第5話 ランクが上がるそうですよ!?

 ︎︎シアのしっぽをもふもふしてる妹を横目に、僕は会長と本題を話し始める。


「ひとまず、ヴァンパイアロードの討伐お疲れ様でした。素材の売却金に関しては後でお振込みしておきますが、あなたはそれよりランクがどうなるのかの方が気になりますよね?」


「まぁ僕自身妹を手伝うためだけに【冒険者】してますし、正直他の人達に目をつけられたくないのでランクは上げないで欲しいってのが本音ですかね」


 ︎︎当たり前だがランクが上の人間ほど数が少ないので、その分他の【冒険者】から注目を集めることになるし、より高難易度の依頼も回ってきてしまう。その分Fランクなら一番下だし、依頼なんて他の人が終わらせているので僕は配信のカメラマンに集中できるのだ。


「そう言われましても、配信で広まってしまいましたので……。ランクを上げないというのは不可能に近いと思います」


「せめてCくらいで妥協してくれませんかね? そうじゃないと配信の手伝う時間が減りますし……そもそも僕はまだ学生ですから、上げすぎたら他の【冒険者】が黙ってないですよ」


 ︎︎僕はまだ二十歳、言ってしまえば【冒険者】の中で見たらまだまだ新人なのだ。自分が何年も【冒険者】をしてきても辿り着けなかった領域に、軽々辿り着く新人がいたら多少なりともムカつくだろう? つまりはそういうことである。


「特例で上げるのは一ランクだけ……ということにしましょう。天乃江さんを敵に回すのはごめんですからね」


「別に要求が呑まれなかったからといって協会の敵に回る気はありませんけどね? ただ、依頼が来ても受けることはなくなると思いますけど」


 ︎︎何回も言うが僕はあくまで配信の手伝いをするために【冒険者】になったのだ。協会のサポートは役に立つが、絶対に必要というわけじゃないしいつでも協会は切り捨てれる。


 ︎︎協会のサポートというのは主に三つあって、一つ目はダンジョンで負った怪我の治療費は協会が払ってくれる。これだけでも十分ありがたいことだ、二つ目は住居の提供、三つ目は協会が経営してる飲食店の食べ物が割引で食べれること。

 ︎︎細かく言えば他にもいっぱいあるけど、特にありがたいと思うのはこの三つである。


「天乃江さんにはDランクに昇格させるために試験を受けてもらいます。こちらが指定したモンスターの幻影を討伐し、出てきた鉱石を持ってきてください」


 ︎︎僕と会長から説明を聞きながら部屋を移動して、【冒険者】になるための試験を受けた場所と同じ場所にやってきた。前の時もここでモンスターの幻影と戦ったっけ、本当にダンジョンが出現してから技術の進歩が早い。


「お好きな武器をお選びください、今回の相手は素早いので小回りが利く武器がおすすめですよ」


「それじゃあこれでお願いします。小柄な僕でも十分に振り回せるので、いつも使ってますし」


「分かりました、それでは機械を起動するので構えてください」


 ︎︎どんなモンスターが出てくるか分からないけど、モンスターには必ず弱点があって、そこを刺せば大体のモンスターは絶命する。Dランクの昇格試験だし、弱点に刺しても死なない程強力なモンスターは出てこないだろう。


 ︎︎まぁモンスターなんか人間の理解出来る範囲を超えてるから油断してたら普通に殺られる。


「でっか……」


 ︎︎幻影として出てきたのはグレートベアー、体長三メートルを超える超巨大のクマだ。デカい図体してる割には素早いし、そのデカい爪で殴られでもしたら怪我じゃ済まない。

 ︎︎まぁDランクの試験に出てくるのは、その長所の意味が無くなるほど致命的な欠点があるからなんだけどね。


「時間掛ければ掛けるほどこっちが不利になるし、さっさと終わらせてもらうよ」


 ︎︎僕はグレートベアーの背後に回って深々と持っていた剣を突き刺した。グレートベアーの弱点に関しては剣では届かないので何回も切り付けるしかない。


「欠点さえなければもっと高ランクモンスターだっただろうなぁ……。まぁ倒しやすいから全然構わないけど」


「お疲れ様です、やはりグレートベアーの欠点をご存知なんですね。ひとまずDランク昇格、おめでとうございます」


 ︎︎これからの配信は妹も一緒に戦うことになると思うけど、これ以上ランクを上げたくないし目立ちたくもないので少し自重しよう。ヴァンパイアロードの時点で手遅れかもしれないけど、しないよりはマシだ。





 ︎︎冒険者手帳のランクを変えてもらって、妹たちがいるところに戻ると妹がシアのしっぽを枕にして寝ていた。


「天乃江様、少し助けて欲しいですにゃ。しっぽを枕にされていて全く動けないですにゃ……」


「じゃあこのままおんぶして帰るよ。山本さん、配信を見るのはいいですけど、あまり僕のことを言いふらさないでくださいね?」


「俺は同業者の功績を称えてるだけさ、しかもまだ二十歳の新星だ。何年もやってる身からしたら優秀な奴には興味が出るってものだ」


 ︎︎一週間に二回の配信しかしないし、休んでる間に僕の話題ぐらい消えてくれるだろう。まぁ、ネットはどうか知らないけど、山本さんも言ってたし【冒険者】内では無くなるだろう。


 ︎︎まぁ次は大学での話題に巻き込まれるんですけどね。大学にも普通に妹の配信を見てるやつがいるんだよねぇ……。


 ︎︎少し明日が来ないで欲しいと思ったが、とりあえず僕は妹をおんぶしながら家に帰った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る