先輩の寂しそうな口調、この二つでその彩さんがどうなったかなんて想像できた。
︎︎【冒険者】という職業柄仕方ないことなのかもしれないけど、自分と同期の人が居なくなるのは残念だなぁ……もう少し仲良くしたかった。
「よくある事だし、寂しいと僕も思うよ。でも彩は戻ってこないからね、まぁでも幸せになって欲しいよ」
「え、幸せになって欲しいってどういうことですか?」
「いや、普通に付き合い始めたからダンジョン攻略部を辞めただけだけど。良い人だったから辞めて寂しいって話。そういう考えになるように誘導してごめんね?」
︎︎これは後で雫先輩に報告かなぁ? あんな言い方をされたら誰でも僕と同じ考えをするでしょ。そうかぁ……周りの人って結構付き合ってるんだぁ。
︎︎僕も二十歳だし、そろそろ恋愛に興味とか持った方がいいのかなぁ……?
︎︎とりあえず会計を終えた雫先輩にお礼を言った後にさっきのことをものすごく丁寧に説明した。
「な、つ、き、くん?」
「はい、すみませんでした」
︎︎夏月先輩が怒られているのを、僕はシアと妹と一緒に座って眺めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます