第4話 獣人だそうですよ!?

「カチューシャが動いてる……」


「あー違う違う。あれはカチューシャじゃなくて本当の耳だよ、礼華は事情を知らないから信じれないと思うけどね」


「触ってみますかにゃ?」


 ︎︎シア、その頭と腰の耳としっぽは紛れもない本物である。僕とシアが出会ったのは僕が【冒険者】になってすぐの頃の話だ。





 ︎︎会長は結構狂っている人で、自らモンスターを捕らえに行っては秘密の地下室で実験を繰り返していた。そんなことを副会長が許さなく、その地下室に【冒険者】総出で突撃したんだ。

 ︎︎その地下室はとても広く、そこら中に血痕やモンスターの死体がころがっていたし、会長が実験で獰猛化したモンスターが居た。


「匂いだけで気分悪くなりますね……ここ。会長に関しては一回もあったことないんですけど、初めてが捕らえるためとは思いませんでした」


「会長は結構前から怪しまれてたさ。それと【冒険者】やってたらこれくらいの血の匂いぐらい慣れるさ」


 ︎︎更に奥に進んでいくと、先に突撃したであろう【冒険者】の死体をオオカミっぽいモンスターが喰っていた。そりゃあ会長を捕らえるためにこれだけの【冒険者】が投入されるわけだ、人道に反してる。


 ︎︎それにしても……結構奥に進んでるというのに会長が発見されないのは妙だ。僕は会長の姿を知らないから見つけようがないけど、他の人もいっぱいこの地下室にいるんだから既に見つかっていてもおかしくない。


「お前は下がってろ、Fランクが相手できるモンスターじゃない。かといって俺も、五体同時に戦うのは初めてだけどな」


「守りながらだと戦いにくいですよね? 僕のことは無視して大丈夫です。自分の身を守ることぐらいはできるので」


 ︎︎そんなこと言っても先輩は僕のことを気にするだろうし、僕はさっさとこの場から離れようかな。もちろん逃げるわけじゃない、もっと奥に行くだけだ。


「ここは任せましたよ、僕はもう少し奥に行って会長を探します」


「おい、危ないぞ!」


「大丈夫ですって。それなら今から証明しますよ」


 ︎︎僕はそのオオカミの隣を普通に歩く。もちろん獰猛化したそのオオカミは僕の肉に喰らいつこうと飛びかかってくるが、そのオオカミの歯や爪が僕の体に触れることは無かった。


 ︎︎試験官に、僕は特殊な人間だって説明されたっけ。自分の体について興味なかったからあんまり聞いてなかったけど。

 ︎︎まぁ、僕は妹の配信のために【冒険者】になっただけだからこの事は伏せてもらって、ランクは試験官とお話をして一番下にしてもらった。


「ここだけ異様に広い、しこれ以上奥には空間がないから会長が実験してたとしたら多分ここかなぁ」


 ︎︎それに、ここが一番血の匂いが濃い。できることならここからすぐに出たいけど、先輩にあそこを任せたからにはここの探索は僕がやらないと。


「普通にモンスターの死体とかゴロゴロ転がってるじゃん、匂い嫌だなぁ。……後ろの人、僕を殺そうとしてもそうはいかないよ?」


 ︎︎後ろから近寄ってきていたやつが振るった凶器は僕の体に当たる前に止まった。


「……あのおじさんじゃないですにゃ?」


「ん?」


 ︎︎ガラスの破片を持っていたのは獣耳としっぽが生えているモンスター? でもモンスターにしては人型すぎるし、おじさんって多分会長のことでしょ。


「そのおじさんっていうのは誰か知らないけど、とりあえずそんな薄着じゃ風邪引くからこれでも着ておいて」


 ︎︎うーん、不思議な子だけど無害みたいだし、会長のことを知ってるのは間違いないと思うから保護しよう。この子を連れてモンスターがいるここを探索するわけにもいかないし、一旦帰ろうかな。


 ︎︎まだ結構警戒されちゃってるなぁ……。おそらくこの獣耳っ娘は会長の実験で生まれたんだと思うけど、そのせいでまだ人のことを信じれないのかな。


「君の話は後でゆっくり聞くからさ、ひとまずここは危ないから僕に着いてきて。安心して、少なくとも僕は味方だから、君に危害を加えようとする人がいたら僕が何とかするよ」


 ︎︎協会から未知のものには近づいちゃいけないって言われてるんだけど、なんだかこの子のことは放っておけなかった。





 ︎︎他の人たちが殲滅してくれたのか、地上に戻る途中にモンスターは居なかった。直感でこの子を他の【冒険者】に見せてはいけないと思ったので上手い具合に服で隠しておんぶしながら移動した。


「ここなら誰も入って来れないし、話してくれるかな? 君があそこで何をされていたのか」


「私は実験で生まれた、人間とデスキャットの二つの遺伝子を持つ所謂キメラというやつですにゃ……。さっきは急に襲って申し訳なかったにゃ、改めて助けてくれてありがとうにゃ」


 ︎︎キメラって実在するんだ……いや、感心してる場合じゃないか。この子には色々聞き出さないといけないことがある。


「それで会長……じゃなかった、君を作ったおじさんは何処にいるか分かる?」


「ここにいたモンスター達に殺されましたにゃ」


 ︎︎自業自得って感じ、こんなことしてたんだからモンスターに殺されるのがお似合いなんじゃないかな。まぁ会長のことを知らない僕が言うのもなんだけど。


「とりあえず、副会長に君を保護するよう交渉してみるよ。君、名前は?」


「無いですにゃ」


「名前が無いと不便だし、どうしようかな?」


 ︎︎今まで実験だとか、穢れて醜い世界で過ごしてきて辛かっただろうし……これからは純粋に楽しく過ごして欲しいという思いを込めて……。


「君の名前はシア。うん、これがいい」


「シア……分かりましたにゃ。あなたの名前はなんですかにゃ?」


「僕は礼、天乃江礼だよ。よろしくねシア」


「よろしくお願いしますにゃ、天乃江様!」

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